なぜ今、Scope3が企業経営のテーマになっているのか?
目次
本記事は、Scope3/サプライチェーン排出量を体系的に整理するシリーズの【Why編|なぜScope3が企業経営のテーマになっているのか】 に位置づけられるシリーズの入口記事です。
Scope3に関する情報は、算定方法や制度対応といった実務論点が先行しがちですが、そもそも「なぜScope3が企業経営のテーマとして扱われるようになったのか」を十分に整理しないまま議論が進んでいるケースも少なくありません。
本シリーズでは、Scope3を経営・開示の文脈で段階的に理解できるよう、論点ごとに整理しています。
本記事ではその第一段階として、なぜ今、Scope3が非財務情報開示や企業経営の中核的なテーマとなっているのかという背景と考え方を整理します。
全世界が目指す2050年ネットゼロ
私たちの社会は、地球上の生命と環境に影響を及ぼす可能性がある気候変動の問題に直面しています。その主な要因の一つは、産業活動を通じて排出される大量の温室効果ガス(GHG)です。
こうした状況を受け、全世界でパリ協定のもと2050年ネットゼロを共通の長期目標として掲げ、経済・産業構造の転換が進められています。
企業活動もまた、この前提から切り離して考えることはできなくなっています。
企業のGHG排出量は自社だけでは語れなくなった
多くの企業ではこれまで、自社の事業所や工場から直接排出されるGHGや、購入した電力・熱の使用に伴う排出量への対応を進めてきました。しかし、それだけでは企業活動に伴う排出量の全体像を十分に捉えることはできません。
原材料の調達、製造、物流、製品の使用、廃棄といった製品・サービスのライフサイクル全体を通じて排出されるGHGが、実際には企業の事業活動と密接に結びついているためです。
このように、排出量はもはや「自社の中」だけで完結するものではなくなっているという認識が、国際的にも共有されるようになっています。
Scope3が注目される理由
こうした背景のもとで注目されているのが、サプライチェーン全体を通じた排出量、すなわちScope3です。 環境省ではサプライチェーン排出量について、「事業者⾃らの排出だけでなく、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、事業活動に関係するあらゆる温室効果ガス排出量のこと」と整理しています。
多くの業種において、排出量を構成する要素を俯瞰すると、Scope1・Scope2よりも、サプライチェーンに由来する排出量(Scope3)の割合が大きくなるケースが一般的です。実際、購入した製品・サービスや、販売した製品の使用段階に関わる排出が大きな比率を占める業種も少なくありません。
このため、Scope3を捉えなければ、企業の排出構造や、事業活動と環境負荷の関係を適切に説明することが難しいという状況が生まれています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/11/2/11_129/_pdf/-char/ja
なぜScope3は経営の文脈で語られるのか?
Scope3が単なる環境データにとどまらず、経営の文脈で語られる理由は明確です。
サプライチェーン全体の排出量を把握することは、
- 事業構造や調達構造の可視化
- 気候変動に伴う中長期的なリスクの把握
- 将来の規制や市場変化への備え
といった、経営判断に直結する情報につながります。
また、投資家や取引先、消費者といったステークホルダーは、排出量そのものだけでなく、企業がこの課題にどう向き合い、どう説明しているかを重視するようになっています。
Scope3への取り組みは、企業が気候変動という世界的課題に対して、どのような姿勢で事業を展開していくのかを示す要素として、企業価値や信頼性とも結びつくテーマになっています。
次に理解すべきは「Scope3とは何か」
ここまで見てきたように、Scope3は単なる環境指標ではなく、企業の事業構造や成長のあり方と深く結びついたテーマです。
この議論をさらに進めるためには、そもそもScope3とは何を指し、どこまでが算定対象となるのか、その基本的な枠組みを正しく理解することが不可欠です。
※Scope3の定義や算定対象、15カテゴリの全体像については、次の記事で詳しく解説します。
→ Scope3とは?算定対象・15カテゴリをわかりやすく解説
実務に進むと直面する「次の論点」
Scope3の定義を理解すると、多くの企業が次に直面するのが、「なぜScope3算定は難しいのか」という論点です。それはScope3が持つ算定構造そのものに起因する課題です。
※Scope3が持つ算定構造については、次の記事で詳しく解説します
→ Scope3算定はなぜ難しいのか 〜有価証券報告書・SSBJ開示で説明が難しくなる理由
まとめ
Scope3が注目されている背景には、2050年ネットゼロという世界的な方向性と、企業の排出量を「サプライチェーン全体」で捉える必要性の高まりがあります。
企業経営の文脈においてScope3を理解することは、排出量削減のためだけでなく、事業構造や将来戦略をどう説明するかという観点でも重要な意味を持っています。
そして、その理解を実務に落とし込む過程では、算定の難しさや説明の課題といった新たな論点に直面することになります。
シリーズ関連記事
Scope3関連記事は、以下の順で読むと理解が深まります。
Why編(本記事) → What編 → 課題編 → 設計編 → 実務編
- Why編|なぜ今、Scope3が企業経営のテーマになっているのか?(本記事)
- What編|Scope3とは?算定対象・15カテゴリをわかりやすく解説
- 課題編|Scope3算定はなぜ難しいのか 〜有価証券報告書・SSBJ開示で説明が難しくなる理由
- 設計編|Scope3算定をどう設計するか~排出削減の取り組みと算定結果を結びつける考え方
- 実務編|Scope3削減とは?サプライヤーエンゲージメントの進め方
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜScope3が重要視されているのですか?
多くの企業において、温室効果ガス排出量の大部分はサプライチェーンに由来するScope3に含まれるためです。
自社の直接排出(Scope1)やエネルギー起因の排出(Scope2)だけでは、企業活動に伴う排出の全体像を十分に捉えることができません。
Q2. Scope3はなぜ経営のテーマとして扱われるようになったのですか?
Scope3は単なる環境データではなく、事業構造や調達構造、将来のリスクや機会と密接に関係しているためです。
そのため、排出量の把握や説明は、企業の中長期的な経営判断や企業価値にも影響するテーマとして扱われるようになっています。
Q3. Scope3はすべての企業に関係がありますか?
業種や事業構造によって排出の構成は異なりますが、多くの企業においてScope3の割合が大きくなる傾向があります。
そのため、Scope3を含めて排出量を捉えることが、企業活動の実態を理解するうえで重要とされています。
Q4. Scope3は開示しなければならないのでしょうか?
近年は、サステナビリティ開示の中でScope3に関する情報開示が求められるケースが増えています。
ただし、どのように算定・開示するかについては、制度や企業の状況に応じた整理が必要です。
Q5. Scope3の算定はすぐに始めるべきですか?
多くの企業ではすでに算定が進められていますが、単に算定を行うだけでなく、その結果をどのように解釈し、経営や開示に活用するかという視点も重要です。
Q6. Scope3の次に何を理解すべきですか?
Scope3の重要性を理解した後は、
- Scope3とは何か(定義・対象)
- なぜ算定が難しいのか
といった論点を整理することが重要です。
出典
- 環境省「サプライチェーン排出量とは」 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/
- 環境省「排出量算定について」 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
- 各業種におけるサプライチェーン排出量の傾向 https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/11/2/11_129/_pdf/-char/ja





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