EUによる炭素国境調整措置(CBAM)とは? 日本企業への影響を分かりやすく解説
欧州連合(EU)においてカーボンプライシング施策の一つである、炭素国境措置(Carbon Border Adjustment Mechanism:CBAM)が話題になっています。すでに2023年から対象事業者に報告義務を課すための移行期間が開始されており、2026年に本格適用が予定されています。これによって、対象製品の輸入事業者は、EU域内への輸入製品の生産に伴い発生したGHG排出量等の情報について、四半期ごとに欧州政府に提出することが義務付けられます。
本記事では、CBAMの概要や日本企業への影響について解説します。EU市場での競争力を維持・向上するため、ぜひ本記事を通じてCBAMへの理解を深めていただけますと幸いです。
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目次[非表示]
- 1.CBAMの施行背景
- 2.CBAMの対象事業者と製品は?
- 3.日本企業への影響
- 4.まとめ
CBAMの施行背景
欧州グリーン・ディールの達成に向けた気候変動政策「Fit for 55」の一環として、欧州委員会はCBAMを発表しました。その背景には、①GHG排出量削減に向けたEU 排出量取引制度(EU ETS)の強化や対象セクターの拡大によるカーボンリーケージと②EU域内で生産される製品の競争力低下の2つの問題に対応する必要があることが挙げられます。
つまり、EU ETSの強化や対象セクター拡大によって、EUで生産される製品には高い炭素価格が課せられることになります。コスト増加を避けたい企業が環境規制の緩い域外国に生産活動を移転させることで、自国の排出量が減っても域外での排出量が増えてしまう(カーボンリーケージ)懸念に繋がること、コストの低い輸入品が増加することで、EU域内で生産される製品の競争力が低下するリスクという問題です。
このような問題を解決するために導入された対応措置が、輸入される対象製品に対してEU域内と域外のEU ETSに基づいた炭素価格の差額分の支払いを課すCBAMです。域内生産品と同等の炭素価格を課すことで、EU企業の競争力を維持しながらも、カーボンリーケージを防ぐことができます。さらに、輸入事業者が炭素価格の負担を抑制するために、より排出量の低い対象製品を生産しているサプライヤーを選ぶ傾向が強まることで、CBAM導入は域外生産者にとって、EU域内生産者同様、低炭素技術を利用せざるを得なくなり、ひいてはEU域内で生産された製品の競争力低下を防止することにつながります。
参考:日本貿易振興機構 EU 炭素国境調整メカニズム (CBAM)の解説(基礎編)
出典:環境省 脱炭素ポータル【有識者に聞く】EUによる炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング
CBAMの対象事業者と製品は?
CBAMの対象事業者は、EU域外から対象製品を輸入するEU域内の事業者です。また、対象製品及び製品ごとに報告対象となるGHG種類は以下の通りです。
※対象製品の詳細はCBAM規則付属書 I(List of goods and greenhouse gases)に記載されているCNコード(EUの関税品目分類)を確認する必要があります。
移行期間中は、課徴金の支払い義務は発生しませんが、四半期ごとにCBAM報告書を提出する義務があります。本格適用以降(2026年1月~)、輸入事業者が課徴金としての「CBAM証書」を購入しなければなりません。
出典:欧州連合 REGULATION (EU) 2023/956 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 10 May 2023 establishing a carbon border adjustment mechanism
日本企業への影響
移行期間の対象製品はいずれも、日本からEUへの輸出量が少ないため、日本企業への影響は限定的だと考えられます。
しかし、欧州委員会はCBAMの適用拡大を検討する方針を示しています。有機化学品とポリマーなどの化学製品や、今回対象となった製品を使用したバリューチェーン川下製品(例えば、鋼材を用いる自動車・自動車部品・産業機械)も検討の対象に含まれています。適用範囲が拡大された場合、日本からEUへの主要輸出品の大半が CBAMの対象となる可能性が高く、予想される影響が大きいため、引き続き動向を注視することが重要です。
一方、日本企業は、EU域内で輸入事業を行わない限り、CBAMにおける報告義務の直接的な対象にはなりません。ただし、対象製品をEU域内に輸出する場合、輸入事業者から製品のGHG排出量データなどの情報を要請される可能性があります。そのような要請に備え、製品のカーボンフットプリント(CFP)の算定体制の整備が必要となります。
▼「カーボンフットプリント」に関する記事はこちら
既に日本では、CFP算定に関する業界ごとの調査研究が進められています。例えば、ねじ・ボルトがCBAMの対象製品になることを知った日本ねじ工業協会は、CBAMが業界にどの程度の影響を及ぼすか、会員向けの調査を行い、その結果を経済産業省へ報告しました。その後、経済産業省がCBAMに対応したねじ・ボルトのCFP算定ガイドラインを作成し、正式版を近く公開する見込みです。
参考:日本貿易振興機構 EU 炭素国境調整メカニズム (CBAM)の解説(基礎編)
日本ねじ工業協会 日本ねじ工業協会のEU-CBAM制度への対応について
まとめ
移行期間中のCBAMの対象製品は一定の分野に限られているため、日本企業に与える影響は少ないと見られますが、本格適用時の対象製品範囲が拡大される際には、多くの日本企業(特に生産側)に対して大きな影響を及ぼす可能性があります。
今後も競争力を維持するために、CBAM及び業界動向を注視しながらも、取引先からの報告要請が発生する前に、排出量算定体制を構築しておくことをお勧めします。
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