【最新版】欧州電池規則最新解説 義務化スケジュールと主要要件
目次
欧州連合(EU)は、電池のサステナビリティ、品質、安全性、資源循環を確保するため、欧州電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)を 2023 年に制定しました。本規則は “指令(Directive)” ではなく “規則(Regulation)” であるため、EU 域内で直接適用され、高い拘束力を持ちます。
EV や蓄電池の需要拡大に伴い、電池に求められる透明性と環境配慮への要請は世界的に高まりつつあります。本記事では、制度の背景・要求事項・義務化スケジュールを体系的に整理します。
欧州電池規則とは?
欧州電池規則は、電池の製造・使用・リサイクルの全段階にわたって環境・社会・品質要件を定めた包括的な制度です。カバー範囲は非常に広く、持続可能性評価、GHG排出量計算、原材料トレーサビリティ、再生材利用、回収・リサイクル効率、BMS (Battery Management System)データの提供まで多様な要求が含まれます。
対象
EU内で販売、使用されるすべてのバッテリーに適応され、以下が含まれます。
- EVバッテリー
- 産業用バッテリー(2kWh超)
- 軽車両(e-bike等)用バッテリー
- ポータブルバッテリー
- SLIバッテリー(自動車用 始動・照明・点火用)
バッテリー単体だけでなく、電池を組み込んだ製品を EU に投入する企業も対象になります。
制定の背景
欧州電池規則が制定された背景には、単なる環境対策にとどまらず、エネルギー転換・産業競争力・サプライチェーン安全保障といった複数の政策課題が同時に横たわっています。電池は、EV から再エネ貯蔵まで、脱炭素社会の基盤を支える存在であり、その品質や環境負荷、調達プロセスは EU にとって戦略的なテーマになっています。
脱炭素への移行を支える電池の環境・社会負荷の可視化
EU は「Fit for 55」を掲げ、2030 年の温室効果ガス排出量を 1990年比で55%削減する方針を打ち出しています。この大きな政策転換を支える基盤技術が EV・蓄電池であるため、電池の製造段階でどれだけ CO₂が排出されているのかは重要な政策項目です。
従来は電池製造の環境負荷が国際的に比較しづらく、企業間の取り組み差も可視化されていませんでした。そこで EU は、CFP(カーボンフットプリント)やLCAによる透明化を規則として義務化しました。
👉 参考記事:カーボンフットプリント(CFP)とは
原材料調達における人権・環境リスクの高まり
近年、リチウム・コバルトなどの原材料の採掘・精錬工程で、
- 児童労働
- 過酷な労働環境
- 生態系破壊 などが国際的に問題視されてきました。
EU は ESG 投資基準と整合させるためにも、原材料の出所を明確化し、リスク評価を義務化しました。
👉 参考記事:CSDDD 企業持続可能性指令と日本企業の対応
サーキュラーエコノミー促進と資源戦略
EU は貴金属資源に対して高い輸入依存度があります。電池に含まれる金属を国内で循環させることは、
- 資源確保
- リサイクル産業の育成
- 脱炭素の加速 に直結します。
再生材の利用割合を義務化したのは、資源循環政策の一環として電池を「循環すべき資源」と位置づけたためです。
👉 参考記事:ESPR 持続可能な製品のためのエコデザイン規則とは
欧州の産業競争力とルール形成
欧州電池規則は、環境規制であると同時に、欧州の電池産業の競争力を高める産業政策としての側面も持ちます。
EU が厳格な基準を先行的に設定することで、
- 欧州企業の優位性確保
- 国際標準としての採用
- 非EU製品に対する参入条件の設定 といったルール形成戦略が働いています。
欧州電池規則の要求事項(5つの柱)
① 電池パスポート(Battery Passport)
2027年から、2kWh 超の EV・産業用バッテリーに対して、電池パスポートが義務化されます。
電池の情報をデジタル形式で提供し、サプライチェーンにわたる透明性を確保する仕組みです。
■ 電池パスポートに含まれる情報
- 製品情報:容量・性能・耐久性
- 環境情報:GHG排出量(CFP)・LCA結果
- 原材料情報:材料調達・リサイクル材含有率
- リサイクル情報:収集・回収
- BMSデータ:充電・温度・障害検出
👉 参考記事:電池パスポートとカーボンフットプリント(CFP)
②LCA(ライフサイクルアセスメント)の義務化
ISO 14040/44 の手法を基礎とし、電池の環境影響を評価・開示することが求められます。
対象範囲には、原材料調達から製造、組立までの一連の工程が含まれます。 LCA は電池パスポートに統合され、EV などの下流製品の環境情報とも連動します。
👉 参考記事:CFP理解のためのライフサイクル・アセスメント(LCA)におけるCradle-to-Gateとは?
③ GHG排出量(CFP)の算定・開示
電池製造における CO₂ 排出量は、電池パスポートの重要データのひとつです。特に一次データ(実測値)を重視しており、従来の推計値中心の算定方法では不十分とされています。
④ 再生材含有率の義務化
コバルト・リチウム・ニッケルなどの主要素材について、2031年以降、一定割合以上の再生材利用が義務化されます。
これにより、資源循環と国内リサイクル産業の活性化が期待されています。
⑤調達段階のデューデリジェンス(人権・環境)
採掘〜精錬工程における人権リスク、環境リスクの評価と情報公開が求められます。これは、EU が進める CSDDD(コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令)とも連動しています。
👉 参考記事:CSDDD 企業持続可能性指令と日本企業の対応
義務化スケジュール
| 年 | 主な動き |
|---|---|
| 2024年 | GHG・LCA算定ルール確定 |
| 2025年 | GHG・LCA算定の本格開始 |
| 2027年 | 電池パスポート義務化 |
| 2027〜2031年 | 各種要件適用の高度化 |
| 2031年~ | 一定割合以上の再生材含有義務化 |
EU の関連制度との連動
電池規則は、以下の EU 制度とも密接に連動しています。
- CSRD(企業サステナ情報開示)
- DPP(デジタルプロダクトパスポート)
- CBAM(炭素国境調整)
- Ecodesign規則
- CSDDD(サプライチェーンDD)
これらは今後、環境データの統合化・透明化を促進する方向に動いており、企業側のデータ整備負荷は高まり続けています。
さらに、日本企業ではSSBJ(企業サステナ情報開示)も動いていることから、欧州対応と国内対応、さらには他国対応も視野に入れた対応が必要となります。
まとめ:早期対応+継続的レベルアップが不可欠
欧州電池規則は、電池製品とサプライチェーン全体の透明性を高めるための包括的な制度です。
まずは制度の全体像を正確に理解し、自社の事業領域との関連性を把握することが重要です。
実務的にどう対応すべきかを深く知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
👉 CFP/LCA の実務:欧州電池規則におけるEV用電池のCFP算定方法
補足:欧州電池規則のデューデリジェンス(DD)義務については、2025年に適用時期の延期が公表されています。最新の制度動向はこちらで整理しています。
👉 欧州電池規則:原材料デューデリジェンス(DD)義務の適用が延期
出典
Regulation (EU) 2023/1542(欧州電池規則 本文)
European Commission – Sustainable Batteries(公式解説ページ)
European Commission – Batteries and Waste Batteries(制度解説)
European Commission – Digital Product Passport(DPP)公式ページ
Global Battery Alliance(GBA)– Battery Passport Guidelines
European Commission Joint Research Centre – PEF(製品環境フットプリント)メソッド
ISO 14040 Life cycle assessment — Principles and framework
ISO 14044 Life cycle assessment — Requirements and guidelines
