炭素国境調整措置(CBAM)における体化排出量とは?定義から算出方法まで簡単解説
以前の記事「EUによる炭素国境調整措置(CBAM)とは?」で、CBAMの概要や日本企業への影響を解説しました。本記事では、CBAMの中でも特に重要な「体化排出量」という概念に焦点を当て、その定義や算出方法、Scope1,2,3排出量との関係について解説します。
▼炭素国境調整措置(CBAM)の基本的な解説については、下記記事をご一読ください。
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目次[非表示]
- 1.体化排出量の定義
- 2.体化排出量の算出方法
- 2.1.実際の排出量に基づく算出
- 2.2.デフォルト値を使用する算出
- 3.体化排出量とScope 1,2,3排出量の整理
- 4.まとめ
体化排出量の定義
事業者は、EU域内に輸入するCBAM対象製品について、その輸入量と種類に加えて、体化排出量及びそれに対する原産国で支払う炭素価格に関しても、CBAM報告書において報告する義務が課されます。そのため、体化排出量を正しく理解する必要があります。
体化排出量とは、EU域内に輸入された対象製品の生産に伴って発生したGHG排出量のことで、「直接排出量」と「間接排出量」の2種類があります。
直接排出量は対象製品の生産工程から生じる排出であり、生産場所に関係なく、生産時の温冷熱の生産によって排出されるGHG排出量が直接排出量に含まれます。一方、間接排出量は対象製品の生産工程で消費される電力の発電から生じるGHG排出量と定義されています。発電場所にかかわらず、間接排出量に含める必要があります。
CBAMの移行期間中は、直接排出量と間接排出量について、両方の算定と報告が求められます。しかし本格適用後は、一部セクター(鉄鋼、アルミニウム、水素)は、直接排出量のみ算定と報告が求められますが、セメント、電力、肥料のセクターは直接及び間接排出量の両方の算定と報告が必要です。以下の図でセクター別の対象排出量を整理したため、改めて確認いただくことを推奨します。
※対象製品の詳細はCBAM規則付属書 I(List of goods and greenhouse gases)に記載されているCNコード(EUの関税品目分類)を確認する必要があるため留意ください。
体化排出量の算出方法
体化排出量の算出方法は、電力とその他セクターの製品で異なります。電力以外のセクターでは、実際の排出量に基づく算出とデフォルト値を使用する算出の2つの方法があります。
実際の排出量に基づく算出
まず、電力以外の対象製品1トン当たりの体化排出量の算出には、以下の計算式が用いられます。
本格適用後、間接排出量の算定と報告が必要になるのはセメントと肥料セクターです。ただし、実際の間接排出量を使用できるケースは以下2点です。それ以外のデータは、デフォルト値を適用する必要があります。
- 輸入品の生産施設と発電所の間の「直接的な技術的リンク」を証明できる場合
- 第三国に所在する発電事業者と電力購入契約を結んでいる場合
投入材料の体化排出量については、以下の計算式が用いられます。投入材料の種類は、実施規則付属書 II(Definitions and production routes for goods)のリストに掲載されているもののみが対象となります。
デフォルト値を使用する算出
電力以外の対象製品では、実際の直接排出量を算出できない場合、以下のいずれかのデフォルト値を使用して算出することが認められています。
- 各製品について輸出国ごとに定める平均排出単位に基づき、原価に上乗せした値
- 対象製品を生産するEU-ETSの施設で、最も実績の悪い施設における平均排出単位に基づく値
- 域外国の特定の地域特性に適合したデータを使用し、最適なデフォルト値を決定できる場合は、それに基づく値
間接排出量の算出に使うデフォルト値は、以下のいずれかの平均値に基づいて計算した値が用いられます。
- EU電力網の排出係数
- 電力生産国の電力網の排出係数
- 電力生産国の価格設定源のCO2 排出係数
出典:日本貿易振興機構 EU 炭素国境調整メカニズム (CBAM)の解説(基礎編)
欧州連合 COMMISSION IMPLEMENTING REGULATION (EU) 2023/1773 of 17 August 2023 laying down the rules for the application of Regulation (EU) 2023/956 of the European Parliament and of the Council as regards reporting obligations for the purposes of the carbon border adjustment mechanism during the transitional period
体化排出量とScope 1,2,3排出量の整理
ここまで体化排出量の算出に必要な直接排出量と間接排出量の算定をご紹介しましたが、GHGプロトコルによるScope 1,2,3排出量の考え方を連想された方がいらっしゃるかもしれません。
ここで、両者の異なる点と関連性について解説します。
Scope 1は、組織が直接コントロールしている排出源から発生するGHG排出量です。Scope 2は、組織が購入または使用する電気、熱、蒸気、冷熱などの間接エネルギーによって発生するGHG排出量です。
しかし、CBAMの直接排出量は、生産場所に関係なく、生産過程で消費される温冷熱の生産すべてが対象となります。例えば、自社範囲外で生産された蒸気が工場に供給される場合、GHGプロトコルに基づくとScope 2に分類されますが、CBAMでは直接排出量とされます。
Scope 3は、企業のバリューチェーンで発生するその他すべての間接排出量を対象としていますが、その中でも、実施規則が規定する投入材料を生産する際に消費される電力や温冷熱に伴う排出量のみがCBAMの対象範囲です。
出典:欧州連合 Carbon Border Adjustment Mechanism A new,green way of pricing carbon in imports to the EU
まとめ
CBAMは対象製品の体化排出量に基づいて炭素価格の差額分の支払いを課すもので、EU域内の炭素排出削減を推進すると同時に、炭素リーケージを防ぐための重要な手段です。現時点で日本企業に与える影響は限定的と見られますが、将来的には対象製品の拡大も考えられることもあり、EUへの輸出企業は、サプライヤーと連携してGHG算定のためのデータ収集に向けて、早めの準備が必要です。
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