SBTi、電力セクター向けNet-Zero Standard改訂案の第2次公開協議を開始

SBTi(Science Based Targets initiative)は2026年7月15日、電力セクター向け「Power Sector Net-Zero Standard」改訂案の第2次公開協議を開始しました。公開協議の期限は、2026年8月31日23時59分(米国太平洋時間)です。

今回の改訂案は、第1次公開協議で寄せられた意見や追加調査、専門家ワーキンググループからの提言を反映したものです。発電、送配電、電力小売など、電力セクター内の事業特性に応じた目標設定要件を具体化し、2050年までの世界全体のネットゼロ達成と整合する科学的根拠に基づく目標設定を支援することを目的としています。

改訂案の主な変更点

今回の改訂案では、Corporate Net-Zero Standard V2.0との整合に加え、対象となる活動・排出量、評価指標、目標設定方法などが見直されています。

論点改訂案の主な内容企業側の確認ポイント
基準体系Corporate Net-Zero Standard V2.0との関係を明確化共通要件と電力セクター固有要件の適用関係
対象活動・排出量送電・配電を個別に扱い、熱・電力生成の排出量を明確化。電力取引活動は対象外自社事業と目標対象範囲の一致
低炭素電力指標排出原単位に基づく低炭素電源の定義を見直し電源構成・排出原単位データの管理
送配電ロス技術的損失と非技術的損失を区分ロス量の算定方法とデータ取得体制
目標設定発電事業のScope1短中期目標、電力小売のScope3目標を更新既存目標や移行計画への影響
削減経路IEA「World Energy Outlook 2024」のNZEシナリオを反映し、地域別経路を設定対象地域に応じた削減経路の確認

このほか、バイオマスの持続可能性に関する要件は、Corporate Net-Zero Standard V2.0側で扱う形に変更されています。

Corporate Net-Zero Standard V2.0との関係を明確化

改訂案は、Corporate Net-Zero Standard V2.0と併用する前提で設計されています。

Corporate Net-Zero Standard V2.0は、すべての企業に適用される分野横断的な要件を示します。一方、Power Sector Net-Zero Standardは、電力セクターの活動を有する企業に追加で適用される、セクター固有の要件を定めます。

電力セクター基準が、特定の活動や排出源についてCorporate Net-Zero Standard V2.0の要件を修正または置き換える場合、企業は電力セクター基準に沿って対応する必要があります。

そのため、電力会社や電力小売事業者は、Corporate Net-Zero Standard V2.0だけを確認するのでは足りず、自社の発電、送配電、小売などの活動ごとに、どちらの要件が適用されるかを確認することが求められます。

Scope1・Scope3目標とデータ管理への影響

改訂案では、発電事業のScope1短中期目標や、電力小売事業者のScope3目標設定方法が見直されています。

電力小売事業者については、購入・販売する低炭素電力の割合を高める「alignment target」の考え方も公開協議の対象です。これにより、販売電力量だけでなく、電源構成、購入電力の排出原単位、最終需要家への販売実績などを継続的に把握する必要性が高まると考えられます。

送配電事業者においても、技術的損失と非技術的損失を区分して管理する方向性が示されています。目標設定に用いるデータの定義、算定方法、対象範囲を社内で統一し、後から説明できる状態にしておくことが重要です。

電力セクター以外の企業にとっても、電力会社の目標設定方法や低炭素電力の定義は、再生可能エネルギー調達、Scope2排出量、サプライチェーン上のScope3説明に影響する可能性があります。大口需要家は、自社が調達する電力の属性や排出係数が、今後どのような基準で評価されるかを確認しておく必要があります。

公開協議は8月31日まで、企業データを用いたパイロットも実施

第2次公開協議は、2026年7月15日から8月31日23時59分(米国太平洋時間)まで実施されます。

SBTiは、電力セクターのネットゼロ移行に関心を持つ企業や関係者から広く意見を募集しています。全項目に回答する方法に加え、自社の専門分野に関係する項目だけに回答することも可能です。

公開協議と並行して、参加企業の実データを用いて改訂案を検証するパイロットも実施されます。公開協議とパイロットで得られた知見を踏まえて基準案を修正した後、Technical Councilによる承認とBoard of Trusteesによる採択手続きに進む予定です。

最終基準が運用開始となるまでの間、SBTiは、電力会社に対して「Quick Start Guide for Electric Utilities」を利用した目標設定を継続するよう案内しています。同ガイドを用いて目標を設定した企業は、最終基準への移行にも対応しやすいとされています。

SLM編集部コメント

今回の改訂案で注目すべき点は、電力セクターの目標設定が、発電時のScope1排出量だけで完結しなくなっていることです。

電力小売におけるScope3、購入・販売する低炭素電力の割合、送配電ロスなど、事業活動ごとに異なるデータを組み合わせて目標を管理する方向が明確になっています。企業には、活動量や排出量を集計するだけでなく、どの基準に基づき、どの活動を対象として目標を設定したのかを説明できる管理体制が求められます。

既にSBTi目標を設定している電力セクター企業は、現行目標の対象範囲、使用している削減経路、Scope1・Scope3の算定方法を確認し、改訂案との相違を把握しておくことが重要です。

また、電力を調達する需要家企業にとっても、低炭素電力の定義や電力会社の目標設定方法は無関係ではありません。Scope2削減や再エネ調達の実績を社外に説明する際、電力の属性、排出原単位、調達先の移行計画をどこまで確認するかが、今後の実務論点となる可能性があります。

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