EU、バッテリーパスポート71項目を整理 2027年2月適用に向け企業が確認すべきデータ
目次
欧州委員会は2026年8月21日、欧州電池規則に基づくデジタル・バッテリーパスポートの準備を支援するガイダンスの更新版を公表しました。ガイダンスは、電気自動車(EV)用電池、軽量移動手段(LMT)用電池、容量2kWh超の産業用電池を対象に、パスポートに関係する71のデータポイントを整理しています。
各データポイントについて、法的根拠と電池区分別の要否を示し、必須、任意、特定条件下で適用、2027年2月時点では入力・表示不要といった区分を明らかにしました。2027年2月18日の適用開始に向け、対象企業には製品情報を表示する仕組みだけでなく、社内外のデータを製品単位で収集・更新し、根拠資料や変更履歴とともに管理する体制の整備が求められます。
欧州委員会が71データポイントを整理
欧州電池規則の第77条では、2027年2月18日から、EU市場に上市または使用開始されるEV用電池、LMT用電池、容量2kWh超の産業用電池に電子記録であるバッテリーパスポートを持たせることを定めています。
今回公表された「Digital Batteries Passport – data points by category」Version 2.0は、欧州電池規則の各条文や附属書にまたがる情報要件を71のデータポイントとして一覧化したものです。主な情報領域には、次のような項目が含まれます。
- 固有識別子、製造者、製造場所・年月、電池区分、型式・シリアル番号
- 重量、容量、化学組成、有害物質、重要原材料、再生材由来(リサイクル由来)の含有比率
- 電圧、出力、寿命、エネルギー効率、内部抵抗などの性能情報
- EU適合宣言、試験報告、使用・廃棄に関する情報
- 部品番号、交換部品の入手先、解体手順、安全対策
- 容量低下、出力低下、内部抵抗の増加、充放電回数、状態・健全性などの動的データ
今回の整理によって、対象企業は「何を集めるか」だけでなく、「どの法的根拠に基づくか」「どの電池区分に適用されるか」「2027年2月時点で表示対象か」を対応づけて確認しやすくなりました。
71項目すべてが2027年2月に一律必須ではない
ガイダンスを読むうえで重要なのは、71という数字をそのまま初日の必須項目数と捉えないことです。データポイントは、EV用、LMT用、産業用の各電池区分について、必須、任意、特定の場合のみ適用、入力・表示不要に分けられています。
例えば、製造者情報、電池区分、識別情報、製造場所・年月、重量、容量、化学組成、EU適合宣言、解体情報、安全対策、適合性を示す試験報告などは、複数の対象区分で必須と整理されています。一方、個別の性能・状態データには、電池区分や用途によって適用の有無が異なるものがあります。
また、カーボンフットプリント宣言とラベルは、様式を定める実施法が今後予定されているため、ガイダンス上は2027年2月時点で入力・表示不要とされています。責任ある調達に関する情報も、2027年2月時点では入力・表示不要とされ、電池デューデリジェンス義務の適用時期である2027年8月以降を見据えて対応が必要になる項目です。コバルト、リチウム、ニッケル、鉛の再生材比率についても、第8条と関連する委任法令に沿った段階適用となります。
したがって企業には、71項目を一括して同じ期限で集めるのではなく、電池区分、適用条件、公開範囲、施行時期、関連する委任法令・実施法令ごとに管理するロードマップが必要です。
日本企業への影響
バッテリーパスポートの直接の義務主体は、完成電池をEU市場に上市または使用開始する経済事業者です。ただし、実務上は電池メーカーや輸入者だけで完結するものではありません。自動車・産業機器メーカー、部材・素材企業、商社、物流・サービス事業者、リサイクル事業者など、対象電池の情報形成に関わるサプライチェーン全体に対応が波及します。
71項目には、単一部門・単一システムだけでは揃えにくい情報が含まれます。製品識別や部品表はPLM、受発注・製造情報はERP、適合宣言や試験報告はQMS、カーボンフットプリントはLCA・PCF基盤、材料・含有物質や原産情報はサプライヤー管理システムといったように、データの所在が分散しているためです。
特に、バッテリーパスポートには製造時に確定する静的な情報だけでなく、容量低下や内部抵抗、充放電回数など、使用に伴って変化する動的データも含まれます。どの主体が、どの頻度で更新し、誰にどの範囲まで開示するかを設計しなければ、パスポートを作成しても継続運用できません。
企業が今確認すべき5つのポイント
- 対象製品の特定:EU市場で上市・使用開始するEV用、LMT用、容量2kWh超の産業用電池と、それらを搭載する製品を洗い出す。
- 71項目の適用判定:各項目を電池区分、必須・任意・条件付き、2027年2月時点で表示不要に分け、自社製品への適用を判定する。
- データの所在と責任部門の明確化:PLM、ERP、QMS、LCA・PCF基盤、サプライヤー情報など、元データとデータオーナーを対応づける。
- サプライヤー連携の設計:自社で保有する情報と取引先から取得する情報を分け、提出形式、更新頻度、根拠資料、品質確認のルールを決める。
- 証跡・変更管理の整備:法的根拠、適合宣言、試験報告、算定前提、承認履歴、更新履歴、アクセス権限を製品単位で追跡できるようにする。
欧州委員会は、今回のガイダンスが追加の法的義務を設けるものではなく、法令の権威ある解釈や欧州委員会の公式見解を示すものでもないと明記しています。企業は、ガイダンスをデータ棚卸しの実務資料として活用しつつ、欧州電池規則本文と今後の委任法令・実施法令を継続的に確認する必要があります。
SLM編集部コメント
今回の更新で重要なのは、バッテリーパスポート対応が「QRコードや画面を用意する仕事」ではなく、「製品単位のデータガバナンスを構築する仕事」であることが、71項目という具体的な形で見えるようになった点です。
対象データは、設計、製造、品質、調達、サステナビリティ、法務、アフターサービス、DX/ITにまたがります。さらに、法令や電池区分によって適用条件が異なり、静的データと動的データ、一般公開情報とアクセス制限情報を分けて扱う必要があります。
2027年2月18日の適用開始が近づく中、対象企業は全項目の完成を待つのではなく、まず対象製品とデータオーナーを特定し、取得済み・取得可能・未整備の3区分でギャップを可視化することが重要です。CFP宣言など将来の実施法待ち項目についても、後から追加・変更できるデータ構造と監査証跡を先に設計しておくことが、制度更新への対応力を左右します。
あわせて読みたい
- 製品サステナビリティ規制とは?CFP・ESPR・DPP・電池規則の全体像を整理
- DPP対応は何から始めるべきか? – 欧州電池規則とCFPから読み解く実装の起点
- 電池業界のカーボンフットプリント(CFP/PCF)とは? 欧州電池規則・バッテリーパスポートを踏まえた実務整理
- DPP:製品の透明性を担保するデジタル製品パスポートとは?
- 経産省が「蓄電池・電源産業戦略」を公表 バッテリーパスポート・CFP対応を産業政策に位置付け




とは-―-製品のGHG見える化から企業全体の削減へ-150x150.png)
