SBTi「Trend Tracker 2025」から読み解く最新潮流 ─ 日本企業への示唆

SBTi (Science Based Targets initiative)は、世界の企業による気候目標設定の動向をまとめた「Trend Tracker 2025」を発表しました。レポートのKey Insightsによれば、SBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づく目標)設定が世界中で急速に広がっています。この動向は日本企業の戦略にも直結する重要な示唆を含んでいます。本記事では、SBTiが示す最新潮流を読み解き、日本企業の今後の対応策について考察します。

注目すべき動向 (Key Insights)

今回のTrend Tracker 2025では、いくつかの重要な潮流が明らかになりました。以下では、その中でも特に企業戦略に大きな影響を与える3つのポイントを整理します。

1. 短期目標とネットゼロ目標を両立する企業の急増

SBTiにコミットする企業はすでに約11,000社に達し、そのうち8,200社以上が認定済みの削減目標を持っています。さらに1,900社がネットゼロ目標を設定済みです。特に注目すべきは、短期目標とネットゼロ目標の両方を持つ企業が、2023年末から2025年半ばにかけて227%増加した点です。

これにより、SBTi認定企業の時価総額は世界の40%超をカバーし、グローバル経済においてSBTが事実上のスタンダードとなりつつあります。つまり、気候対応はもはや先進的企業だけの取り組みではなく、競争環境を左右する前提条件へと変化してきています。

2. アジアの台頭 ─ 成長エンジンとしての存在感

アジアがSBT設定において最も急速に成長している点は特筆に値します。2023年末から2025年半ばにかけて、アジア全体でSBTを設定する企業が134%増加しました。特に中国は同期間に228%増という圧倒的な伸びを示し、タイ、日本、台湾、韓国、香港もこれに続いています。

日本は認定済み目標を持つ企業数で世界最多の1,731社(2025年Q2時点)を誇り、絶対数で大きな存在感を示しています。アジア企業の特徴は、自社のScope 1・2削減にとどまらず、Scope 3を含むバリューチェーン全体を巻き込んだ取り組みを推進している点です。日本企業も例外ではなく、サプライヤーや取引先への働きかけを強化することが今後の競争力維持には不可欠となるでしょう。

3. セクター別の加速 ─ 産業・消費財・素材が先導

産業財(Industrials)、消費財(Consumer Goods)、素材(Materials)の3分野が、SBTを最も早く、かつ大規模に採用しています。特に産業財セクターは全体の約3分の1を占め、他のどの分野よりも多くの企業が科学的根拠に基づく目標を設定しています。注目すべきは、同セクターにおける目標の半数以上が2024年と2025年前半に新たに設定されたという点です。

これらのセクターはエネルギー集約的であり、サプライチェーンへの影響も大きいため、利害関係者からの要請や市場シグナルに敏感に反応していると考えられます。日本の製造業や素材産業はまさにこのグループに含まれるため、対応の遅れは国際競争力の低下を意味します。一方で、SBTiの基準を満たしたSBTをいち早く掲げることで、調達と販売の両面で強みを発揮できる可能性があります。

日本企業への示唆

Trend Tracker 2025は、日本企業に次のような行動を促しています。

  • グローバル標準の認識:世界の4割の時価総額企業がSBTを掲げている現実を踏まえ、「SBT認定の有無」が市場参入条件になる可能性が高い。
  • バリューチェーン戦略:Scope 3対応を重視し、国内外の取引先との協働を強化することが不可欠。
  • 未認定のデメリット:産業・素材分野の企業は特に、SBT認定が標準化しつつあるため、未認定でありつづけることのデメリットを考慮すべき。

まとめ

SBTi「Trend Tracker 2025」は、企業の気候行動が急速に世界規模で広がっていることを示しています。日本企業にとっては、グローバルスタンダードに遅れず対応することが競争力維持の前提条件であり、同時に新たな成長機会を切り開く鍵ともなります。持続可能性は「責任」から「戦略」へ──その転換が、今まさに求められています。

出典

SBTi Trend Tracker 2025 – Science Based Targets Initiative

SBTi-Trend-Tracker-2025.pdf

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