EUのサステナビリティ開示法律 CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは?
近年、企業が直面する地球環境問題や社会問題への取り組みが急速に進んでおり、その結果、企業のサステナビリティがより重要な評価軸となっています。この背景から、EUをはじめとする国際社会では、企業サステナビリティ報告指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)および欧州サステナビリティ報告基準(ESRS:European Sustainability Reporting Standards)の導入が進められており、情報開示が強化されています。
本記事では、CSRDとESRSの概要や日本企業への影響について解説します。日本企業にとっても、EU市場での競争力維持・向上に向けて、適切なサステナビリティ報告が求められます。そのため、本記事を通じてCSRDとESRSへの理解を深め、持続可能な成長を実現するためのアプローチを検討していきましょう。
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CSRDとは?
企業サステナビリティ報告指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive) は、EUにおいて企業のサステナビリティ情報開示を強化するための法律です。CSRDは、企業による環境、社会、ガバナンス(ESG)の情報開示を義務付けることで、投資家やステークホルダーが持続可能性の観点からの意思決定を行えるように支援します。
また、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS:European Sustainability Reporting Standards) は、CSRDに基づく報告のための共通の基準を提供します。これにより、企業間での比較可能性が向上し、報告の信頼性が高まります。
CSRDが生まれた背景とは?
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)とNFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務報告指令)は、ともにEUが企業に対して非財務情報の開示を求める法律ですが、CSRDはNFRDの改訂版として導入されました。NFRDは、2014年に導入され、大規模な企業に環境、社会、従業員関連、人権、反汚職、贈収賄に関する非財務情報の開示を義務付けました。しかしながら、NFRDの適用範囲や開示基準が十分に明確でないとの指摘があり、情報開示の質にばらつきが生じていました。
これに対し、CSRDは2021年に提案され、NFRDの問題点を解決することを目的としています。CSRDでは、適用範囲が拡大され、より多くの企業が対象となります。また、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)が導入されることと、サステナビリティ報告への第三者保証が義務付けられることにより、開示基準がより明確かつ統一され、企業間での比較可能性や報告の信頼性が向上することが期待されています。
CSRDの対象企業はどのような企業か?
CSRDの対象企業は、「大企業」および「零細を除くEU域内上場企業」であり、約50,000社が対象となります。また、EU域外の対象企業もあります。対象企業は、CSRDで定義されているように、環境・社会・ガバナンス(ESG)の影響に関する報告を提供することが求められます。
日本企業の現地法人が下記の表に該当する場合は、CSRDの適用対象になると思われます。ウォール・ストリート・ジャーナル*によると、CSRD適用対象となるEU域外企業が10,400社あり、そのうち約8%が日本企業であるとされています。
*出典:WSJ “At Least 10,000 Foreign Companies to Be Hit by EU Sustainability Rules”
適用対象 |
条件 |
適用開始時期 |
---|---|---|
NFRD適用企業 |
従業員数500人以上のEU上場企業 |
2024年1月1日以降に開始する事業年度(2025年に報告) |
大企業 |
以下の2つ以上を満たす企業 |
2025年1月1日以降に開始する事業年度(2026年に報告) |
中小上場企業 |
下記の零細上場企業を除く |
2026年1月1日以降に開始する事業年度(2027年に報告) |
EU域外企業 |
EU域内の売上高が1億5,000万€以上で、EUに下記の子会社・支店がある |
2028年1月1日以降に開始する事業年度(2029年に報告) |
CSRDの開示要求内容は?
CSRDによって求められる報告内容は、環境、社会、人権、およびガバナンス(ESG)に関する情報を含む、企業のサステナビリティに関する事項です。具体的には、ビジネスモデルと戦略、ESGリスク管理、ESG機会、ESG目標、ESG指標、ESGデータ、ESG報告の品質、および報告の第三者保証に関する情報を提供することが求められます。詳細な開示内容は、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)にて規定されます。
開示媒体としては、年次報告書であるマネジメントレポート内で開示することを義務化しています。また、財務情報と非財務情報を単一の電子フォーマット(XHTML)で提出することが要求されます。
ESRSの開示要求項目は?
欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)は次の12の基準から構成されています。ダブルマテリアリティの原則を用いてサステナビリティに関する事項を報告することが求められており、「サステナビリティ事項が企業価値へ与える影響」の観点だけでなく、「企業活動がサステナビリティ事項に与える影響」の観点の2つからマテリアリティを考えることが求められます。
一般原則
ESRS 1:全般要求事項
ESRS 2:全般開示事項
環境
ESRS E1:気候変動
ESRS E2:汚染
ESRS E3:水・海洋資源
ESRS E4:生物多様性と生態系
ESRS E5:資源利用と循環型経済
ソーシャル
ESRS S1:自社の従業員
ESRS S2:バリューチェーンの労働者
ESRS S3:影響を受けるコミュニティ
ESRS S4:消費者とエンドユーザー
ガバナンス
ESRS G1:業務運営
(追記)欧州委員会は 、2023/7/31に欧州サステナビリティ報告基準(ESRS) を正式に採択しました。
まとめ
本記事では、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)および欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)について解説しました。CSRDはNFRDの改訂版であり、サステナビリティ情報開示を強化することを目的としています。日本企業にとって、EU市場での競争力維持・向上のために適切なサステナビリティ報告が求められます。また、EU域外企業もCSRD提供要件に対応することで、EU市場での信頼を獲得できます。今後、サステナビリティ報告が一層重要視される中で、企業はCSRDとESRSへの適切な対応を進め、持続可能な成長を実現すべく努力していくことが求められます。
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