金融庁、サステナビリティ保証基準の骨子を提示 SSBJ保証対応に向け企業が確認すべき論点

金融庁は2026年7月3日、企業会計審議会「第2回サステナビリティ情報保証部会」の議事次第および事務局説明資料を公表しました。資料では、サステナビリティ情報の第三者保証制度に関する意見書の方向性として、保証基準、品質管理基準、倫理・独立性基準の位置付けに加え、保証範囲、保証水準、財務諸表監査人との連携などが整理されています。

SSBJ基準に基づく開示制度の段階適用を見据えると、今回の資料は、保証業務実施者だけでなく企業側にとっても重要な意味を持ちます。Scope1・2 GHG排出量、ガバナンス、リスク管理に関するデータ、証跡、承認プロセス、内部統制をどの水準で整備すべきかを考えるうえで、実務上の手がかりとなります。

金融庁資料で示された主な論点

今回公表された事務局説明資料では、前回の議論を踏まえ、意見書の方向性として主に次の3点が整理されています。

  • 日本における保証基準のあり方・策定方法
  • 保証業務に関する重要な事項
  • 国際基準との調整

資料はあくまで部会での討議資料であり、最終的な基準や制度内容そのものではありません。ただし、SSBJ基準に基づくサステナビリティ開示と第三者保証に向けた制度設計の方向性を把握するうえで、企業実務にとって重要な内容が含まれています。

保証基準はJSSA5000・JSQM1・JESSAを軸に整備する方向

資料では、日本のサステナビリティ情報保証に関する基準等について、国際基準と同等の水準を確保しつつ、国内の実情を踏まえて必要な調整を行う方向性が示されています。

具体的には、次の3つが国内の保証基準等として位置付けられるイメージです。

  • サステナビリティ情報保証基準: JSSA5000
  • サステナビリティ情報保証品質管理基準: JSQM1
  • サステナビリティ情報保証倫理・独立性基準: JESSA

サステナビリティ情報の保証業務は新しい分野であり、財務諸表監査のように、すでに一般に公正妥当と認められた実務を帰納的に要約する形では整理しにくいとされています。そのため、保証業務実施者が遵守すべき基準として、法令上指定する考え方が示されています。

また、保証の担い手については、監査法人だけでなく、登録要件を満たす監査法人以外の主体も参入し得る制度設計が前提とされています。この点を踏まえ、金融庁が策定主体となり、日本公認会計士協会の「サステナビリティ保証業務実務指針5000」等をもとに、幅広い主体が遵守できる基準となるよう修正・調整する方向性が示されています。

当初2年間の保証範囲はScope1・2、ガバナンス、リスク管理が焦点

企業実務にとって特に重要なのが、保証範囲に関する記載です。

法令によって第三者保証が義務付けられる範囲について、当初2年間は、SSBJ基準に準拠して作成されたサステナビリティ情報のうち、Scope1・2 GHG排出量、ガバナンス、リスク管理とされています。いわゆる「部分保証」として、保証対象となる情報と、それ以外の情報が有価証券報告書内で混在することになります。

このため、企業にとっては、次の点が実務上の論点になります。

  • どの情報が保証対象で、どの情報が保証対象外なのかを明確にすること
  • Scope1・2 GHG排出量の算定根拠、証跡、承認履歴を説明できる状態にすること
  • ガバナンス、リスク管理に関する記述と社内の実態を整合させること
  • 保証対象外の記載についても、保証業務実施者が通読する前提で、重要な不整合がないよう確認すること

保証範囲が限定されるからといって、対象外情報を軽く扱えるわけではありません。資料では、保証対象以外の情報についても「その他の記載内容」として保証業務実施者が通読し、保証業務で得た知識との重要な相違や、重要な誤りの兆候に注意することが整理されています。

保証水準は限定的保証、合理的保証への移行は行わない方向

金融審議会での議論も踏まえ、日本の第三者保証制度では保証の水準を限定的保証とし、合理的保証への移行は行わない方向性が示されています。

これは、制度導入当初から財務諸表監査と同等の成熟度を求めるのではなく、サステナビリティ情報の特性や実務の発展段階を踏まえ、段階的に制度と実務を成熟させる考え方といえます。

一方で、限定的保証であっても、企業側の準備負荷が小さいとは限りません。サステナビリティ情報には、定性情報、見積り情報、将来情報、第三者から取得する情報が含まれます。財務情報と比べて不確実性が高い情報も多いため、算定・集計・承認・開示までのプロセスを文書化し、説明可能な状態にしておくことが重要になります。

財務諸表監査人との連携も論点に

財務諸表監査人とサステナビリティ情報の保証業務実施者が異なる場合も想定されるため、両者の適切なコミュニケーションも重要な論点になります。

サステナビリティ情報は、財務情報と完全に切り離された情報ではありません。気候関連リスク、設備投資、減損、引当、事業ポートフォリオ、サプライチェーンなど、財務情報と接続する論点も多くあります。そのため、財務諸表とサステナビリティ情報の間に重要な不整合がないかを確認する視点は、今後さらに重要になると考えられます。

企業側では、サステナビリティ部門だけでなく、経理・財務、IR、法務、内部監査、監査役等、DX・IT部門が連携し、開示情報を横断的に確認する体制が必要になります。

ガバナンスに責任を負う者、部分保証、審査、引継・共同保証も要確認

国際基準との調整に関する論点として、次のような項目も示されています。

  • ガバナンスに責任を負う者
  • 部分保証
  • 審査
  • 引継・共同保証

特に、ガバナンスに責任を負う者については、日本では会社法上の機関設計に応じて、監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会、取締役会などが該当し得ると整理されています。そのうえで、保証業務実施者が適切にコミュニケーションできる相手方を、保証業務依頼者との間であらかじめ合意しておくことが考えられるとされています。

また、引継・共同保証については、監査法人以外の主体の参入も踏まえ、保証業務実施者間の引継や共同保証に関する要求事項を基準に明示すべきとの方向性が示されています。これは、企業側にとっても、過年度の論点、算定方法、拠点別実務、内部統制、データ収集プロセスをどのように保存・説明するかという課題につながります。

企業が今から確認すべきこと

資料の中心は保証業務実施者向けの基準整備ですが、企業側が今から確認すべきポイントも明確です。

まず、Scope1・2 GHG排出量について、算定ロジック、活動量データ、排出係数、組織境界、拠点別データ、承認履歴、修正履歴を追跡できる状態にする必要があります。

次に、ガバナンスとリスク管理について、有価証券報告書に記載する内容と、社内の会議体、責任者、報告ライン、リスク評価プロセスが整合しているかを確認する必要があります。

さらに、保証業務実施者とのやり取りを想定し、誰が説明責任を持つのか、どの証跡を提示できるのか、財務諸表監査人や監査役等との連携をどのように行うのかを、早い段階で整理しておくことが重要です。

SLM編集部コメント

サステナビリティ情報の第三者保証は、開示書類の最後に保証報告書を添付すれば足りるという話ではありません。今回の金融庁資料から見えてくるのは、保証に耐え得るデータ、プロセス、ガバナンス、内部統制を、開示実務の中に組み込む必要があるという点です。

当初の保証範囲がScope1・2 GHG排出量、ガバナンス、リスク管理に限定されるとしても、その準備には複数部門の連携が不可欠です。特に大企業では、国内外の拠点、グループ会社、事業部門から集めるデータの品質をどう担保するか、修正履歴や承認フローをどう残すかが実務上の焦点になります。

今後、意見書や保証基準等の具体化が進むにつれて、企業は「開示できる情報」から「保証を受けられる情報」へと管理水準を引き上げる必要があります。SSBJ対応を進める企業は、今回の資料を、保証対応に向けた体制・データ基盤・内部統制の点検材料として活用すべきです。

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