サステナビリティ第三者保証 ~人材と制度保証への対応戦略~

目次
サステナビリティ情報の第三者保証を実現するには、情報整備や内部統制だけでなく、それを支える「人と知識」が不可欠です。前記事で挙げた『実務上の課題② 保証の専門性と人材不足』を克服するためには、どのような方策が有効なのか。本記事では、前記事で紹介した制度的背景(SSBJ・金融庁の方針)を踏まえたうえで、企業が実務対応としてとるべき具体策と、サステナビリティERPによる代替可能な領域について解説します。また、こうした課題の一部を補完・代替する手段として注目される「サステナビリティERP」の活用可能性についても紹介します。
制度的要件への理解が保証対応の出発点
保証対応を支える専門性の中でも、まず習得すべきは「制度的要件の把握」です。近年、日本国内では、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)と金融庁の2つの組織が平仄を整えつつ保証制度の整備を進めています。
企業は第三者保証について以下の観点を理解する必要があります:
- 保証対象となる情報(例:GHG排出量Scope1・2、気候関連リスク)
- 適用開始時期と保証水準の段階的変化
- 保証済情報の開示タイミング
こうした要件を自社に引き付けて整理・理解しない限り、社内体制構築や保証人との対話は実効性を持ちません。
専門性の育成と実務チームの整備
受審企業側の「保証の専門性と人材不足」という課題を解決するためには、以下の3つの取り組みが重要です。
① 必要スキルの明確化
GHG算定ロジック、Scope分類、ISAE 3000/3410、ISO 14064など、保証人との共通言語となる制度・技術的知識の整理を進めます。
② 制度と連動した教育・資格支援
制度動向を踏まえた教育プログラムを整備し、外部講座や資格取得(例:温室効果ガス検証員)も含めた支援を行います。
③ 保証対応チームの設置とナレッジ集約
サステナビリティ・財務・IT等関連部門を横断する保証対応チームを設け、保証ロジック・証憑管理・レビュー履歴などのナレッジを社内に蓄積・継承します。
これらを属人的に進めるのではなく、制度対応テンプレートやプロセス管理機能を備えた「サステナビリティERP」の活用によって、仕組みとして標準化することが効果的です。
サステナビリティERPによる専門性の補完・代替
専門人材の確保・育成には時間とコストがかかる一方で、保証の実施は待ったなしです。多くの保証対応業務はテクノロジーによって補完・代替することが可能です。とくに以下のような機能を備えたサステナビリティERPは、保証実務の負荷を大きく軽減します。
- 制度対応テンプレートの内蔵 制度要件に即したデータ構造・レポート形式を標準装備。
- GHG算定と証憑管理の正確性の担保 エネルギーデータの収集、排出量算定、証憑ファイルの管理・トレーサビリティを一元化。
- 保証人対応機能 算定ロジック、データ承認、改正履歴などの管理が可能である他、保証人にシステム内の限定アクセス権を付与することで、資料提供時のヒューマンエラーも防止できます。
これにより、制度的要件の複雑さや社内知識のばらつきにかかわらず、保証対応の品質を一定レベル以上に保つ仕組みの構築が可能になります。
まとめ
サステナビリティ第三者保証の実務対応において、「専門性」と「制度理解」は非常に重要な視点です。これらを克服するために、企業が取り組むべき方針は次の3点に整理できます。
- 制度的要件を正しく理解し、保証対応の土台を固める
- 社内における専門人材の育成とチーム体制の整備を推進する
- サステナビリティERPを導入し、保証実務の標準化と負荷軽減を実現する
SSBJと金融庁が示す段階的な制度化の流れを先取りし、保証人との対話を円滑に行うためにも、人材育成とテクノロジーを三位一体で整える体制が求められます。
保証に「対応する企業」から、保証を「前提とした企業運営」へ。この転換こそが、ステークホルダーからの信頼の構築と、サステナビリティ経営の競争優位につながるのです。
出典
金融庁「サステナビリティ情報の開示と保証に関するワーキング・グループ」議事録・資料(2024年5月14日) https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20240514.html
KPMGジャパン『日本の企業報告に関する調査2023』https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2023/09/sustainability-reporting-survey-2023.html