CO2排出量開示における第三者保証とは?
はじめに
気候変動への対応が急増する中で、企業や組織はCO2排出量を測定し、開示するとともに、削減するための施策を強化しています。ここで企業や組織が開示したCO2排出量やサステナビリティ・非財務情報に対して信頼性を得るためには、透明性と信頼性の確保が必要です。この点で注目されるのが、CO2排出量に対する第三者保証です。
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目次[非表示]
- 1.はじめに
- 2.第三者保証とは?
- 3.なぜ第三者保証が必要か?
- 4.第三者保証のプロセス
- 5.主な国際的第三者保証基準の種類
- 6.ISAE 3410
- 7.ISO 14064-3
- 8.PAS 2060
- 9.AA1000AS
- 10.まとめ
第三者保証とは?
CO2排出量の第三者保証は、企業が報告するCO2排出量が公正かつ正確であることを独立した専門家や機関(第三者)が評価するプロセスです。すなわち、第三者保証されたCO2排出量は、一定程度の正確性を有するといえます。
第三者保証は、以下の原則に基づいて行われます。
- 客観性: 第三者保証機関は、企業と無関係でなければなりません。
- 透明性: プロセスは公開され、結果も明確でなければなりません。
- 一貫性: 同じ基準と方法で評価されます。
なぜ第三者保証が必要か?
CO2排出量の情報は、企業のサステナビリティ評価・非財務情報評価や、気候変動に関連するリスクや機会評価に直結します。誤報や不正確な情報は、投資家や消費者、その他のステークホルダーに誤った判断をさせる可能性があります。第三者保証は、このような問題を防ぐ手段として考えられています。
さらに、第三者保証のプロセスは、企業にとっても価値があります。企業が算定したCO2排出量の妥当性を担保され、その結果、課題点・改善点が明らかとなり、排出削減のための戦略を計画するのに役立ちます。このような第三者保証は、企業にとって持続可能性の視点から重要な経営情報を提供します。
この第三者保証の導入により、企業と消費者、政府、投資家との間での信頼が築かれ、持続可能な経済成長への道筋が描かれます。
第三者保証のプロセス
CO2排出量の第三者保証プロセスは、一般に以下のステップで行われます。
事前評価
第三者保証機関は、企業のCO2排出量計算方法やデータの信頼性を評価するための事前調査を行います。
現地調査
第三者保証機関の専門家が現地での調査を行い、企業の報告と実際の状況を照合します。
検証と認証
最終的に、第三者保証機関がデータと方法論の正確性を検証し、認証を行います。この第三者保証は、企業が公正に報告していることを証明します。
主な国際的第三者保証基準の種類
下記は主な国際的な第三者保証基準の一覧になります。
国際基準名 |
基準の概要 |
主な用途 |
管理団体 |
---|---|---|---|
ISAE 3410 |
GHGの情報に対する保証エンゲージメントのための基準 |
GHG報告の信頼性と透明性の強化 |
国際監査および保証基準委員会(IAASB) |
ISO 14064-3 |
GHGの検証および検証のための仕様とガイドライン |
GHGデータの検証および検証のための仕様とガイドライン |
国際標準化機構(ISO) |
PAS 2060 |
カーボンニュートラルの宣言と検証のための仕様 |
組織または活動のカーボンニュートラルの証明 |
英国規格協会(BSI) |
AA1000AS |
サステナビリティの保証のための基準。GHGの情報なども含まれる |
サステナビリティ報告の信頼性の向上 |
AccountAbility |
ISO 14067 |
製品のカーボンフットプリントの計算と報告に関する基準 |
製品間のカーボンフットプリントの比較と評価 |
国際標準化機構(ISO) |
ISO 14069 |
GHGの量的評価のためのガイドライン(直接およびエネルギー間接排出の計算など |
組織全体のGHG排出量の計算 |
国際標準化機構(ISO) |
PAS 2080 |
インフラプロジェクトにおけるカーボンマネジメントのための仕様 |
インフラプロジェクトのCO2削減 |
英国規格協会(BSI) |
以下で、代表的な基準を解説いたします。
ISAE 3410
ISAE 3410は、温室効果ガス(GHG)の報告に関する保証業務のための国際基準International Standard on Assurance Engagements(ISAE)の一部です。この基準は、国際監査・保証基準評議会(IAASB)によって開発され、世界中の監査業者や保証提供者がGHGの情報に対して行う保証活動に適用されます。
主な内容と特徴は以下の通りです。
- 保証レベル: ISAE 3410は、保証活動のレベルを「合理的保証」と「限定的保証」として区分しています。合理的保証は、高い保証レベルを示すものであり、限定的保証は、より低い保証レベルを示すものです。
- 保証の対象: ISAE 3410は、GHGの排出量や削減量に関する報告が対象となります。これには、Scope1、Scope2、Scope3のGHGの排出量、GHG削減プロジェクト、カーボンオフセット、カーボンフットプリントなどが含まれます。
- 保証手順: ISAE 3410は、保証活動を実施する際の手順を詳細に定義しています。これには、報告書の検証、データの検証、計算手法の確認、適切な基準の適用、リスクの評価、結論の形成などが含まれます。
- 報告書の構成: ISAE 3410は、保証報告書の構成要素を明確に指定しています。これには、報告書のタイトル、宛先、保証提供者の情報、保証対象の報告、基準の参照、保証手順の説明、結論、日付、署名などが含まれます。
- 独立性と専門性: ISAE 3410では、保証提供者が独立性と専門性を持っていることが求められます。独立性とは、利益相反を避けることを意味し、専門性とは、GHGの保証活動に関連する技術的なスキルや知識を持つことを意味します。
ISO 14064-3
ISO 14064は、温室効果ガス排出量の計測、報告、検証に関する国際規格であり、ISO 14000シリーズの一部を構成しています。ISO 14064は、企業や組織が温室効果ガス排出量を計測し、報告し、検証するための枠組みを提供しています。ISO 14064は、以下の3つの部分から構成されています。
- ISO 14064-1:組織レベルでの温室効果ガス排出量の計測と報告のための原則と要件を規定しています。
- ISO 14064-2:プロジェクトレベルでの温室効果ガス排出量の計測と報告のための原則と要件を規定しています。
- ISO 14064-3:温室効果ガス排出量の計測、報告、検証に関する検証のための原則と要件を規定しています。
ISO 14064-3の主な内容と特徴は以下の通りです。
- 検証と検査: ISO 14064-3は検証と検査の二つのプロセスに分けられます。検証は通常、計画的かつ体系的なプロセスで、GHGの報告が特定の基準やガイドラインに適合しているかを評価します。一方、検査はより厳格で詳細な評価を行い、報告された情報の正確性について判断します。
- 第三者保証: 検証や検査は、独立した第三者によって行われることが多く、そのプロセスと結果は第三者保証として提供されます。
- 検証プロセス: 検証プロセスは、以下のステップで構成されています。
- 初期評価: 報告の対象範囲、目的、データの品質等を評価
- リスクと不確実性の評価
- サンプリング戦略と計画
- データと情報の確認
- 検証の結果と報告
- 透明性と信頼性: この標準は報告されるデータの透明性と信頼性を高めることを目的としています。
PAS 2060
PAS 2060は、英国規格協会(British Standards Institution, BSI)によって策定され「カーボンニュートラル」のステータスを達成するための仕様です。この仕様は、組織や製品、サービス、イベントなどのカーボンニュートラルの達成と報告に関連する要件を定めています。
主な内容と特徴は以下の通りです.
- カーボンニュートラルの実証: PAS 2060は、製品、サービス、組織、コミュニティ、イベント、建物などのカーボンニュートラルを実証するための方法を詳細に定義しています。これにより、企業や組織は自身の活動や製品のカーボンニュートラル性を主張することができます。
- カーボンフットプリントの測定: 対象のCO2排出量を全体的に評価し、どこで削減が可能かを特定します。
- 削減計画: 一連の削減措置を実装するための計画を立て、削減の進捗を監視します。
- 補償: 完全に削減できない排出量に対して、認定されたオフセットプロジェクトなどを通じて補償を行います。
- 透明性と検証: カーボンニュートラルの主張は、透明で検証可能な方法でなされるべきであると強調しています。
AA1000AS
AA1000ASは、AccountAbility(英国の非営利組織)によって開発され、企業が自らのサステナビリティ報告の信頼性と透明性を向上させるためのガイドラインを提供しています。
AA1000AS(Account Ability Assurance Standard)は、企業や組織が行うサステナビリティ報告について、第三者機関が独立した保証を提供するための国際的な基準です。サステナビリティ報告は、環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報を開示するものであり、GHGの情報も含まれます。
主な内容と特徴は以下の通りです。
- 原則ベースのアプローチ: AA1000ASは、「包括性」「関係性」「材料性」の3つの原則に基づいています。これにより、報告が利害関係者の要求に応じたものであること、報告内容が利害関係者との関係に基づいていること、報告内容が組織の持続可能性に影響を与える重要なトピックに焦点を当てていることが確保されます。
- 保証レベルの指定: AA1000ASは、保証活動のレベルを「Type 1」および「Type 2」として区分しています。Type 1は、報告内容の適切性と信頼性を評価するもので、Type 2は、報告内容が実施された活動と一致しているかを評価します。
- 独立性と専門性: AA1000ASの保証提供者は、独立性と専門性を持っている必要があります。独立性とは、保証提供者が報告する組織との利益相反を持たないことを意味し、専門性とは、保証活動に関連する技術的なスキルや知識を持つことを意味します。
- 利害関係者の参加: AA1000ASでは、利害関係者が保証活動に参加することが奨励されています。これにより、報告内容が利害関係者の視点を反映したものであることが確保されます。
まとめ
CO2排出量やサステナビリティ・非財務情報の報告における第三者保証は、その信頼性と透明性を高めるために不可欠です。第三者保証を受けることで、企業や組織はステークホルダーに対する信頼を築くとともに、持続可能な未来への貢献を果たすことができます。
CO2排出量に対する第三者保証は、気候変動対策と企業のサステナビリティにおいて、ますます重要なテーマ性となっています。第三者保証の標準や方法について理解し、それを適切に適用することが、企業にとって非常に重要です。
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