香港におけるサステナビリティ情報開示の規制動向

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国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がIFRS S1・S2を公表して以来、日本だけでなく、複数の政府は企業に対してサステナビリティ関連財務情報開示の義務化を本格的に進めています。 香港もその例外ではありません。2025年6月12日、IFRS財団が発表した「法域別適用プロファイル」において、香港がISSB基準の完全導入を目標にした最初の管轄区域の一つであることが確認されました。 本記事では、香港におけるサステナビリティ開示基準と、それに伴って策定されたサステナビリティ開示に関するロードマップについて解説します。
香港のサステナビリティ開示基準 ― HKFRS S1・S2
香港公認会計士協会(HKICPA)は2024年12月、 IFRS S1・S2と完全に整合する形で、「香港財務報告基準 – サステナビリティ開示(HKFRS for Sustainability Disclosure)S1・S2」を公表しました。これらの基準は2025年8月1日に発効する予定です。基準内容はほぼIFRS S1・S2と同じであるため、香港のサステナビリティ開示制度が国際基準と一致し、企業の開示情報の透明性と比較可能性が大きく向上します。
基準名 | 対象範囲 | 主な内容 |
---|---|---|
HKFRS S1 | 全てのサステナビリティ領域 | ・サステナビリティ関連財務情報の開示全般に関する要求事項。 ・投資家の意思決定に有用なサステナビリティリスクと機会に関する情報を求める。 |
HKFRS S2 | 気候関連分野に特化 | ・気候変動に関連するリスク・機会に焦点を当てた開示基準。 ・GHG排出量(Scope 1〜3)や削減目標、シナリオ分析などを含む。 |
HKFRS S1・S2の適用対象事業者
HKFRS S1・S2は、香港市場における以下のような多様な事業者を対象としています。
- 香港証券取引所メインボード上場企業
- 市場に大きな影響を与える大手企業
- 公的説明責任を有する企業(PAEs, Publicly Accountable Entities)
- 非上場金融機関
- 将来の規制改正により適用基準を満たす香港法人企業
なお、HKFRS S1・S2は、香港政府が策定した段階的な導入ロードマップに基づいて適用されており、今後の国際的な開示フレームワークの発展に伴い、適用対象が広がっていく予定です。
香港のサステナビリティ情報開示ロードマップ
日本のSSBJ基準の導入と同様、香港では、サステナビリティ関連財務情報開示の要求事項は段階的に実施され、企業が国際基準に沿った体制を整備するための期間が確保されています。
- 2025年1月1日(実施済み):メインボード上場企業は「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」方式でIFRS S2をモデルとする新しい気候関連開示要求事項を報告
- 2025年8月1日:HKFRS S1・S2が正式発効
- 2025年末まで:サステナビリティ保証の枠組み案を策定
- 2026年1月1日:大手上場企業はIFRS S2をモデルとする新しい気候関連要求事項の開示が義務化。
- 2027年中:HKFRS S1・S2に準拠したサステナビリティ報告の義務化についてパブリックコンサルテーションを実施
- 2028年1月1日:HKFRS S1・S2の全面的な適用義務化が、PAEsに実施
まとめ
香港は、ISSB基準の完全導入を目指す最初の法域の一つとして、明確な姿勢を示しました。これは、日本企業にとっても決して無関係ではありません。特に香港の日系企業にとって、本社との連携を通じ、香港法人としての対応策、KPI などを設定する必要がありそうです。日本国内でも、2027年3月期から適用義務化するSSBJ基準への備えが進む中、香港のアプローチは、日本企業が自社の開示体制を検討する上でも有益な参考となるはずです。
出典
IFRS Use of IFRS Sustainability Disclosure Standards by jurisdiction
HKICPA Hong Kong Financial Reporting Standard S1
HKICPA Hong Kong Financial Reporting Standard S2
HKSAR Roadmap on Sustainability Disclosure in Hong Kong: Ambition.Assurance.Enablement