なぜ、マテリアリティは経営に届かないのか|SSBJ対応で見えてきた、3つの「接続の壁」
目次
💡問題提起 マテリアリティもKPIもある。それでも経営判断に使われない――SSBJ対応が映し出すのは、情報の欠如よりも、社会・環境の論点を経営の意思決定へつなぐ過程の弱さです。
企業のサステナビリティ開示は、この数年で大きく前進しました。重要課題を特定し、目標を掲げ、データを集め、進捗を報告する。外形だけを見れば、必要な部品はそろいつつあります。
しかし、それらが事業戦略や投資判断につながり、マテリアリティと企業価値の関係まで一貫して説明できるとは限りません。いざ経営会議に持ち込むと、議論が止まることがあります。「その課題は、どの事業の収益やコストに影響するのか」「今、どの投資を変えるべきなのか」「なぜ、そのKPIを経営が追う必要があるのか」。こう問われた途端、項目同士のつながりが見えにくくなるのです。開示の言葉を経営の言葉へ変える――その接続にこそ、多くのサステナビリティ担当者が日々直面する難しさがあります。
2026年7月27日に開催したSSBJ分科会第2期の第2回では、PwC Japan有限責任監査法人 パートナーの田原英俊氏を講師に迎え、事業戦略、マテリアリティ、財務的影響の接続を掘り下げました。講演と参加者同士の議論を通して浮かび上がったのは、SSBJ対応を経営実装へ進める際に立ちはだかる三つの「接続の壁」でした。
- KPIは増えた。経営は何を判断すればよいのか
参加者からは、マテリアリティとKPIが「鶏と卵」になり、項目数だけが膨らむ悩みが共有されました。講師からは、リスク・機会の財務的影響を、何もしなかった際の財務影響、対応策(戦略)のための投下資本、対応策(戦略)実施後の財務影響を正しく把握することで、取るべき対応策(戦略)とそのKPIが明確になることが示されました。 - 長期課題を、今日の投資判断へどうつなぐのか
Q&Aでは、遠い将来の課題を経営会議へどう持ち込むかが論点に。講師からは、自社が依存する資本の変化と財務影響の経路を先に描き、現在の選択へ接続する考え方が示されました。 - 非財務情報は、誰が責任を持つべきなのか
参加者からは、本社と事業部門の役割分担や情報の往復に関する問題提起がありました。講師からは、非財務情報も事業を説明する情報として扱い、事業部門を判断主体に近づける必要性が示されました。
SSBJ分科会とは
SSBJ分科会は、Booost株式会社が主催する、企業の実務担当者を対象とした全6回の実践型プログラムです。2026年6月から、講師による解説に加え、参加企業同士のディスカッションや各社の課題共有を通じて、SSBJ対応における実務上の判断や進め方を検討しています。
第2回では、PwC Japan有限責任監査法人 パートナーの田原英俊氏を講師に迎え、「事業戦略との紐づき・マテリアリティと財務影響」をテーマに議論しました。田原氏は、自動車メーカーで環境戦略や実務に携わった後、サステナビリティ、マテリアリティ、財務的影響、開示などのアドバイザリーに従事しています。
第2回講師 田原氏プロフィール

2000年より9年間にわたり、自動車メーカーの環境担当として環境戦略立案と実行、環境マネジメント、環境コミュニケーション、環境情報開示、環境・エネルギー領域の長期動向予測調査、自動車燃料のライフサイクルGHGアカウンティング(Well to Wheel分析)、コーポレート生態系サービス評価に従事。
2011年の入所後は、自動車、重工業、通信、化学、食品・飲料、製薬、航空など幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案、マネジメント、情報開示などのコンサルティングを担当。シナリオプランニングによる長期ビジョンの策定、マテリアリティ分析による重要課題の特定とそれに基づく戦略・指標・目標の策定、グローバルベンチマークによるサステナビリティマネジメントの改善、グローバルな投資家・NGO・基準策定機関とのステークホルダーエンゲージメント支援などに数多く携わる。加えて、統合志向・統合経営を見据えたインパクト評価や自然資本会計などの新たな領域におけるサービス開発と先進事例の創出も担当している。また情報開示領域にも精通しており、サステナビリティ格付けや、日本や欧州を中心としたサステナビリティ情報の制度開示対応においても豊富な経験を有する。サステナビリティ日本フォーラム評議員、日本公認会計士協会企業情報開示専門委員会委員を歴任。
第2回の講演を貫いたのは、基準の要求事項をどう埋めるかではなく、サステナビリティを企業経営の意思決定へどう組み込むかという問いでした。以下では、当日の内容を時系列ではなく、三つの接続の壁と、それを乗り越えるための視点に沿って再構成します。
ここからは、3つの「接続の壁」を越えるために、当日の講演と参加者の議論から見えた実務上の論点を掘り下げます。因果関係の描き方、財務影響・対応コスト・効果の分け方、事業部門を巻き込む情報設計、KPI増殖や既存マテリアリティの見直しに悩む実務担当者への示唆を紹介します。さらに、経営会議に持ち込む前に確認したい5つの問いも整理します。




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