CSDDD:企業持続可能性指令と日本企業の対応

CSDDD:企業持続可能性指令と日本企業の対応

近年、EU(欧州連合)では企業の持続可能性に関する規制が強化されています。2024年7月25日に発効した「企業持続可能性デューデリジェンス指令(Directive on corporate sustainablity due diligence ; CSDDD)」は、企業に人権や環境への責任を求める重要な指令であり、日本企業のグローバル戦略にも大きな影響を与えます。この指令はEU域内の企業だけでなく、EU市場で一定の売上がある非EU企業も対象となるため、日本企業にとって無視できない枠組みです。本記事では、CSDDDの概要と日本企業が取るべき対応策を解説します。

CSDDDとは?

CSDDDは、企業が自社およびそのサプライチェーン全体において、人権侵害や環境破壊といった負の影響を防ぐための「デューデリジェンス(DD)」を法的に義務付けるEU指令です。目的は、持続可能な企業活動の促進と、国際的な人権・環境基準の遵守です。

主な義務内容は以下の通りです:

(a) デューデリジェンス方針の策定と企業方針への統合

(b) リスクの特定と評価

(c) リスクの予防・軽減措置の実施

(d) 被害の是正(中止・補償など)

(e) 苦情受付・通報メカニズムの整備と情報開示

(f) ステークホルダーとのエンゲージメント

(g) 実施状況のモニタリングと効果測定

(h) デューデリジェンスに関する情報の外部公開(報告・開示)

これらの義務は、企業の透明性を高め、持続可能性を強化する鍵となります(Directive (EU) 2024/1760)

対象企業と時期

EU企業

現行のCSDDD(2024年7月発効)では、従業員数1,000人以上かつ年間純売上高4.5億ユーロ(約650億円、1ユーロ=145円換算)超のEU企業が対象です。企業グループの親会社が基準を満たす場合、グループ全体で対応が必要です。

2025年2月のOmnibus修正案では、適用開始が2028年に延期され、デューデリジェンスの範囲は直接取引先に限定、監視頻度も5年に1回に緩和されるなど、負担軽減が図られた内容となってます。(COM(2025)80)

EU域外企業(例:日本企業)

EU域外企業は、EU域内での年間純売上高が4.5億ユーロ超の場合、EU企業と同様のデューデリジェンス義務を負います。PwC Japanの調査によると、日本企業では約120社(主に自動車、電機、商社)が対象と推定されています(PwC Japan, 2025年5月)。また、EUに子会社を持つ日本企業であっても、グループ全体としてEU域内の売上が4.5億ユーロを超える場合は、日本の親会社もCSDDDの対象となる可能性があり、グループ全体での対応が求められます。

直接対象でない企業も、CSDDDを遵守するEU企業と直接取引がある場合やサプライチェーンを通じて、人権・環境情報の提供を求められる可能性があります。企業は自社の状況を確認し、早めに対応を進めることが重要です。

企業が取るべき対応策

CSDDDへの対応は負担に感じるかもしれませんが、持続可能性を強化し、グローバル市場での信頼を得るチャンスでもあります。以下に、具体的な対応策をステップごとに示します。

ステップ1:自社の状況を確認する

まず、企業がCSDDDの直接対象か、間接的な影響を受けるかを判断します:

  • EUでの売上高をチェックする。
  • 子会社やグループ全体の状況を確認する。
  • 取引先にCSDDDの対象企業が含まれそうかどうかを調べる。

ステップ2:DDの内容を理解する

CSDDDが求めるDDには以下のプロセスが含まれます:

  • リスクの特定:人権や環境への影響を洗い出す。
  • 評価:リスクの大きさを分析する。
  • 予防・軽減:対策を講じる。
  • 是正:問題があれば修正する。
  • モニタリング:効果を確認する。
  • 公開:結果を報告する。

企業では、これらを実施できる体制を整える必要があります。

ステップ3:サプライチェーン全体で対応する

CSDDDはサプライチェーン全体での対応を求めます。具体的には:

  • サプライヤーに人権・環境方針を共有し、遵守を求める。
  • 契約にDDに関する条項を追加する。
  • サプライヤーの状況を定期的に確認する。
  • 業界団体と協力し、情報を集める。

企業のサプライチェーンを把握し、協力体制を築くことが重要です。

ステップ4:情報開示を行う

DDの結果を公開することも義務です:

  • 年次報告書にDDの内容を記載する。
  • 誰でも見られる形で情報を公開する。
  • EUの他の規制(例:CSRD)との整合性を確認する。

透明性を高めることで、ステークホルダーの信頼を得られます。

まとめ

CSDDDは、EUの持続可能性規制として、日本企業にデューデリジェンスと情報開示を求めます。EU売上高4.5億ユーロ超の企業やその取引先企業は、早めの準備が必要です。Omnibus修正案の最終採択を注視しつつ、持続可能性を企業戦略の中核に据えることで、ブランド価値を高め、EU市場での競争力を強化しましょう。

出典

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