【カテゴリ別解説編】Scope3カテゴリ4・9とは|上流・下流輸送の違いと算定の考え方
目次
Scope3カテゴリ4とカテゴリ9は、いずれも輸送に伴う排出量を対象とするカテゴリです。
一般的には、カテゴリ4は「上流輸送」、カテゴリ9は「下流輸送」と整理されることが多いものの、これはあくまで位置関係を示した分類であり、算定の考え方そのものを説明するものではありません。
実務で算定に取り組むと、
- カテゴリ4は調達元や輸送手段を把握しやすく、実態に基づいて整理できる
- カテゴリ9は特にBtoCの場合、販売後の輸送を直接把握できないため、前提条件が必要
といった違いに直面します。
同じ「輸送」に関するカテゴリでありながら、このような違いが生じるのは、排出の構造自体は共通である一方で、データの取得可能性が異なるためです。
本記事では、Scope3カテゴリ4・9について、
- カテゴリの位置づけ(上流/下流という整理の意味)
- 輸送排出の共通構造
- 実務における算定の違い(BtoB・BtoC含む)
- 物流設計との関係
といった観点から整理します。
なお、Scope3全体の定義や15カテゴリの整理については「Scope3とは?算定対象・15カテゴリをわかりやすく解説」、なぜ算定が難しいのかという背景については「Scope3算定はなぜ難しいのか 有価証券報告書・SSBJ開示で説明が難しくなる理由」で解説しています。
本記事の要約
- Scope3カテゴリ4(上流輸送)・カテゴリ9(下流輸送)は、いずれも輸送に伴う排出量を対象とする
- 排出量は「輸送量 × 距離 × 輸送手段」によって決まる共通構造を持つ
- カテゴリ4は把握しやすい一方、カテゴリ9は特にBtoCで輸送実態の把握が難しい
- そのためカテゴリ9では、前提条件に基づく算定となるケースが多い
- 物流の意思決定はコスト・品質・納期で行われることが多く、排出量と実務が結びつきにくい
- カテゴリ4・9では、排出量の正確性よりも「算定結果をどう読み取り、どう活用するか」が重要になる
1.Scope3カテゴリ4・9とは(輸送に関する排出の分類)
Scope3カテゴリ4およびカテゴリ9は、いずれも輸送に伴う温室効果ガス(GHG)排出量を対象とするカテゴリです。
カテゴリ4は、自社が調達する原材料や製品の輸送(上流側)に伴う排出を対象とし、カテゴリ9は、自社が販売した製品の輸送(下流側)に伴う排出を対象とします。
ここでいう「上流」「下流」という表現は、サプライチェーンにおける位置関係を示す整理であり、算定方法そのものの違いを示すものではありません。
また、いずれのカテゴリも、自社が直接管理していない輸送に伴う排出を対象とする点で共通しています。
- カテゴリ4:調達に伴う輸送(サプライヤー→自社)
- カテゴリ9:販売後の輸送(自社→顧客)
このように、カテゴリ4とカテゴリ9は、サプライチェーンにおける輸送・物流活動を対象としながら、「どの範囲の輸送を扱うか」により区分されたカテゴリであると整理できます。
次章では、まず、カテゴリ4とカテゴリ9に共通する輸送排出の構造について整理します。その上で、サプライチェーンにおける位置の違い(上流/下流)が実務にどのような影響を与えるのかを見ていきます。
2.輸送排出の構造は同じ(手段・距離・量で決まる)
カテゴリ4とカテゴリ9は、サプライチェーン上の位置は異なるものの、輸送に伴う排出量の構造自体は共通しています。ここでは輸送排出の共通構造を整理します。
※カテゴリ4とカテゴリ9では、輸送に加えて倉庫での保管や荷役に伴うエネルギー使用が含まれる場合もあります。つまり、実際には「輸送」だけでなく、物流活動全体に伴う排出が対象となるカテゴリです。ただし、本記事ではカテゴリ4・9の基本構造を理解しやすくするため、まずは輸送そのものに伴う排出構造に焦点を当てて整理します。
輸送に伴う排出量は、一般的に以下の要素の組み合わせによって決まります。
- 輸送手段(トラック・船舶・航空など)
- 輸送量(重量等)
- 輸送距離
これらを踏まえると、排出量は概念的に次のように整理できます。
排出量 = 輸送量 × 輸送距離 × 輸送手段(排出原単位)
重要なのは、こうした構造はカテゴリ4とカテゴリ9で変わるものではないという点です。 どちらのカテゴリも、輸送排出は「どれだけ運び・どれだけの距離を・どの手段で運ぶか」によって決まります。
このように、カテゴリ4とカテゴリ9は、排出の計算構造そのものは共通している、という前提に立って理解することが重要です。
3.実務で何が違うのか(データの取り方と前提条件)
前章で見たように、カテゴリ4とカテゴリ9は、排出の構造自体は同じである一方で、実務においては算定の進め方に違いが生じます。その違いの中心にあるのが、輸送データをどこまで把握できるかという点です。
カテゴリ4(上流輸送)では、
- 調達先(サプライヤー)
- 納入ルート
- 輸送手段
といった情報が、取引条件や物流管理の中で把握されているケースが多く、比較的、実態に基づいた整理が可能です。
一方で、カテゴリ9(下流輸送)では、
- 顧客までの配送経路
- それぞれの輸送手段
といった情報を、自社で直接把握できないケースが多くあります。特にBtoCの場合は、配送事業者や顧客の受取方法に依存する部分が大きく、個別の輸送実態を把握することは現実的ではありません。
このような違いから、実務上は次のような整理になります。
- カテゴリ4:実態に基づいたデータで算定しやすい
- カテゴリ9:前提条件や平均値に基づく整理になりやすい
さらに、
- 積載率
- 輸送効率(混載・共同配送など)
- 往復輸送の有無
といった要素によって変動しますが、これらを個別に精緻に把握することは難しい場合も多く、実務では輸送手段別の原単位や一定の前提を用いて整理することが一般的です。
この結果として、カテゴリ4とカテゴリ9では、同じ算定構造であるものの、取得できるデータ品質が異なるため、算定方法に大きな違いが生じることになります。
表.カテゴリ4とカテゴリ9のデータ取得の違い
| 観点 | カテゴリ4(上流輸送) | カテゴリ9(下流輸送) |
|---|---|---|
| 輸送の把握 | 把握しやすい | 把握が難しい |
| 輸送ルート | 比較的明確 | 個別に変動する |
| 輸送手段 | 把握可能 | 一部不明な場合あり |
| 距離 | 推定・把握可能 | 推定が中心 |
| データの性質 | 実態ベース | 前提・平均ベース |
| 算定の考え方 | 実データに基づく算定 | 前提条件に基づく推計 |
| 説明のしやすさ | 比較的説明しやすい | 前提説明が必要 |
4.BtoBとBtoCで算定の考え方はどう変わるのか
カテゴリ4とカテゴリ9の違いは、取引形態によってさらに顕著になります。特に重要なのが、BtoBとBtoCの違いです。
BtoB(企業間取引)の場合、
- 納入先や配送先が明確である
- 物流条件(輸送手段・ルート)が一定程度把握できる
といった特徴があるため、カテゴリ4・カテゴリ9のいずれにおいても、輸送の実態に近い形で整理できるケースが多くなります。
一方でBtoC(消費者向け販売)の場合、特にカテゴリ9では、
- 幹線輸送や地域配送までは一定のパターンで整理できる一方で、最終的な配送(ラストワンマイル)の条件は変動する
- 配送事業者や配送方法が多様である
- ラストワンマイルの実態を把握しづらい
といった特徴があります。
このため、BtoCにおけるカテゴリ9では、個別の輸送実態を把握することが難しく、平均値や前提条件に基づいた整理が中心になる、という傾向があります。
この違いから、実際の算定においては、多くの場合以下のようになります。
- BtoB:輸送データを把握しやすく、実態ベースで整理
- BtoC:輸送データの把握が難しく、前提ベース(シナリオベース)で整理
つまり、カテゴリ4とカテゴリ9の違いは、上流/下流という位置の違いだけでなく、「どこまで輸送を追跡できるか」という点に強く依存するといえます。
表.カテゴリ4とカテゴリ9の違い(データ取得の観点)
| 観点 | カテゴリ4(上流輸送) | カテゴリ9(下流輸送) |
|---|---|---|
| 対象 | 調達に伴う輸送 | 販売後の輸送 |
| 位置 | 上流 | 下流 |
| データ取得 | 比較的容易(把握可能) | 困難な場合あり |
| 算定方法 | 実態ベースで算定しやすい | シナリオベースになりやすい |
| BtoB | 追跡可能 | 追跡可能 |
| BtoC | ― | 追跡困難(仮定が必要) |
| 本質 | 調達構造の問題 | 物流・販売構造の問題 |
5.カテゴリ4・9は「算定と物流が結びつきにくい領域」である
ここまで見てきたように、カテゴリ4とカテゴリ9は、輸送に伴う排出を対象としながらも、データの取得方法や把握できる範囲に違いがあります。一方で実務においては、これらの排出に関わる意思決定は、必ずしも排出量を前提に行われているわけではありません。
例えば、物流の現場では、コスト(Cost)、品質(Quality)、納期(Delivery)といった観点で輸送ルートや物流事業者が選定されることが一般的であり、排出量は直接的な意思決定要素になっていないケースも多く見られます。
この結果として、
- 算定上は排出量が可視化される
- しかし物流の意思決定とは直接結びついていない
という状況が生じます。
特にカテゴリ9では、輸送の実態を個別に把握することが難しいため、排出量は算定されるものの、その結果をどのように活用すればよいのかが見えにくいという特徴があります。
このようにカテゴリ4・9は、物流の実務と排出量が必ずしも結びついていない領域であるといえます。
6.算定結果をどのように活用すべきか(実務での扱い方)
カテゴリ4・9では、排出量と物流の実務が必ずしも結びついていないため、算定結果をそのまま意思決定に用いることは難しい場合があります。そのため重要なのは、算定結果を単なる数値として捉えるのではなく、どのような前提で整理された数値なのかを理解した上で活用することです。
例えば、
- どの輸送区間を対象としているのか
- どの輸送手段・原単位を用いているのか
- どの程度の粒度で把握されているのか
といった前提によって、算定結果の意味合いは変わります。
その上で、実務においては以下のような活用が考えられます。
- 排出量の大きい輸送区間やカテゴリの特定
- 輸送手段(モーダル)の違いによる影響の把握
- 物流構造(拠点配置・輸送距離)の見直しに向けた示唆
ただし、これらは個別の輸送単位で精緻に最適化するというよりも、全体の傾向や構造を把握するための情報として活用する、という位置づけが現実的です。
このようにカテゴリ4・9では、数値の正確性そのものよりも、その数値をどのように読み取り、どのように意思決定に活かしていくか、が重要になります。
この「排出量と実務が結びついていない」という構造は、カテゴリ4・9に限ったものではありません。Scope3は排出量を測ること自体よりも、排出量と実務がどのように結びついているか(あるいは結びついていないか)を理解し、どう扱うかが重要となる領域です。これがScope3が難しいと感じる要因です。
※Scope3算定をどう設計するか では、こうした設計の考え方について詳しく解説しています。
→ Scope3算定をどう設計するか~排出削減の取り組みと算定結果を結びつける考え方
※Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ Scope3カテゴリ1とは|購入した製品・サービスの排出が最大になる理由と算定の難しさ
※Scope3カテゴリ11(使用)については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→Scope3カテゴリ11とは|使用段階の排出が企業価値と直結する理由と算定の考え方
7.まとめ|カテゴリ4・9は「輸送」ではなく「扱い方」を理解する領域
Scope3カテゴリ4・9は、いずれも輸送に伴う排出を対象とするカテゴリですが、重要なのは単なる上流・下流の違いではありません。実務においては、排出量と物流の意思決定が必ずしも結びついていない、という特徴があります。
物流はコスト・品質・納期といった観点で最適化される一方で、算定された排出量はそのまま実務に活かしにくいという状況が生じます。そのためカテゴリ4・9では、排出量を正確に測ることよりも、その数値をどのように読み取り、活用するか、が重要になります。
また、この特徴は、調達(カテゴリ1)、製品使用(カテゴリ11)といった他のScope3カテゴリにも共通しています。
Scope3は、排出量と実務がどのように結びついているか(あるいは結びついていないか)を理解し、どう扱うか、が問われる領域です。
Scope3シリーズ関連記事|本編
Scope3関連記事は、以下の順で読むと理解が深まります。
Why編 → What編 → 課題編 → 設計編 → 実務編
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- 課題編|Scope3算定はなぜ難しいのか 〜有価証券報告書・SSBJ開示で説明が難しくなる理由
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- 実務編|Scope3削減とは?サプライヤーエンゲージメントの進め方
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- Scope3カテゴリ4・9とは|上流・下流輸送の違いと算定の考え方(本記事)
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FAQ
Q1. Scope3カテゴリ4とカテゴリ9の違いは何ですか?
カテゴリ4は調達に伴う上流輸送、カテゴリ9は販売後の下流輸送を対象としています。
上流・下流という位置の違いはありますが、排出量の算定構造自体は共通しており、「輸送量 × 距離 × 輸送手段」によって排出量が決まります。
Q2. なぜカテゴリ9の算定は難しいのですか?
カテゴリ9は販売後の輸送を対象とするため、特にBtoCの場合は配送ルートや輸送手段などの実態を企業が直接把握することが難しいためです。
そのため、実務では平均的な条件や前提に基づいて算定されるケースが多くなります。
Q3. カテゴリ4とカテゴリ9で算定方法は異なりますか?
基本的な算定方法は共通しており、「輸送量 × 距離 × 輸送手段(排出係数)」で算定されます。
ただし、カテゴリ4は実態データに基づいて算定しやすい一方で、カテゴリ9は前提条件に基づく推計になりやすいという違いがあります。
Q4. 輸送排出はどこまで正確に把握する必要がありますか?
すべての輸送を個別に正確に把握することは現実的ではありません。
そのため、実務では一定の前提や原単位を用いて全体の傾向を把握することが一般的です。重要なのは、数値の正確性そのものよりも、どのような前提で算定されているかを理解することです。
Q5. カテゴリ4・9の排出量は削減できますか?
直接的にすべての輸送をコントロールすることは難しいですが、
- 輸送距離の短縮
- 輸送手段の見直し(モーダルシフト)
- 物流拠点の最適化
などによって排出量に影響を与えることは可能です。
ただし、これらはコストや納期とのバランスの中で検討される必要があります。
Q6. なぜ排出量と物流の実務が結びつきにくいのですか?
物流の意思決定は、コスト・品質・納期といった観点で行われることが多く、排出量は直接的な判断軸になっていないケースが多いためです。
その結果、算定された排出量がそのまま実務の改善に結びつきにくいという状況が生じます。
出典
■ GHGプロトコル
- GHG Protocol https://ghgprotocol.org/standards/scope-3-standard




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