Scope3算定はなぜ難しいのか 有価証券報告書・SSBJ開示で説明が難しくなる理由

本記事は、Scope3/サプライチェーン排出量を体系的に整理するシリーズの【課題編|なぜScope3算定は難しいのか】 に位置づけられる記事です。

Scope3に関する議論は、「なぜ対応が求められるのか」「何を対象としているのか」「算定結果をどう扱うべきか」など、複数の論点が混在しやすいテーマです。

本シリーズでは、Scope3を経営・開示の文脈で段階的に理解できるよう、役割ごとに整理しています。

  • なぜ今、Scope3が企業経営のテーマになっているのか
  • Scope3とは何か(算定対象・15カテゴリ)
  • Scope3算定はなぜ難しいのか(本記事)
  • Scope3算定をどう設計するか

本記事はこのうち、Scope3算定に取り組む中で多くの企業が直面する「なぜ算定結果がしっくりこないのか」という論点に焦点を当てています。

ここで扱う違和感は、算定作業の巧拙によるものではありません。将来的に有価証券報告書やサステナビリティ開示で説明していくことを見据えた際に、いまの算定結果と排出削減の取り組みとが、構造的に結びついていないことに起因するものです。

なぜScope3算定は「難しい」と感じられるのか

多くの企業でScope3算定に着手すると、次のような声が聞かれます。

  • 算定はできているが、結果をどう評価すればよいかわからない
  • 排出削減に取り組んでいるのに、数値が改善していないように見える
  • 社内で説明しようとすると、違和感が残る

これらは、算定担当者のスキル不足によるものではありません。

Scope3が持つ算定構造そのものに起因する課題です。

ここでいう「Scope3が持つ算定構造」とは、単なる計算式ではなく、Scope3算定が前提としている構造的な条件の集合を指します。

具体的には、Scope3は、

  • サプライチェーン全体(自社の外部)を対象とし
  • 15カテゴリという性質の異なる排出を横断的に扱い
  • 金額ベース原単位などの推計手法を用いて算定されることが多いため

排出削減の取り組みと、算定結果とが乖離しやすい構造を持っています。

この構造のもとでは、企業が排出削減に向けた取り組みを進めていても、その効果が排出量の数値として直感的に表れないことがあります。

Scope3は「結果の良し悪し」を直接示す指標ではない

Scope3は、排出量の大小によって企業を評価するための指標ではありません。

しかし、算定結果だけが切り取られると、

  • 排出量が多い=対応が遅れている
  • 排出量が減らない=削減努力が不足している

といった単純な受け止め方につながりがちです。

実際には、Scope3排出量は、事業構造、取引構造、成長フェーズを強く反映する指標です。

重要なのは数値そのものではなく、なぜその排出構造になっているのかを整理・説明するかにあります。

環境省DBによる算定が主流となっている背景

Scope3排出量は、次の考え方で算定されます。

 GHG排出量 = 活動量 x 排出原単位

Scope3算定において実務上の焦点となるのは、どの排出原単位を用いるかという点です。

多くの企業がScope3算定に初めて本格的に取り組む局面、特に将来の開示も視野に入れつつ、まず排出構造の全体像を把握する段階では、サプライヤーから十分な一次データを収集することは容易ではありません。

そのため実務では、より算定業務が容易となる、環境省が公開しているサプライチェーン排出量算定用データベース(=金額ベース原単位、産業連関表ベース)を用いて、Scope3全体を俯瞰的に算定する方法が広く採用されています。

金額ベース原単位が抱える構造的な課題

環境省DB(=金額ベース原単位)を用いた算定では、

  • 調達額や取引金額の増加に比例して排出量が増加する
  • 排出削減に向けた取り組みが数値に反映されにくい

という特徴があります。

この結果、企業が実施している、

  • 調達先の見直し
  • 技術改善
  • 業務効率化

といった排出削減への取り組みが、算定結果として十分に表現されない、という状況が生じます。

企業成長に伴い排出量が増加すること自体は合理的です。しかし、削減努力を進めているにもかかわらず、数値上は排出量が増えて見える場合、結果の説明に違和感が生じてしまいます。

「算定の高度化」が検討される理由:排出削減の取り組みと算定結果が整合しない問題

こうした違和感を背景に、環境省DBを用いた俯瞰的な算定を出発点としつつ、次の段階として「算定の高度化」が検討されるケースがあります。

その背景にあるのは、排出削減の取り組み(過去・現在・将来)と、Scope3算定結果とを構造的に結びつけることが難しいという課題です。

排出削減策を講じても、その効果が数値に反映されにくい場合、将来、開示の場で取り組みの方向性を説明することが難しくなる可能性があります。

次に考えるべきは「どう設計するか」

Scope3算定の難しさは、算定方法そのものではありません。排出削減の取り組みと算定結果を、どのように結びつけるかという設計の問題です。

  • どのカテゴリを重点的に捉えるのか
  • どの段階で精度を高めるのか
  • サプライヤーとの対話をどのように位置づけるのか

これらは、算定結果を将来に向けた取り組みと整合させるための算定方法の設計上の論点です。

この点については、

サプライヤーとの連携で進めるスコープ3排出量削減 〜一次データ活用に向けたエンゲージメントの実践〜

で詳しく整理します。

まとめ:Scope3算定の難しさは「削減との整合性」にある

Scope3算定が難しいと感じられる背景には、数値を出すこと自体ではなく、

  • 排出削減の取り組み
  • 事業の成長
  • 中長期的な方向性

と算定結果とを、どのように整合させるかという課題があります。

結果説明の際に感じる違和感は、将来の開示対応を考えるうえで重要なシグナルです。

Scope3算定を単なる作業に終わらせず、排出削減に向けた取り組みと結びつけていくためには、

算定結果をどう設計するかという視点が不可欠です。

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