Scope1・Scope2とは?違い・算定方法・必要データをわかりやすく解説

企業がGHG(温室効果ガス)排出量を把握する際、自社に関係する排出量はScope1・Scope2・Scope3に区分して整理されます。

このうちScope1・Scope2は、自社の事業活動や購入したエネルギーに関係する排出であり、企業がGHG排出量の算定に取り組む際の基本となる領域です。

一方、実務では「Scope1とScope2は何が違うのか」「具体的に何を算定すればよいのか」「どの排出係数を使えばよいのか」「省エネ法や温対法ですでに集めているデータは使えるのか」といった疑問も生じます。

特に、温対法に基づいてGHG排出量を算定している企業では、「すでにScope1・2も算定できている」と考えてしまう場合があります。しかし、温対法とGHGプロトコルでは、対象となる組織の範囲や算定・報告の考え方が完全に同じではありません。

本記事では、Scope1・Scope2の違いから、算定範囲、具体的な排出源、算定方法、必要なデータ、Scope2におけるロケーション基準・マーケット基準、省エネ法・温対法との関係まで、企業実務の観点から整理します。

GHGやGHG排出量、Scope1・2・3の全体像については、以下の記事で解説しています。
「GHGとは?温室効果ガス・GHG排出量・Scope1・2・3の関係をわかりやすく解説」

1.Scope1・Scope2とは

GHGプロトコルでは、企業に関係するGHG排出量をScope1・Scope2・Scope3に区分します。

  • Scope1:自社が所有・支配する排出源からの直接排出
  • Scope2:他社から購入した電気・熱・蒸気・冷却などの使用に伴う間接排出
  • Scope3:Scope1・2以外のバリューチェーンにおける間接排出

Scope1とScope2の大きな違いは、排出が自社の排出源から直接発生するのか、購入したエネルギーの使用に伴って間接的に発生するのかという点です。たとえば、工場のボイラーで都市ガスを燃焼した場合、その排出はScope1です。一方、その工場で購入電力を使用した場合、発電時の排出はScope2として算定します。

2.Scope1とScope2の違い

Scope1とScope2の違いを整理すると、以下のようになります。

項目Scope1Scope2
排出区分直接排出間接排出
主な対象自社が所有・支配する排出源購入した電気・熱・蒸気・冷却水など
主な例ボイラー、炉、社有車、製造工程、冷媒漏えいなどオフィス・工場等で使用する購入電力、購入熱など
主な活動量燃料使用量、冷媒漏えい量、工程活動量など電力使用量、熱・蒸気使用量など
基本的な算定活動量×排出係数活動量×排出係数
主な実務論点算定範囲、排出源・GHG種類の網羅算定範囲、ロケーション/マーケット基準、電力契約等

どちらも基本的には活動量と排出係数を使って算定しますが、対象となる排出源や必要なデータは異なります。

また、Scope1・2を算定する際は、個々の排出源を計算する前に、どの会社・拠点・事業を算定対象とするかという算定範囲を整理することも重要です。

3.Scope1・2の算定範囲|GHGプロトコルの「組織境界」とは

Scope1・Scope2の算定を始める際には、まずGHG排出量をどの組織範囲で集計するのかを決めます。

GHGプロトコルでは、この算定対象となる組織の範囲を「組織境界(Organizational Boundary)」として整理しています。

企業グループには、親会社のほか、国内外の子会社や合弁会社など、さまざまな事業体があります。これらのうち、どこまでを自社のGHG排出量として算定対象に含めるかを、算定前に明確にする必要があります。

GHGプロトコルでは、組織境界を設定する方法として、大きく「出資比率基準」と「支配力基準」の2つのアプローチを示しています。

出資比率基準とは

出資比率基準(Equity Share Approach)は、対象となる事業から発生するGHG排出量を、その企業が持つ持分比率に応じて算入する考え方です。

たとえば、ある事業に50%の持分を有している場合、その事業のGHG排出量の50%を自社の排出量として算入する、という考え方です。

支配力基準とは

支配力基準(Control Approach)は、企業が支配している事業について、そのGHG排出量を算入する考え方です。

GHGプロトコルでは、支配力基準をさらに「財務支配(Financial Control)」と「経営支配(Operational Control)」に分けています。どの事業体を組織境界に含めるかは、採用するアプローチによって異なる場合があります。

アプローチ組織境界を決める基本的な考え方
出資比率基準事業に対する持分比率に応じてGHG排出量を算入する
財務支配財務上支配している事業のGHG排出量を算入する
経営支配事業活動に関する方針を導入・実施する権限を持つ事業のGHG排出量を算入する

組織境界を設定したうえで、その境界内で発生するGHG排出をScope1・Scope2に区分します。また、Scope3を算定する際にも、この組織境界が自社のScope1・2とバリューチェーン上のその他の間接排出を区分する前提となります。

そのため、Scope1・2の算定では、「どの排出源をどう計算するか」を考える前に、どの会社や事業を算定対象とするかを確認することが重要です。

たとえば、国内の対象事業所を中心とする制度報告と、海外子会社まで含めた企業グループ全体のGHG排出量を算定する場合とでは、対象範囲や収集すべきデータが異なります。

まず組織境界を明確にし、その範囲に含まれる会社・事業について、Scope1・2に該当する排出源と必要なデータを整理することが、GHG排出量算定の出発点となります。

4.Scope1とは|自社からの直接排出

Scope1とは、自社が所有・支配する排出源から直接発生するGHG排出量です。代表的な排出源には、次のようなものがあります。

  • 工場や事業所で使用するボイラー・炉などの燃料燃焼
  • 社有車などで使用するガソリン・軽油
  • 製造工程から発生するGHG
  • 空調設備や冷凍・冷蔵設備などからの冷媒漏えい

GHGプロトコルでは、Scope1の代表例として固定燃焼、移動燃焼、プロセス排出、漏えい排出などを挙げています。

Scope1で注意したいのは、燃料使用に伴うCO2排出だけが対象ではないという点です。燃料燃焼ではCO2以外にCH4やN2Oが発生する場合があるほか、企業の事業活動によっては、社有車の燃料使用、製造工程からの排出、冷媒漏えいによるHFCsなどもScope1の対象となります。

Scope1の算定方法

Scope1の算定は、基本的に次の考え方で行います。

GHG排出量 = 活動量 × 排出係数

たとえば燃料燃焼の場合は、燃料使用量 × 燃料種類や排出源に対応する排出係数、によって排出量を算定します。

CO2以外のGHGについては、その排出係数がCO2換算前の値である場合には、地球温暖化係数(GWP)を使ってCO2eへ換算します。

実際の算定では、燃料燃焼、製造工程、冷媒漏えいなど、排出源ごとに必要な活動量や適用する排出係数が異なります。そのため、まず自社のScope1に該当する排出源を把握し、それぞれに必要なデータを確認することが重要です。

Scope1算定に必要なデータ

Scope1の算定では、主に「活動量」「排出係数」「GWP」を確認します。

区分排出源・項目必要なデータの例
活動量固定燃焼都市ガス、LPG、重油などの使用量
活動量移動燃焼ガソリン、軽油などの使用量
活動量工業プロセス生産量、原料使用量など
活動量漏えい排出冷媒種類、充填量、補充量、漏えい量など
排出係数各排出源に対応する係数燃料種類、設備種類、排出活動等に応じた係数
GWP地球温暖化係数CH4、N2O、HFCsなどをCO2eへ換算する係数

活動量は、実際の事業活動の規模を表すデータです。たとえば燃料燃焼では燃料使用量、工業プロセスでは生産量や原料使用量などが該当します。

排出係数は、活動量1単位あたりにどれだけGHGが排出されるかを示す係数です。燃料種類や排出源に応じて、適切な係数を選択します。

GWPは、CO2以外のGHGをCO2換算するために使用します。ただし、使用する排出係数があらかじめCO2eベースで設定されている場合は、GWPがすでに反映されているため、改めて掛ける必要はありません。

なお、必要となるデータの粒度は排出源によって異なります。たとえば燃料燃焼に伴うCH4やN2Oを算定する場合、燃焼設備の種類によって適用する排出係数が異なることがあるため、工場全体の燃料使用量だけでなく、設備ごとの燃料種類や使用量を把握する必要がある場合があります。

なお、省エネ法や温対法への対応で収集しているデータをScope1算定に活用できる場合があります。ただし、必要な排出源やデータの粒度が異なる場合があるため、詳しくは9章で整理します。

Scope1算定の基本的な手順

Scope1算定は、大きく次の流れで進めます。

  1. 算定対象となる組織・拠点を決める
  2. Scope1に該当する排出源を洗い出す
  3. 排出源ごとに必要な活動量を確認・収集する
  4. 燃料種類や設備・排出活動に応じた排出係数を確認する
  5. 活動量×排出係数で各GHGの排出量を算定する
  6. 必要に応じてGWPを用いてCO2eへ換算する
  7. 拠点・会社単位の結果を集計する

Scope1算定では、単に燃料使用量を集計するだけではなく、どの排出源から、どのGHGが発生しているかを把握し、それに応じたデータを収集することが重要です。

5.Scope2とは|購入エネルギーによる間接排出

Scope2とは、企業が他社から購入した電気・熱・蒸気・冷却などのエネルギーを使用することに伴う間接的なGHG排出量です。代表的なのは購入電力です。企業自身が発電所で燃料を燃焼しているわけではありませんが、使用している電力を発電する際にはGHGが排出されるため、その排出をScope2として算定します。

GHGプロトコルでは、Scope2について「ロケーション基準」と「マーケット基準」という2つの算定アプローチを示しています。両者では使用する排出係数や必要となる情報が異なるため、Scope2の算定では電力・エネルギー使用量だけでなく、電力契約などの情報も確認する必要があります。

Scope2の算定方法

Scope2の算定も、基本的には次の考え方で行います。

GHG排出量 = エネルギー使用量 × 排出係数

たとえば購入電力の場合は、**電力使用量 × 電力に対応する排出係数、**によって排出量を算定します。

ただし、Scope2ではロケーション基準とマーケット基準によって適用する排出係数や必要となる情報が異なります。それぞれの考え方については、次章で詳しく解説します。

Scope2算定に必要なデータ

Scope2の算定では、主に「活動量」「排出係数」「契約・属性情報」を確認します。

区分項目必要なデータの例
活動量電力使用量購入電力の使用量(kWh)
活動量熱・蒸気等の使用量購入した熱・蒸気・冷却などの使用量(GJ等)
排出係数電力・エネルギーに対応する排出係数地域・系統平均、電力会社別、電力メニュー別など
契約・属性情報電力会社契約している電気事業者
契約・属性情報電力メニュー再エネメニューなど契約している電力プラン
契約・属性情報再エネ関連情報証書、契約情報など

活動量は、実際に使用した電気・熱・蒸気などの量を示すデータです。

排出係数は、エネルギー使用量1単位あたりのGHG排出量を示す係数です。また、マーケット基準では、電力会社や電力メニュー、証書などの契約・属性情報も確認します。

Scope2算定の基本的な手順

Scope2も、Scope1と同様に、まず算定対象となる範囲と必要なデータを整理したうえで算定します。

基本的な流れは次のとおりです。

  1. 算定対象となる組織・拠点を決める
  2. 購入している電気・熱・蒸気・冷却などを洗い出す
  3. 電力・熱などの使用量を収集する
  4. 電力会社、電力メニュー、契約・証書などの情報を確認する
  5. ロケーション基準・マーケット基準それぞれで必要となる排出係数やデータを確認する
  6. 各基準に沿ってScope2排出量を算定する
  7. 拠点・会社単位の結果を集計する

6.Scope2のロケーション基準とマーケット基準の違い

Scope2のロケーション基準とマーケット基準では、排出量に何を反映するかという考え方が異なります。

ロケーション基準とは

ロケーション基準では、企業が電力を使用している地域・系統の平均的な排出係数を用いてScope2排出量を算定します。

そのため、企業が個別にどのような電力契約を結んでいるかではなく、その地域で供給される電力の平均的な電源構成や排出特性が算定結果に反映されます。

マーケット基準とは

マーケット基準では、企業が実際に選択した電力契約や電力メニュー、証書などの情報を反映してScope2排出量を算定します。

そのため、同じ電力使用量であっても、どのような電力を調達しているかによって算定結果が異なる場合があります。

なお、マーケット基準で利用できる契約・証書等にはGHGプロトコル上の要件があります。具体的に使用する排出係数や情報については次章で整理します。

ロケーション基準とマーケット基準の違い

両者の違いを整理すると、以下のとおりです。

項目ロケーション基準マーケット基準
基本的な考え方電力を使用する地域・系統の平均的な排出を反映企業が選択した電力調達内容を反映
主に使用する情報電力使用量、地域・系統等の排出係数電力使用量、電力契約、電力メニュー、証書等
排出係数地域・系統等に対応する係数契約・電力属性情報等に応じた係数
電力会社・メニュー個別の契約内容を直接反映しない契約内容に応じて反映
再エネ調達企業個別の調達行動を直接反映する考え方ではない要件を満たす契約・証書等を反映可能
実務上の主な確認事項電力使用地域、使用量、適用する地域・系統係数電力会社、電力メニュー、契約・証書、適用する排出係数

このように、Scope2排出量に地域の電力事情を反映するのか、企業自身の電力調達を反映するのかという点に違いがあります。

なお、GHGプロトコルでは、マーケット基準を適用できる市場で事業を行う企業について、ロケーション基準とマーケット基準の両方によるScope2排出量の算定・報告を求めています。

7.Scope2の排出係数とは?どの排出係数を使うのか

Scope2では、ロケーション基準とマーケット基準で使用する排出係数や情報が異なります。日本国内の算定では、ロケーション基準では全国平均係数、マーケット基準では契約している電力会社や電力メニューに対応する排出係数などを確認するのが基本的な考え方です。

ロケーション基準で使用する排出係数

ロケーション基準では、電力を使用する地域・系統の平均的な排出を反映する排出係数を使用します。日本国内では、環境省が公表する全国平均係数などを参照して算定します。

算定の考え方は、電力使用量 × 全国平均などの地域・系統に対応する排出係数、です。

ロケーション基準では、個別の電力会社や電力メニューではなく、電力を使用する地域の平均的な排出特性を反映します。

マーケット基準で使用する排出係数

マーケット基準では、企業が実際に調達した電力の内容を反映するため、契約している電力会社や電力メニューに対応する排出係数などを確認します。たとえば、電力会社・電力メニューに対応する排出係数、電力契約に関する情報、再生可能エネルギーに関する証書などの電力属性情報を確認します。

GHGプロトコルでは、マーケット基準で使用する契約手段や電力属性情報について、優先順位と品質要件を示しています。そのため、契約している電力会社や保有している証書などの情報であれば、どの情報でも自由に使用できるわけではありません。

利用できる契約・属性情報がない場合には、残余ミックスなど、GHGプロトコルで認められる別のデータを使用する場合があります。

日本で公表されている温対法の排出係数との関係

日本では、温対法に基づくGHG排出量の算定・報告に使用するため、電気事業者別の基礎排出係数や調整後排出係数などが環境省・経済産業省から公表されています。

一方、GHGプロトコルに基づくScope2算定では、ロケーション基準・マーケット基準それぞれの考え方に沿って、使用する排出係数や契約・属性情報を確認します。そのため、温対法対応で使用している係数をそのまま当てはめるのではなく、Scope2算定の基準に応じて使用する情報を確認することが重要です。

整理すると、以下のようになります。

算定基準日本国内で主に確認する排出係数・情報
ロケーション基準全国平均係数など、地域・系統の平均的な排出を示す係数
マーケット基準契約している電力会社・電力メニューに対応する排出係数、契約・証書などの電力属性情報
マーケット基準
(契約・属性情報が利用できない場合)残余ミックスなど、GHGプロトコルの要件に沿った代替データ

Scope2では、単に「どの排出係数が正しいか」を決めるのではなく、ロケーション基準では地域・系統の平均的な排出を、マーケット基準では自社の電力調達内容を反映するという違いを踏まえて、使用する係数や情報を確認することが重要です。

8.Scope2算定と再生可能エネルギー調達の関係

企業がマーケット基準によるScope2排出量を削減する代表的な方法の一つが、再生可能エネルギーの活用です。たとえば、再エネ電力メニューへの切り替えや、一定の要件を満たす証書等の活用によって、マーケット基準によるScope2排出量に企業の電力調達内容を反映できます。

ただし、再エネを調達すれば自動的にScope2排出量がゼロになるわけではありません。マーケット基準で再エネ調達を反映するには、契約している電力メニューの排出係数や、利用する証書が示す電力属性などを確認し、それらがGHGプロトコルの要件に沿ってScope2算定に利用できるかを確認します。たとえば、再エネ電力メニューを利用している場合は、そのメニューに対応する排出係数を確認します。証書を利用する場合は、対象となる電力使用量との対応や、証書が示す電源属性などを確認したうえで算定に反映します。

このように、Scope2削減では、単に再エネを調達するだけでなく、調達した電力や証書の情報を算定に反映できる状態で管理することが重要です。

なお、ロケーション基準のScope2排出量は、再生可能エネルギーの調達によっても変化はしません。

※再生可能エネルギーの主な調達手法や、それぞれの特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
5分でわかる再生可能エネルギーの調達手法

9.温対法で算定していればScope1・2も算定済み?省エネ法・温対法との違い

Scope1・2の算定を進める企業では、「省エネ法や温対法ですでにデータを収集・算定しているので、Scope1・2も算定できているのではないか」という疑問が生じることがあります。

省エネ法や温対法への対応で収集している燃料使用量、電力使用量、GHG排出量などのデータは、Scope1・2算定に活用できるものが多くあります。一方で、省エネ法・温対法への対応が、そのままGHGプロトコル上のScope1・2算定の完了を意味するわけではありません。

主な違いとして、算定対象となる組織範囲、必要となるデータの範囲・粒度、制度上の報告対象基準などがあります。

省エネ法とScope1・2算定の関係

省エネ法への対応では、企業によって、燃料使用量、電力使用量、熱購入量などのエネルギー使用データをすでに収集・管理しています。これらは、Scope1の燃料燃焼やScope2の購入電力・熱などを算定する際の活動量として活用できます。

ただし、Scope1で必要となるデータはエネルギー使用量だけではありません。企業の事業活動によっては、製造工程からのGHG排出や冷媒漏えいなどもScope1の対象となります。また、燃料燃焼に伴うCH4やN2Oを算定する場合には、設備の種類によって適用する排出係数が異なることがあります。そのため、工場全体の燃料使用量だけでなく、設備ごとの燃料種類や使用量など、より細かなデータが必要になる場合もあります。

つまり、省エネ法対応で収集しているデータはScope1・2算定の重要な出発点になりますが、GHGプロトコルで必要となる排出源やデータの粒度までカバーしているとは限りません。

温対法で算定していればScope1・2も算定済み?

温対法の算定・報告・公表制度では、対象となる事業者がGHG排出量を算定し、国に報告します。そのため、国内の燃料使用や購入電力などに伴う排出については、GHGプロトコルのScope1・2算定と重なるデータや排出源が多くあります。

しかし、「温対法でGHG排出量を算定している=GHGプロトコル上のScope1・2も算定済み」とは限りません。

大きな違いの一つが、算定対象となる組織範囲です。GHGプロトコルでは、出資比率基準や支配力基準などに基づいて「組織境界」を設定し、その範囲に含まれる排出をScope1・Scope2・Scope3に分類します。

そのため、GHGプロトコルに基づくScope1・2算定では、

  • どの会社・事業・拠点を組織境界に含めるか
  • 国内外の子会社や合弁事業などをどう扱うか
  • Scope1として把握すべき排出源が網羅されているか
  • Scope2をロケーション基準・マーケット基準でどのように算定するか
  • それぞれの基準でどの排出係数や契約情報を使用するか

などを改めて確認する必要があります。

また、温対法には、報告対象となる事業者やGHGについて一定の基準があります。たとえば、エネルギー起源CO2以外のGHGでは、GHGの種類ごとに一定以上の排出量となる場合に報告対象となります。一方、GHGプロトコルに基づくScope1・2算定では、温対法で報告対象外となっていることだけを理由に、その排出源やGHGを自動的に算定対象外とすることはできません。そのため、温対法の算定結果をScope1・2算定に活用する際には、制度上の裾切りによって含まれていないGHGや排出源がないかも確認する必要があります。

Scope1・2と省エネ法・温対法の違い

Scope1・2省エネ法温対法
主な目的企業のGHG排出量を算定・管理・報告するエネルギー使用の合理化・管理GHG排出量を算定・報告する
何を把握するかScope1の直接排出、Scope2の購入エネルギー由来排出燃料・電力・熱などのエネルギー使用量制度対象となるGHG排出量
算定範囲の決め方出資比率基準・支配力基準等により組織境界を設定省エネ法上の対象範囲温対法上の対象範囲
海外拠点の扱い設定した組織境界に応じて対象となる海外事業所は対象外海外事業所・海外法人は対象外
Scopeという区分Scope1・Scope2として区分用いない用いない
Scope1との関係燃料燃焼、製造工程、冷媒漏えいなどを対象に算定燃料使用量など一部の活動量を活用できる燃料使用等に伴う活動量・算定結果を活用できる
Scope2との関係ロケーション基準・マーケット基準により算定電力・熱などの使用量を活用できる電力使用量や排出係数等を活用できる
制度上の裾切り・報告基準温対法のような一律の報告閾値はない基準あり基準あり
既存データをそのまま使えるか活用できるが、不足する排出源やデータ粒度の確認が必要活用できるが、組織境界・裾切り・Scope2算定方法等の確認が必要

重要なのは、省エネ法・温対法への対応をゼロからやり直すことではありません。

すでに保有しているデータを活かしながら、
 ① GHGプロトコル上の組織境界を確認する
 ② Scope1・2に該当する排出源を整理する
 ③ 既存データでカバーできる範囲と不足するデータを確認する
 ④ GHGプロトコルのルールに沿ってScope1・2を算定する

という流れで整理するのが実務的です。

つまり、省エネ法・温対法対応で蓄積してきたデータは、Scope1・2算定に活用できる重要な資産です。一方で、既存制度の算定範囲・データ粒度・報告対象基準と、GHGプロトコル上のScope1・2算定との差分を確認することがポイントになります。

10.Scope1・2とScope3の違い

Scope1・2が自社の直接排出と購入エネルギーに関係する排出を対象とするのに対し、Scope3はそれ以外のバリューチェーン上の間接排出を対象とします。

たとえば、

  • 原材料の購入
  • 物流
  • 出張
  • 従業員の通勤
  • 販売した製品の使用
  • 製品の廃棄

などです。

Scope3は15カテゴリに分類され、Scope1・2よりも多くの社内部門や取引先からデータを集める必要があるケースがあります。

※Scope3の対象範囲・15カテゴリ・算定方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
【What編】Scope3とは?対象範囲・15カテゴリ一覧・算定方法・課題と企業対応をわかりやすく解説

11.Scope1・2を算定した後に企業が取り組むこと

Scope1・2に加えてScope3まで算定することで、サプライチェーン全体のGHG排出構造を把握できます。

まず、Scope3まで算定範囲を広げることで、自社だけでなく、原材料調達や物流、製品の使用・廃棄などを含むサプライチェーン全体のGHG排出構造を把握できます。また、Scope1・2・3の排出量を排出源や活動ごとに把握することで、排出量の大きい領域を特定し、省エネルギー、設備更新、燃料転換、再生可能エネルギーの調達、サプライヤーとの削減活動など、具体的な削減施策の優先順位を検討できます。

さらに、SBTなどの削減目標の設定や、SSBJをはじめとするサステナビリティ情報開示への対応では、GHG排出量を一度算定するだけでは十分ではありません。毎年度、必要なデータを継続的に収集・更新し、算定結果やその根拠を管理できる状態を整える必要があります。

加えて、第三者保証への対応を見据える場合には、使用した活動量や排出係数、算定方法、修正履歴、根拠資料などを後から確認・説明できる状態にしておくことも重要です。

※SBTについては、以下の記事で詳しく解説しています。
SBTとは?SBTiとの違い・認定要件・Scope3・申請の流れを解説

※SSBJについては、以下の記事で詳しく解説しています。
SSBJ(サステナビリティ開示基準)とは?対象企業・義務化スケジュール・企業対応の全体像をわかりやすく解説

※第三者保証については、以下の記事で詳しく解説しています。
サステナビリティ開示における第三者保証とは?SSBJ対応と体制設計

実務では、複数の拠点やグループ会社からデータを収集するなかで、

  • データの粒度や形式が統一されていない
  • どの部署がどのデータを保有しているか整理されていない
  • 排出係数の更新方法が定まっていない
  • 算定根拠や証跡の管理方法が統一されていない

といった課題も生じます。そのため、Scope1・2・3の算定方法を理解した次の段階では、会社としてGHGデータを継続的に収集・管理し、削減・開示・保証に活用できる仕組みを整えることが重要になります。

※Scope1・2・3を横断して、必要なデータ、収集方法、管理体制、算定・確認の進め方をどのように整備するかについては、以下の会員限定記事で詳しく解説します。
→ 会員限定「GHG算定・データ管理ロードマップ」

12.Scope2算定基準の今後の動向

Scope2については、GHGプロトコルでScope 2 Guidanceの見直しが進められています。2025年10月から2026年1月にかけて改定案に関するパブリックコンサルテーションが実施され、ロケーション基準で用いる排出係数の精緻化や、マーケット基準における時間・地域の整合性などが議論されています。

現時点では現行のScope 2 Guidanceが引き続き基準となっていますが、今後の改訂によって、Scope2算定で使用するデータや排出係数、電力契約・属性情報の扱いが変わる可能性があります。そのため、企業は現行ルールに基づいて算定を進めつつ、改訂動向を継続的に確認することが重要です。

ちなみに、2026年7月にはフィードバック概要が公表され、改訂作業が継続しています。

※パブリックコンサルテーションの期間延長など、直近の動きについては以下のNews記事で紹介しています。
GHGプロトコル、パブコメ期間を2026年1月末まで延長

※また、Scope2に加え、組織境界やScope1・3などを含むGHGプロトコル改訂全体の方向性については、以下の記事で詳しく解説しています。
GHGプロトコル改訂の全体像と主な論点の概説

13.まとめ

Scope1とは、自社が所有・支配する排出源から直接発生するGHG排出量です。燃料燃焼だけでなく、企業の事業活動によっては、工業プロセスや冷媒漏えいなども対象となります。Scope2は、企業が購入した電気・熱・蒸気・冷却などの使用に伴う間接排出です。算定では電力使用量だけでなく、排出係数や電力契約、ロケーション基準・マーケット基準などの確認も重要になります。

Scope1・Scope2ともに、基本的な算定は「活動量×排出係数」で行います。ただし、その前提として、どの会社・拠点を算定対象にするかという組織境界・算定範囲を整理する必要があります。

また、省エネ法や温対法への対応で収集している燃料・電力・GHGデータは、Scope1・2算定に活用できる部分があります。一方で、対象範囲や必要なデータ、算定・報告の考え方は完全に同じではありません。特に、「温対法でGHG排出量を算定しているからScope1・2も算定済み」とは必ずしも言えません。省エネ法・温対法の既存データは活用できる一方、GHGプロトコルとは算定範囲や方法が異なるため、組織境界や不足する排出源・データを確認する必要があります。

GHG排出量を削減や目標設定、情報開示、第三者保証、経営管理につなげていくためには、Scope1・2・3を一度算定するだけではなく、必要なデータを継続的に収集・更新し、算定根拠まで管理できる仕組みを整えることが重要です。

FAQ

Scope1とは何ですか?

Scope1は、自社が所有・支配する排出源から直接発生するGHG排出量です。工場・事業所での燃料燃焼、社有車の燃料使用、製造工程、冷媒漏えいなどが代表例です。

Scope2とは何ですか?

Scope2は、他社から購入した電気・熱・蒸気・冷却などのエネルギーを使用することに伴う間接的なGHG排出量です。

Scope1とScope2の違いは何ですか?

Scope1は自社の排出源から発生する直接排出です。一方、Scope2は企業が購入した電気・熱などを生産する際に他社から発生する間接排出です。

Scope1・2の算定範囲はどのように決めますか?

GHGプロトコルでは、まず組織境界を設定し、どの会社・事業・拠点をGHG算定の対象とするかを決めます。そのうえで対象となる排出をScope1・2・3に分類します。企業グループでは子会社や合弁会社、海外拠点などの扱いも確認する必要があります。

Scope1はどのように算定しますか?

基本的には、燃料使用量などの活動量に排出係数を掛けて算定します。CO2以外のGHGについては、必要に応じてGWPを用いてCO2eへ換算します。

Scope2はどのように算定しますか?

基本的には、電力・熱などの使用量に対応する排出係数を掛けて算定します。Scope2ではロケーション基準・マーケット基準という異なる考え方があり、使用する係数や必要情報が異なります。

Scope2のロケーション基準とマーケット基準の違いは何ですか?

ロケーション基準は地域・系統の平均的な電源構成等を反映して算定する考え方です。マーケット基準は企業が選択した電力契約や電力メニュー、証書等を反映する考え方です。

Scope2ではどの排出係数を使えばよいですか?

算定する制度・基準、国・地域、電力会社、電力メニュー、契約や証書等によって異なります。温対法で公表されている基礎排出係数・調整後排出係数と、GHGプロトコル上のロケーション基準・マーケット基準は同じ概念ではないため、適用する基準に沿って確認する必要があります。

基礎排出係数と調整後排出係数の違いは何ですか?

いずれも温対法に基づき公表される電気事業者別の排出係数ですが、調整後排出係数は一定の非化石価値や認証排出削減量等を反映して調整されます。GHGプロトコルのロケーション基準・マーケット基準とは制度体系が異なるため、単純に対応付けることはできません。

再エネを利用するとScope2排出量はゼロになりますか?

必ずしもゼロになるわけではありません。利用する算定基準や電力契約、証書等の条件によってScope2への反映方法が異なるため、適用するルールを確認する必要があります。

温対法でGHG排出量を算定していれば、Scope1・2も算定済みですか?

必ずしもそうではありません。温対法で使用している燃料・電力などのデータや算定結果はScope1・2算定に活用できますが、組織境界や対象排出源、Scope2算定ルールなどが完全に同じではありません。

特に企業グループでは、連結子会社や海外拠点などを含む算定範囲をGHGプロトコルに基づいて改めて確認する必要があります。

省エネ法で集めているデータはScope1・2算定に使えますか?

燃料使用量や電力使用量など、多くのデータはScope1・2算定に活用できます。ただし、省エネ法で管理するデータだけではScope1の冷媒・工業プロセス等や、Scope2で必要な電力契約情報などをすべてカバーできない場合があります。

Scope1・2とScope3の違いは何ですか?

Scope1は自社からの直接排出、Scope2は購入エネルギーに伴う間接排出です。Scope3は、それ以外の原材料調達、物流、出張、製品使用・廃棄など、バリューチェーン上で発生する間接排出を指します。

出典

記事問い合わせCTA