SSBJ・CSRD対応における第三者保証の実務論点と対応格差

本記事は、「サステナビリティ第三者保証ガイド」の【高度化編】です。

第三者保証の基本対応や体制整備については、【基礎編】から【運用編】の記事をご覧ください。

【基礎編】サステナビリティ第三者保証とは?SSBJ・CSRD対応の全体像と実務ロードマップ
【課題編】SSBJ・CSRDに必須なサステナビリティ第三者保証 ~実務上の課題~
【整備編】SSBJ対応における第三者保証の前提となる内部統制と情報整備の考え方
【運用編】サステナビリティ開示における第三者保証とは?SSBJ対応と体制設計
【高度化編】SSBJ・CSRD対応における第三者保証の実務論点と対応格差(本記事)
【実践編】第三者保証対応チェックリスト|SSBJ・CSRDに向けた実務確認項目を一覧化

本記事では、合理的保証や保証対象拡大など、今後の高度化対応について整理します。

サステナビリティ情報の第三者保証が制度として組み込まれ始めています。SSBJ(サステナビリティ基準委員会)による開示基準の策定、および金融庁の段階的な保証制度導入方針のもと、企業は任意対応から制度対応への転換を迫られています。さらに、経済産業省が主導する排出量取引制度(GX-ETS)においても、排出量データに対する第三者確認(verification)を前提とした制度設計の議論が進められています

特に排出量取引制度では、初期段階では「限定的保証」から始めつつも、一定の期間経過後には「合理的保証」への移行が制度設計として明示されており、企業に求められる保証水準は今後ますます高まっていくと見られます。

こうした保証制度の拡大と深化に対して、企業はどのように備え、各企業がどのように対応していくべきか、本記事で考えてみます。

※CSRD制度の全体像については以下の記事で整理しています。
【2026年最新版】CSRDとは? 日本企業への影響・対象企業・Omnibus見直し・Stop-the-Clock動向をわかりやすく解説

※SSBJ基準の概要や日本企業への影響については以下の記事をご覧ください。
【最新版】SSBJ(サステナビリティ開示基準)とは?制度の全体像と企業対応を体系整理

※制度構造については以下の記事も参考ください。
SSBJ・CSRD・IFRS S1/S2をどう読み解くべきか? 企業価値評価に使われるサステナビリティ開示の共通構造

保証対象の拡大と企業への影響

第三者保証ではGHG排出量(スコープ1・2)に注目されていますが、金融庁は保証制度適用時期から2年間は、スコープ1・2に加えガバナンス並びにリスク管理に対する保証を義務付ける、3年目以降は、国際動向を踏まえ今後検討する、とあります。一方、同中間論点整理(案)には、「サステナビリティ情報の信頼性を確保するためには、その全てについて第三者保証が行われるべきという意見もある」との記述があることから、保証対象は拡大する圧力が絶えずかかり続けており、日本でも保証対象が拡大することが容易に想像できます。

加えて、経産省が設計する排出量取引制度では、排出量に関するクレジット制度を支える信頼性確保手段として、登録確認機関による第三者確認(verification)を前提とした制度設計が進められています。また、以下のような「保証水準の段階的引き上げ」も議論されています。

  • 初期段階:限定的保証(Limited Assurance)
  • 数年後の発展段階:合理的保証(Reasonable Assurance) (対象は大規模事業所などから段階的に適用)

つまり、制度設計そのものが「保証の制度化と高度化」を前提としており、今後のサステナビリティ保証対応は、形式的な導入ではなく継続的で構造的な体制整備が求められるフェーズに入っています。

データ収集と算定方法の比較

制度対応が段階的保証義務化へと向かうなかで、企業が採りうる実務対応の選択肢は、大きく次の2つに分かれます。

一つは、既存のExcelや手作業による集計・管理をベースに、外部コンサルタントの支援を受けるモデル。もう一つは、ERP等のシステムを用いて、サステナビリティ情報を構造化・標準化し、自社内で継続的に運用・保証に対応するモデルです。

以下は、両者の代表的な違いを示した比較表です。

項目アプローチ①
エクセル+コンサル業務委託
アプローチ②
サステナビリティERP
業務主導主体コンサル主導自社内で一元管理
集計頻度年1回(保証直前)月次・四半期で定期運用
集計費用高(都度委託)中(初期投資+定常運用)
保証費用高(整合性が乏しく工数増)低(整備されたデータで効率化)
トータル費用中長期で抑制可能
進捗管理困難。定期レビューが不可容易。PDCA型モニタリングが可能
ガバナンス属人的・ブラックボックス化トレーサブルで監査対応も可
企業価値への貢献限定的(制度消化となり、企業価値向上への活動につながりづらい)高(財務データとをリンクさせつつ、企業価値向上につなげるためには必要不可欠)
(種々公開情報をもとに、弊社策定)

このように、ERP型の導入は単に保証対応を効率化するだけでなく、組織的なガバナンスとESG戦略の高度化、企業価値向上を同時に実現するための基盤整備で有力な選択肢の一つです。

ERPによる「集計頻度の高さ」がもたらす進捗管理とガバナンスの進化

合理的保証では、継続的かつ高頻度でのデータ管理・内部統制が求められます。そのため近年は、ERP等を活用し、サステナビリティ情報を構造化・標準化しながら継続運用する重要性が高まっています。

ERP型の導入によって、単に集計を自動化するだけでなく、進捗管理・内部統制・保証対応が連動したガバナンス体制を構築できます。その結果、集計作業にとどまらず、企業価値向上につながる活動に連携できます。

  • 進捗管理:財務情報同様、高頻度集計により、目標と実績の差分をタイムリーに把握
  • 保証対応:一貫性のあるデータ構造と履歴管理により、保証人との確認が効率化
  • ガバナンス強化:内部統制が仕組みとして組み込まれることで、企業全体の透明性が向上
  • 企業価値向上:ESGスコア改善、財務情報との関連性向上、従業員・顧客・投資家からの信頼性向上に貢献

限定的保証と合理的保証の違い

第三者保証には、大きく「限定的保証(Limited Assurance)」と「合理的保証(Reasonable Assurance)」の2つの水準があります。現在、多くの制度では限定的保証から導入が進められていますが、中長期的には合理的保証への移行が議論されています。

限定的保証は、主に分析手続きやヒアリングを中心として、「重要な誤りが確認されなかった」ことを保証する比較的軽い保証です。

一方、合理的保証は、財務監査に近い水準で詳細な検証を行い、「重要な虚偽表示がない」と高い確度で保証するものです。

両者の違いを整理すると、以下の通りです。

項目限定的保証合理的保証
保証水準中程度高水準
主な手続き分析・ヒアリング中心詳細検証・証憑確認
工数比較的少ない多い
データ精度要求中程度高い
内部統制要求基本的な整備高度な統制
将来方向性初期導入将来的な主流候補

表.限定的保証と合理的保証の違い

現時点では、SSBJ・CSRDともに限定的保証を前提とした制度設計が中心です。しかし、GX-ETSを含む制度全体では、段階的に合理的保証へ移行していく方向性が示されており、企業には将来を見据えた体制整備が求められています。

そのため企業は、「まず限定的保証に対応できればよい」という視点ではなく、合理的保証に耐えうるデータ基盤・内部統制・ガバナンスを中長期的に構築していく必要があります。

合理的保証への備えは急務

金融庁・SSBJの保証制度では、合理的保証への移行について現時点では慎重な姿勢が示されています。一方で、経済産業省が設計する排出量取引制度では、保証水準が段階的に引き上げられることが明示されています。

すなわち、企業は限定的保証のみを対象としたガバナンス体制を構築・運営していくと、他制度への対応に遅れが生じてしまいます。国内制度(有価証証券報告書への報告と排出量取引制度)のみならず、海外の動向を理解し、将来を見据えた「保証対応の準備=制度開示の前提条件」となる時代が始まっています。

まとめ

サステナビリティ保証は、単なる制度対応ではありません。ERPを基盤にした自社完結型の運用モデルは、継続的な開示・保証・説明責任の連鎖を可能とし、GX制度やESG経営のあらゆる局面において「信頼される情報基盤」として機能します。

企業が今なすべきことは、保証対応の「やり方」を変えることではなく、「仕組みとして保証に対応する体制」に進化させることです。

なお、非財務情報開示の意義については、こちらの記事を参照ください。

出典

SSBJ開示基準 https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html
金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(第8回)資料1・2 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20250627.html
経済産業省 GXグループ「排出量取引制度の詳細設計に向けた検討方針」 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/pdf/001_03_00.pdf

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