SBT認定取得の基本 「何を・どのように」を知ろう
近年、GHG排出量を算定し、削減目標を設定する企業が増加しています。これらの情報を公表する企業も多い中、SBT認証取得との違いが十分理解されていない場合もあります。本記事では、SBT認証の要件と申請プロセスを解説します。
目次[非表示]
- 1.SBT認定とは
- 2.SBT認定取得企業数が増えている
- 2.1.その背景は
- 2.2.SBT認定を取得するメリット
- 3.SBT認定を取得するには
- 4.まとめ
SBT認定とは
「SBT」と「SBTi」を混同している方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、その違いを説明することから始めます。
SBT(Science Based Targets)は「科学に基づいた目標」の略で、パリ協定で合意された「平均気温の上昇を2度未満、可能なら1.5度に抑える」という目標に準じます。
SBTi(Science Based Targets initiative)は、温室効果ガス削減目標を科学的根拠に基づいて設定しているかを認定する国際団体で、2015年に国連グローバル・コンパクト、WRI、WWF、CDPにより設立されました。
したがって、SBT認定とは、企業が設定した目標がパリ協定と整合しているかをSBTiが認定するものです。
SBT認定取得企業数が増えている
2024年3月時点のSBT認定企業数は、世界全体で4,779社、そのうち日本企業は904社でした。2023年3月からの1年間で日本企業は479社増加し、つまり約2倍に急増しました。この結果、国別で昨年トップだったイギリスを抜いて、日本が1位になりました。
出典:環境省「SBT詳細資料」SBT_syousai_all_20240301.pdf (env.go.jp)
その背景は
SBT認定取得企業の増加は、脱炭素への取り組みを通じて、企業の持続可能性を効果的に示せる点が背景にあります。投資家や顧客、社員の関心が高まる中、GHG削減目標の設定により、評価の向上やリスク軽減、新たな事業機会の創出といった多くのメリットが得られます。この流れが企業の信頼性と競争力を高め、長期的な価値をもたらしています。
SBT認定を取得するメリット
企業がSBT認定を取得することで得られるメリットを、ステークホルダー別に紹介します。
① 対投資家のメリット
SBT認定は、企業がパリ協定と整合した目標を持つことを示し、年金基金などの機関投資家の信頼を向上させます。SBTiの調査では、認定企業の52%が投資家からの信頼が向上したと回答しています。
② 対顧客へのメリット
脱炭素目標を重視する顧客に対し、SBT認定は信頼性の高い取り組みとして評価され、ブランド力や競争力の向上につながります。SBTiの調査によれば、認定企業の77%がブランド評価の向上、55%が競争力向上を実感しています。
③ 対サプライヤーへのメリット
SBT認定はサプライチェーン全体での目標設定を可能にし、脱炭素への連携を促進します。これにより、サステナブルな供給網の構築とリスク管理の向上が期待できます。
④ 対社内へのメリット
高い目標設定は社内のモチベーションやイノベーションを促進します。新技術の導入や新たなビジネスモデルの創出につながり、SBTiの調査では63%の企業がイノベーションの促進を実感しています。
SBT認定を取得するには
冒頭でも触れましたが、企業がGHG排出量や削減目標を公表することと、SBT認定を取得することの違いは、企業独自の基準で目標を設定するか、国際基準に基づくかにあります。本パートでは、SBTiが定める「科学に基づく目標(SBT)」の要件を基に、認定取得に必要な事前準備と流れを解説します。
SBT認定には、短期目標(提出日から5~10年以内)と長期目標(10年以上先、2050年までを見据えた目標)の2種類があります。本記事では、短期目標に焦点を当てて解説します。
事前準備
SBT認定を申請するための準備について説明します。
Step1. SBT認定取得の目的確認、社内の体制構築
SBT認定の取得には、単なる申請書の提出だけでなく、SBT認定のメリットや要件、認定の重要性を理解することが重要です。その上で、効果的な取り組みを進めるために、社内の体制を整える必要があります。
Step2. SBT要件の理解
前述の通り、SBT認定は、企業の削減目標がパリ協定に整合しているかをSBTiが認定するものです。取得には、GHG排出量の算定と、SBTiが求める削減目標の設定が求められます。本パートでは、SBT要件について詳しく説明します。
■削減目標及びGHG算定の範囲
- 組織カバー範囲:グループ全体、企業会計の組織範囲と一致することが推奨されます。
- GHGカバー範囲:GHGプロトコル企業基準に基づき、関連するすべてのGHGをカバーする必要があります。
- Scopeカバー範囲:グループ全体のScope1及びScope2の排出量をカバーする必要があります。Scope3に関しては、企業のScope3排出が、Scope1,2,3の合計の40%以上である場合、Scope3目標が必須です。
- 排出カバー範囲:排出量算定と目標設定の際、Scope 1・2の合計値の5%までを除外可能です。Scope 3の短期目標では、Scope 3カテゴリ全体の少なくとも2/3(67%)をカバーするか、サプライヤー・顧客とのエンゲージメント目標の設定が求められます。
■排出量算定の必要要件
- Scope2:ロケーション基準/マーケット基準のいずれを用いて算定したかを明示します。
- Scope3:各カテゴリを網羅する算定インベントリが必要です。
- 炭素クレジット(第三者の削減):削減手段としての使用は不可です。ただし長期目標の設定では考慮できます。
- 削減貢献量(社会における自社製品などによる通常比の削減):SBT目標には含まれません。
■ 目標の策定
- 目標年設定期間:SBTiへの目標提出時より、最短5年、最長10年以内の時点とします。基準年は、2015年以降の年から選択する必要があります。
出典:環境省「SBT詳細資料」SBT_syousai_all_20240301.pdf (env.go.jp)
- 削減温度目標:それぞれScope1,2では1.5℃、Scope3は2℃達成水準の目標が必須です。
- 目標形式:Scope1,2は総量目標(削減要件を満たす場合は原単位目標も可)、Scope3は総量目標、エンゲージメント目標又は各セクター別目標を設定します。
■セクター別目標は分野ごとに規定される要求事項で、SBTセクター別ガイダンスに記載されています。セクター別ガイダンスがある各産業部門は以下となります。
- 衣料品・靴 航空
- 化学
- 金融機関
- 化石燃料の探査、抽出、採掘、そして/または生産
- 化石燃料の販売・輸送・流通
- 化石燃料インフラ/サービス(専用/非専用)
- 情報・通信技術プロバイダー
- 産業セクター:鉄鋼・セメント・アルミニウム・パルプ/紙
- OEM(相手先商標製品)/自動車メーカー
- 発電
- サービス/商業ビル
- 輸送サービス
Step3. SBTの要件に基づいた、GHG排出量の算定と、削減目標を設定
認定取得の流れ
次に、実際にSBT認定を取得するまでと取得後の流れをご紹介いたします。
SBT申請の流れが以下となります。
各ステップを簡単にみていきましょう。
Step1 申請・審査
① 【任意】Commitment Letterの提出
Commitment Letterは、2年以内にSBT目標を設定するという宣言です。
提出後、SBT事務局、CDP、WMBのウェブサイトにて公表されます。
② 目標設定と申請書の提出
Target Submission Formを事務局に提出し、審査日をSBTi booking systemで予約します。
③ 事務局による目標の妥当性確認・回答(有料:一般企業向け、短期目標でUSD9,500)
SBT事務局は目標が認定基準に合致しているかを審査し、メールで結果を通知します(否定する場合は、その理由も記載されます)。
④ 認定された場合は、SBT等のウェブサイトにて公表
Step2 認定後
⑤ 進捗状況の報告
排出量と対策の進捗状況を、年に一度報告し、開示します。
⑥ 目標の定期的な確認
目標の妥当性を定期的に確認し、大きな変化が生じた場合は、必要に応じ目標を再設定(少なくとも5年に1度は再評価)
まとめ
SBT認定の取得には、定められた基準に沿った目標設定が求められます。本記事では、その具体的な要件を解説しました。SBT認定を取得するためには、GHG排出量の正確な算定と、パリ協定に整合した削減目標の設定が不可欠です。
早期のSBT認定取得は、企業の信頼性や競争力を高めると同時に、持続可能な社会の実現への重要な一歩となります。この目標に向けた取り組みが、企業の信頼性と競争力を高め、ステークホルダーに対して強力なメッセージを発信することにつながります。
関連ページ
環境省のSBT概要資料
排出量削減目標の設定 | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省 (env.go.jp)
SBTi公式サイト
Ambitious corporate climate action - Science Based Targets Initiative