サステナビリティ情報開示、攻めか?守りか?

 サステナビリティ情報開示の重要性がますます高まってきています。


 では、何のために情報開示をしているのかを考えると、規制対応やリスク回避といった“守り”の目的で行われることが多いのではないでしょうか。一方、企業価値の向上を目指した“攻め”の情報開示が重要であるという議論も増えています。このような状況下で、「サステナビリティ情報開示を充実させれば、本当に企業価値が向上するのか?」という疑問を抱えながら、業務として対応している企業も少なくないでしょう。


 本記事では、研究データを用いながら、サステナビリティ情報開示と企業価値の関係について考察していきます。

目次[非表示]

  1. 1.守りのサステナビリティ開示:制度整備の進展
  2. 2.攻めのサステナビリティ開示:情報開示と企業価値の関係性
  3. 3.企業はどうすべきか
  4. 4.まとめ



守りのサステナビリティ開示:制度整備の進展

制度整備の進展

 世界的には、サステナビリティ情報開示を巡る制度整備が進んでいます。たとえば、欧州ではCSRD(企業サステナビリティ報告指令)[1] が施行され、企業に詳細な情報開示が義務付けられています。米国でもSEC(米国証券取引委員会)は、気候変動リスク開示規則の執行を一時停止していますが、規則の正当性を堅持し、法廷での迅速な解決を目指す姿勢を示しています[2]。中期的には、気候変動関連の開示が停止することはないと考えられます。一方で中国においても、2024年4月に『上場企業サステナビリティレポート手引』[3] が公開され、一部の上場企業に適用されています。


 日本国内でも同様に、サステナビリティ情報開示を強化する動きが加速しています。SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2024年3月に『サステナビリティ開示基準草案』を公開し[4] 、この基準の確定版は2025年3月末に公開される予定です。国際基準であるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)との整合性を保ちながら、企業に対して非財務情報の適切な開示を求めるものです。詳しくは下記「お役立ち情報」をご覧ください。

  サステナビリティ情報開示義務化 予定・対象・影響を解説 サステナブルな経営を目指す日本企業の担当者はこのサステナビリティ情報開示義務化のスケジュール・予定・期日や対象企業、対応すべき項目について理解する必要があります。本記事では、SSBJ基準の概要と、企業は今後どのように対応するべきかについて解説します。 booost technologies


グリーンウォッシュ問題

 PwCのグローバル投資家意識調査2023[5]によると、サステナビリティの実績に関する企業報告に、何の裏付けもない主張が含まれていると考えている投資家が94%に達し、同様の回答は前年より増加しているとしています。同調査では、企業が価値を創造し続けると同時に、サステナビリティの取り組みでコミットした目標を何らかの形で投資家に証明しなければならない、と述べています。上述のSSBJの基準に基づく開示情報に対する第三者保証について、金融庁金融審議会のサステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループにおいて議論が進んでいます。




攻めのサステナビリティ開示:情報開示と企業価値の関係性

 ESGパフォーマンスや充実したサステナビリティ情報開示が、企業価値の向上につながるのかと言われます。しかし、「何となく」の理解に留まっていることも多いのではないでしょうか。本パートでは、研究データや具体的な取り組みをもとに、その関係性を探ります。


経済産業省の報告書

 2022年8月に公表された「伊藤レポート3.0」[6]では、企業と投資家との建設的な対話を通じて、非連続的な変革を加速させることの重要性が指摘されています。特に、長期的な企業価値創造において、サステナビリティ情報開示が投資家との信頼構築に寄与することが明確化されています。


 サステナビリティへの対応は企業が対処すべきリスクであることを超えて、長期的かつ経営戦略の根幹となす要素となりつつあるとし、成長原資を生み出す力(稼ぐ力)を向上するにはサステナビリティを経営に織り込むことが不可欠だと述べています。また、サステナビリティに対応しない企業は、投資家、消費者、労働市場から評価を得ることが難しく、結果として事業活動の継続に影響が生じるケース多くなってきていることを示しています。



研究データによる裏付け

 これまで40年以上にわたって、サステナビリティ(ESG)情報開示、経済的実績、サステナビリティ(ESG)実績に関する多くの研究が行われてきました。経済的実績がサステナビリティ情報開示を決定するという研究(Cox and Douthett 2009[7])や、サステナビリティ(ESG)情報開示が経済的実績と関連するという研究(Cox 2008[8]; 大鹿・阪・地道 2020[9])等があり、その中でもESG実績と経済的実績の関連性を探る研究が最も多く見られます。


 しかし、ESG情報開示と経済的実績の関係性については、相関関係を示す研究が多く存在するものの、因果関係を明確に示した研究はほとんど見当たりません。したがって、サステナビリティに積極的に取り組める企業は財務的に余裕のある企業が多く、以前から良好な経営基盤を有しているからだとの解釈もなされてきていましたが、サステナビリティの要因で業績が良くなるとの考えに基づく投資行動も多くなされています。

今後の研究や実務においても引き続き注目すべきテーマといえるでしょう。




企業はどうすべきか

 ここまで、サステナビリティ情報開示の守りの側面と攻めの側面について考察してきました。では、企業は具体的に何をすべきなのでしょうか。

 上述のようにサステナビリティへの取り組みと業績との因果関係は明確となった研究は公表されていませんが、中長期的な企業価値向上につながるサステナビリティ関連情報を適切に開示することは重要です。一方、その開示情報を利用するESG評価機関や投資家は、投資先企業の開示内容の信用度やGHG排出量等のデータの測定の正確性についてより懐疑的になる可能性があります。そのため、評価の基礎となる情報の企業間のばらつきをなくした標準化及びその数値の妥当性への対応が求められています。今後予定される開示制度に向けて着実に準備し、法令や規制に基づき収集された情報開示を確実に実施することが企業価値向上の前提と言えます。ただし、それだけではなく、自社の財務状況に加え非財務面での健全性をステークホルダーに示すには以下の取り組みが求められます。

  1. 投資家やステークホルダーとの対話を深める: 具体的なデータや目標を開示し、長期的なビジョンを共有する。
  2. データの質を向上させる: ESGパフォーマンスを裏付ける信頼性の高いデータの整備、第三者保証を実施する。
  3. 情報開示を戦略の一環として位置づける: 単なる遵守ではなく、企業価値向上のための戦略的ツールとして活用する。




まとめ

 サステナビリティ情報開示の重要性が高まる中、国内外で制度整備が進んでいます。2026年にSSBJ基準の適用が始まることで、多くの企業が体制構築を迫られています。単なる規制対応に留まらず、非財務情報の充実と開示の強化によってステークホルダーとの信頼を積み重ね、企業価値を高めることがこれからの経営の鍵となるでしょう。攻めと守りの両方を見据え、サステナビリティ情報開示を戦略的に訴求することが求められています。


[1]Corporate sustainability reporting - European Commission
[2] https://www.sec.gov/files/rules/other/2024/33-11280.pdf
[3] 关于发布《上海证券交易所上市公司自律监管指引第14号——可持续发展报告(试行)》的通知 | 上海证券交易所
关于发布《深圳证券交易所上市公司自律监管指引第17号——可持续发展报告(试行)》的通知
关于发布《北京证券交易所上市公司持续监管指引第11号——可持续发展报告(试行)》的公告
[4] 特設サイトサステナビリティ開示基準案|サステナビリティ基準委員会
[5] 投資家の94%が企業のサステナビリティ報告書に根拠のない主張が含まれていると回答 PwC、グローバル投資家意識調査2023を発表 | PwC Japanグループ
[6] https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sustainable_sx/pdf/20220830_1.pdf
[7] Cox, C. A. and Douthett Jr., E. B.(2009)Further evidence on the factors and valuation associated with the level of environmental liability disclosures. Academy of Accounting and Financial Studies Journal 13(3), 1-26.
[8] Cox, C. A.(2008)Factors associated with the level of superfund liability disclosure in 10 K reports: 1991-1997. Academy of Accounting and Financial Studies Journal 12(3), 1-17.
[9] 大鹿智基、阪智香、地道正行(2020)「「社会にとってよい企業」への市場の評価とサステ ナビリティ」『企業会計』第72巻第1号、74-80.



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