サプライヤーとの連携で進めるスコープ3排出量削減 〜一次データ活用に向けたエンゲージメントの実践〜

 スコープ3排出量算定の精度向上と、削減活動の実効性を確保するには、サプライヤーの協力が不可欠です。スコープ3の中で最も排出量が多くなる傾向があるカテゴリー1(購入した製品・サービス)では、調達先の脱炭素化への対応が直接的にバイヤー企業の排出量に反映することから、サプライヤーエンゲージメントが進んでいます。


 本レポートでは、バイヤー企業がスコープ3カテゴリー1排出量の削減可能な算定と、それを推進するためにサプライヤーとどのように連携していくべきか、実践的なエンゲージメントの進め方について先進事例を交えて解説します。


目次[非表示]

  1. 1.サプライヤー協力の背景と必要性
  2. 2.サプライヤーエンゲージメントのステップ
  3. 3.実践事例
  4. 4.課題と今後の展開
  5. 5.まとめ


サプライヤー協力の背景と必要性

 2025年3月のSSBJによるサステナビリティ基準の公表を受けて、企業に求められる開示水準が引き上げられる中、スコープ3排出量は算定するフェーズから削減するフェーズに移りつつあり、その算定方法の高度化が、企業のESG評価やレピュテーションにも直結するようになっています。(関連記事はこちら)加えて、欧州における企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や、企業持続可能性デリジェンス指令(CSDDD)の影響もあり、一次データに基づいた算定体制の整備は、競争力維持のための重要事項となりつつあります。
 スコープ3カテゴリー1算定の初期段階では、一般的に活動量として「支払金額」、排出原単位として「金額ベースの係数」が使われます。算定が容易な一方で、削減活動が反映されにくいという課題があります。例えばサプライヤーが脱炭素活動に取り組んでいたとしても、その成果が排出量算定に反映されないばかりか、活動により単価が上昇してしまうと排出量が増えることになります。
 これを解消するには、活動量を金額から調達量に切り替え、さらに調達品ごとの排出原単位(一次データ)を使う算定方法に変更することが必要となります。この算定方法を実現するには、自社だけで完遂することは不可能で、サプライヤーからの排出原単位の情報提供が不可欠です。



サプライヤーエンゲージメントのステップ

 実際にサプライヤーとの連携を進めるには、段階を踏んだコミュニケーションと支援が必要です。以下はその基本的なステップです。


ステップ1:方針・目標の共有

 まずは、自社が脱炭素経営の一環としてスコープ3排出量の削減に取り組んでいることを、調達先に明確に伝えます。カーボンニュートラルや科学的根拠に基づく削減目標(SBT)に基づく活動であり、サプライチェーン全体での取り組みが必要であることを説明できるとより効果的です。この段階では、バイヤー側経営層からのメッセージやトップコミットメント、目標、戦略を明示することが効果的に働きます。


ステップ2:一次データ提供の依頼

 最初から全てのサプライヤーを対象に実施するのではなく、自社のGHG排出量の結果や事業への影響が大きいサプライヤーなど自社にとって重要なサプライヤーを抽出・限定し、重量サプライヤーから開始することが肝要です。具体的な排出原単位や使用エネルギーなどの一次データ提供を依頼し、提供された一次データを利用した排出量の算定を開始します。これにより、バイヤー企業はスコープ3算定にサプライヤーの削減活動の成果を排出量に反映できるようになります。なお、サプライヤーが排出原単位算定を円滑に進めるため、算定に係る作業負荷を可能な限り軽減する方法(GHG算定用の標準化テンプレートの配布など)を検討し、取引先の状況に応じて必要なフォローをしていくことが重要です。


ステップ3:教育・啓発支援

 中小企業をはじめ多くのサプライヤーは、納入品のカーボンフットプリント算定やスコープ3排出量に基づく算定など、要求する排出原単位の算定に不慣れです。そのため、サプライヤーを対象とした合同説明会や研修などを通じて、排出量算定の方法やツールの使用方法を共有し、協力体制を築いていきます。なお、実際の取組みでは、一度の説明会だけで取引先の理解が得られ、協力してもらえないことも考えられます。排出量算定に係る取組みの重要性について、説明内容のレベル感や説明会の実施方法にも反映していくことが求められます。


ステップ4:サプライヤーとの協働による削減

 サプライヤーと連携して納入品のカーボンフットプリントの削減の検討を実施します。工程・素材・エネルギー使用のどこに排出量が集中しているかを把握し、サプライヤーと共に削減目標や施策を検討し、短期・中長期の視点で実行計画に落とし込んでいくことが重要です。



実践事例

 国内ではすでに、サプライチェーン全体での脱炭素化に取り組む先進企業の事例が現れています。


事例:LIXIL(ステップ2の事例)

 建築材料や住宅設備機器の大手企業株式会社LIXILでは、サプライヤーに排出量算定の啓発活動として、国内約400社に対して合同説明会を開催するほか、GHG排出量算定を始める意向のサプライヤーに対してスコープ1・2・3算定ツールを提供するなど、サプライチェーン全体での削減を推進しています。同社は、サプライヤーが算定した一次データでのスコープ3算定につなげるほか、再生可能エネルギー導入支援の拡大を図る計画があります。


資源の循環利用の促進 | 水の保全と環境保護 | インパクト | 株式会社LIXIL


事例:大塚ホールディングス(ステップ4の事例)

 大塚ホールディングス株式会社では、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル実現を目指すため、取引先への再生可能エネルギー供給を開始しています。同社は再生可能エネルギーの一括調達やグループ内で発電した電力のグループ事業所への供給など、エネルギー利用効率の最大化を図り、事業の成長と環境への対応の両立を推進しています。その中、生産委託している取引先へ再生可能エネルギーの供給を開始し、サプライチェーン全体での環境負荷低減に向けて取り組んでいます。
 この事例は、排出量削減の施策として再生可能エネルギー調達する際、サプライヤーにとって調達手続きの業務負荷とコスト増の課題に対して、バイヤーが共同調達を提案することで課題改善を図っています。


サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル実現を目指して -ビジネスパートナーへの再生可能エネルギーを供給-|グループニュース|大塚ホールディングス株式会社

 

参考情報: グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省

 環境省の企業の脱炭素経営を支援するための情報提供プラットフォーム「グリン・バリューチェーンプラットフォーム」には、スコープ3算定・削減に向けて先進的に取り組む企業事例が今回紹介した2社限らず複数掲載されています。このプラットフォームでは、業種別での先進事例を参照できるほか、企業間の連携促進・知見共有、共同での取り組みを支援の場も設けられています。企業が脱炭素化への取組みを進めるうえで必要な情報やツールを提供し、企業をサポートする役割も果たしています。


課題と今後の展開

 スコープ3カテゴリー1削減を目的としたサプライヤーエンゲージメントは、多くの企業にとって新たな挑戦です。活動の初期段階では、以下のような課題が生じることもあります。

  • 収集負担(人的リソースやコスト)
  • 排出量削減よりも利益優先に偏る取引先の理解不足
  • 取引関係の力学に左右される協力度合い

 一次データによる排出量の算定や削減の取組みは、サプライヤーに対して新たな負担がかかる活動です。依頼するサプライヤーからの協力の得やすさは、取組みへの共感度やバイヤーとの関係性によって異なりますが、依頼する際にサプライヤーが前向きに取り組みやすいように何かしらのインセンティブ制度の導入を並行して実施することは効果的です。契約要件への追加も効果的ですが、十分な説明なく早急に実施してしまうと取引先からの反発を受けるリスクがあります。導入に当たっては事前に対話を重ね、算定や削減支援を行うなどのフォローが必要です。



まとめ

 スコープ3排出量、特にカテゴリー1(購入した製品・サービス)の削減には、サプライヤーとの連携が不可欠です。金額ベースの排出量算定では削減努力が反映されにくいため、調達量と一次データ(カーボンフットプリント)を用いた算定への移行が必要です。これを実現するためには、段階的なサプライヤーエンゲージメントが重要であり、①脱炭素方針の共有、②教育・啓発支援、③一次データ提供依頼、④協働での削減活動という4ステップで進めることが効果的でしょう。
 今回はサプライヤーエンゲージメントの中の、納入製品・サービスのカーボンフットプリントの算定依頼を対象に説明しました。サプライヤーとのエンゲージメントとして他に、デューデリジェンス調査も多く実施されています。これについては、別途説明いたします。
 
参考資料: バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド
 
取り組みの詳しい内容については、下記からお気軽に問い合わせください。




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