GX-ETS 本格稼働と企業が取るべき対応

目次
2025年5月28日、CO2の直接排出量が年間10万トン以上の企業に対し、GX-ETS(排出量取引制度)への参加を義務づける改正GX(グリーントランスフォーメーション)推進法が可決・成立しました。これまで試行的に運用されてきたGX-ETSは、2026年度から「第2フェーズ」である本格稼働へと移行します。
本コラムでは、改正GX推進法の内容を踏まえ、GX-ETS本格稼働時の主なポイント、そして対象企業が取るべき対応について解説します。
GX-ETSの概要
GX-ETSは、政府による成長志向型カーボンプライシング構想の一環として、GXリーグに参加する企業が各自の排出目標と実績に応じて、排出枠を取引することができる制度として、2023 年から試行的にスタートしています。
現行の試行段階では、法的な義務や罰則、排出枠の割り当ては設けられておらず、企業が自主的に削減目標と排出量実績などを開示することで、市場や社会からの評価がGX推進のインセンティブとなる設計になっています。
一方、2026年度から始まる本格稼働では実効性を高めるため、現行の試行段階に比べて大きく強化されます。企業にとっては、戦略的な排出量削減計画の策定・実行が求められます。
主なポイント
以下のように、GX-ETSはより実効性の高い制度への移行が示されました。
1. 対象事業者
CO2の直接排出量が3カ年の平均で10万トン以上の企業が制度対象となり、GX-ETSへの参加が義務付けられます。ここで直接排出量とは、事業者の活動による燃料使用などから直接発生するCO2排出量(Scope 1)のことを指します。
2. 排出枠の算定と第三者保証
対象企業には、業種特性を考慮した政府の実施指針に基づき、無償排出枠が割り当てられます。また、排出量データの透明性と信頼性を確保するため、対象企業が自ら算定した排出量について第三者機関による保証を取得しけなければなりません。
3. 排出枠の償却
対象企業は、検証を受けた排出量実績の報告および実績と同量の排出枠の償却が義務付けられます。余剰が発生した場合は、余剰分を翌年度に持ち越し(バンキング)することはできます。
4. 移行計画の策定・公表
対象企業は、中長期の排出量削減目標と、その実現に向けた取組を記載した「移行計画」の策定と公表が求められます。
5. 削減未達成時の対応
排出量実績が排出枠を上回った場合、追加で排出枠を調達する必要があります。もし遵守期限までに、排出枠を償却できなかった場合は、ペナルティとして償却義務の未履行分の排出枠の量に応じた負担金を支払う義務が生じます。
本格稼働に向けて取るべき対応
2026年度からGX-ETSが法定制度として本格稼働するにあたり、対象企業には以下のような準備が求められます。
1. 排出量算定体制の構築・改善
制度対応の前提となるのが、排出量を正確に算定する体制の整備です。各拠点と排出源ごとの排出量算定方法を明確化、または精緻化する必要があります。特に、第三者保証に備え、データ管理や承認プロセスを含めたワークフロー設定が不可欠となります。
2. 排出量削減目標と移行計画の策定・見直し
削減目標と移行計画は企業のGX基盤となるだけでなく、社会的評価の対象にもなります。既存の削減計画があっても、国の目標や同業他社のベンチマークを踏まえて定期的な見直しが重要です。サプライチェーン全体を含めた目標や、再エネ導入、省エネ投資など具体的な実行計画が期待されます。
3. SSBJ対応との整合
GX-ETSの対象は10万トン以上排出する企業の直接排出量に限られています。一方有価証券報告書でのサステナビリティ開示規制は、その対象が、グループ会社全体で直接排出量に加え間接排出量(スコープ2)の開示も必要となっています。GX経営を効果的に進めるには、第三者保証を見据えつつ、グループ全体と個社の削減戦略を一体的に構築、運営していくことが重要となります。
GX-ETSへの備えは、まず足元から
上記言及した準備事項はいずれも、継続的に管理・改善していくべき業務です。これらを従来のスプレッドシートベースで排出量と目標進捗を管理し続けるには、限界が見えつつあります。そこで、サステナビリティデータをサステナビリティERPに移行することにより、第三者保証を含めた業務負担が大幅に軽減できます。
GX-ETSの本格導入が迫ってきた今こそ、脱炭素経営を組織に根づかせるチャンスと捉え、自社に合ったサステナビリティデータ基盤の整備を進めていくことが重要です。
出典
GXリーグ 排出量取引制度(GX-ETS)
経済産業省 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案の概要
内閣官房GX実行推進室 GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)