英国(UK)炭素国境調整措置(CBAM)のよくあるご質問(FAQ)
目次
Q1. UK CBAMはすでに法律として成立している制度ですか?
いいえ、2026年1月30日時点では、UK CBAMはまだ成立しておらず、下院(House of Commons)で審議中の段階です。
UK CBAMは、Finance (No.2) Bill において導入が提案されており、同法案の Part 5(CBAM) として、制度の基本枠組みが示されています。この法案はすでに議会に提出され、委員会審議が進められていますが、現時点ではまだ成立(Royal Assent)には至っていません。
もっとも、法案には以下の点が明確に規定されており、制度設計の方向性自体は固まっています。
- CBAMの導入
- 課税対象は輸入品に内包された排出量(embodied emissions)
- 納税義務者は輸入者
- UK ETS価格と連動した課税
- 具体的な運用ルールは政令・規則に委任
今後、法案が成立した後、排出量算定方法や申告・検証の詳細が、順次規則で定められる予定です。
以下のFAQは、2026年1月30日時点の法案に基づいて回答を作成しています。
Q2. UK CBAMはいつから適用されますか?
UK CBAMは、Finance (No.2) Bill が現行案どおり成立した場合、2027年1月1日から適用されます。
法案本文(Clause 155)では、
「2027年1月1日以降に英国へ輸入されるCBAM対象品目に本制度が適用される」
ことが明確に規定されています。
2026年1月30日時点では、同法案は下院(House of Commons)で審議中であり、まだ成立には至っていませんが、施行日そのものは法案上すでに明示されているため、法案が修正なく成立した場合には、2027年1月1日開始になります。
Q3. UK CBAMの排出量報告は、いつから・どの頻度で行うのですか?
UK CBAMでは、2027年1月1日以降に輸入されるCBAM対象品目について、排出量の申告・報告が求められます。
制度上の原則としては、CBAMは関税と同様に暦年の四半期を会計期間とし、四半期ごとに申告・納付を行う仕組みとされています。
一方で、法案には2027年および2028年について、会計期間や提出期限を変更できる経過措置が明記されており、政府資料等では、初年度である2027年は暦年を会計期間とする年次報告とし、2028年以降に四半期報告へ移行することが想定されています。
Q4. 2026年中は、排出量報告や登録対応は不要ですか?
2026年中に「UK CBAMの申告(return)・納付(payment)」義務が発生することはありません。
UK CBAMは、法案上、2027年1月1日以降に英国へ輸入されるCBAM対象品目に適用されるため、2026年の輸入は制度の適用対象外です。 一方で、**登録(registration)については、制度開始前の2026年から準備が必要になる可能性があります。**Schedule 16(Registration)では、CBAM登録義務は「過去12か月の輸入額」や「今後30日での見込み輸入額」に基づいて判定される仕組み(閾値:£50,000)が規定されており、制度開始直後に輸入が見込まれる企業は、2027年の開始に向けて事前に登録を求められる可能性があります。
また、法案には2027年または2028年に登録トリガーを満たした者について、登録期限(30日ルール)を変更できる経過措置も設けられているため、開始初期は登録実務が特別ルールになる可能性があります。
Q5. UK CBAMでは、排出量はどのように計算するのですか?
UK CBAMで報告・課税の対象となるのは、輸入されたCBAM対象品目の生産に伴い発生した排出量のうち、UK ETS(英国排出量取引制度)の対象となる設備・規制活動に相当する排出量です。
法案では、CBAMの基礎となる排出量は、
UK ETSにおける「regulated activities(規制活動)」および「specified emissions(指定排出量)」
という概念に対応づけて設計されています。
これは、CBAMが「英国国内で同等の製品を生産した場合に課されるUK ETSの炭素コスト」と整合する形で、輸入品にも炭素価格を課す制度であるためです。
そのため、排出量算定においては、
- UK ETSの対象となる設備・工程(sub-installations)
- UK ETSで規制されている活動に伴う直接排出
が基本的な算定対象となり、
UK ETSの対象外となる設備や活動からの排出量は、原則として算定対象に含まれない設計となっています。
一方で、どの工程・設備が「UK ETS相当」とみなされるか、また海外製造プロセスにどのように当てはめるかといった具体的な算定ルールや工程境界の詳細は、今後制定される規則(regulations)で定められます。
Q6. 実データ、もしくはデフォルト値のどちらを使うかは、誰が決めるのですか?
A. UK CBAMでは、体化排出量(embodied emissions)は「実データ(規則に基づく算定)」または「デフォルト値(通知で設定)」のいずれかで決定します。
- 制度として、実データ側の要件(算定方法・証拠・検証など)を定めるのはHMRC(Commissioners)の規則です。規則は、測定・計算方法、欠測データ、推計値・標準値・係数の使用、第三者検証要件なども含めて定めます。
- デフォルト値を設定するのは財務省(Treasury)で、通知により設定されます(排出が生じた場所で変える、体化排出量(embodied emissions)の一部にのみ適用する、なども可能)。
実務上は、輸入者(申告義務者)が四半期ごとのCBAM報告で、規則に基づく実データで申告するか、デフォルト値で申告するかを選ぶ形になります(ただし、どの条件でデフォルト値が使えるか等は規則・通知で規定されます)。
なお重要な点として、デフォルト値で申告した体化排出量(embodied emissions)を、後から「規則に基づく実データ」に置き換える改訂はできません(誤り訂正は可だが置換は禁止)。
Q7. デフォルト値を使うと、実データより不利になりますか?
はい。UK CBAMでは、デフォルト値(default values)は、実データに基づく体化排出量(embodied emissions)よりも有利にならないように設定される仕組みとなっています。
Schedule 16 では、財務省(Treasury)が通知(notice)によりデフォルト値を設定できるとしたうえで、そのデフォルト値は、輸入者が実データを用いないことによって不当な利益を得ない水準に設定できることが明記されています。
ここでいう「不当な利益」には、次の両方が含まれると整理されています。
- 体化排出量(embodied emissions)が実データより低く算定されることによる利益
- 実データの収集・算定・検証に要するコストや労力を負担しないことによる利益
つまり、デフォルト値は単に「平均値」や「参考値」ではなく、実データを提出しないこと自体が有利にならないよう、安全側(高め)に設定される設計です。
Q8. 体化排出量(embodied emissions)について、第三者検証は必要ですか?
UK CBAMの法案(Schedule 16)では、体化排出量(embodied emissions)に関して、
- 排出量の決定方法
- 排出量に関する証拠(evidence)の提出
- その証拠の確認・検証
について、規則(regulations)で要件を定めることができると規定されています。このため、規則次第では、実データ利用の際に第三者検証を義務付けられる可能性があります。
Q9. 第三者検証の対象となるのは誰ですか?商社や川中工程も対象になりますか?
UK CBAMにおいて、第三者検証の直接的な対象となるのは、UK側でCBAM申告義務を負う主体(輸入者)です。
UK CBAMでは、体化排出量(embodied emissions)の申告義務は、登録された申告者(registered person)である輸入者に課されます。したがって、制度上、第三者検証が求められる場合でも、検証の名義上の対象は、輸入者が提出するCBAM申告となります。
一方で、その申告内容の根拠となる体化排出量(embodied emissions)のデータは、製造事業者(海外メーカー)から提供される情報に依存します。
このため実務上は、次のような対応が求められる可能性があります。
- 輸入者が受ける第三者検証に際し、製造事業者が算定した排出量データや算定根拠の提出・説明を求められる
- 実データを用いる場合には、製造事業者の設備・工程(UK ETS相当部分)に関する情報が検証対象として確認される
Q10. 実際のUK向け輸出は商社が行っています。その場合、日本側ではどこが第三者検証やCBAM対応の窓口になりますか?
UK CBAMにおける申告・第三者検証の法的な窓口は、UK側でCBAM申告義務を負う輸入者(多くの場合、UKの商社または顧客)です。
一方で、輸入者が申告する体化排出量(embodied emissions)の根拠となるデータは、日本側の製造事業者が保有する生産・排出データであるため、実務上は、日本側メーカーが排出量データ提供および説明対応の中心的な窓口となることが想定されます。
Q11. 川中工程が算定対象外とされる場合、原材料の収率は体化排出量(embodied emissions)の計算に影響しますか?
現時点では、影響するかどうかは分かっていません。
UK CBAMでは、体化排出量(embodied emissions)について、
- どの工程を算定対象とするか
- 排出量をどの製品にどのように帰属(attributable)させるか
- 前駆体(precursor goods)から下流製品への排出量の配分方法
といった具体的な算定・配分ルールは、すべて今後の規則(delegated legislation)に委ねられています。
そのため、川中工程(圧延、加工、部品化等)が算定対象外とされた場合に、
- 原材料の収率(歩留まり)
- ロスやスクラップの扱い
- 製品単位への排出量配分方法
が、体化排出量(embodied emissions)に影響するかどうかについては、現時点で法案やExplanatory Notesから想定することはできません。
また、UK ETSにおいても、排出権価格や排出量を下流製品の製造原価にどのように按分するかについて、統一的なルールは存在していません。
このため、UK ETSとの比較だけで、UK CBAMにおける製品別の明確な配分ルールを導くこともできません。
Q12. 高炉や電炉を保有していない、ねじ・ボルトメーカーのような企業にも、体化排出量(embodied emissions)の報告対応は必要ですか?
ねじ・ボルト(HS7318)はUK CBAMの対象品目に含まれており、状況によっては対応が必要になる可能性があります。
UK CBAMでは、Finance (No. 2) Bill の Schedule 15 において、HS7318(ねじ、ボルト、ナット、ワッシャー等の鉄鋼製品)がCBAM対象品目として明示的に指定されています。そのため、ねじ・ボルト製品であっても、UK向けに輸出される場合にはCBAM制度の射程に入ります。
ただし、UK CBAMにおける法的な申告義務者はUK側の輸入者であり、ねじ・ボルトメーカー自身が直接CBAM申告を行う義務を負うわけではありません。
一方で、体化排出量(embodied emissions)は、輸入される製品の生産に帰属する排出量として定義されているため、自社が高炉・電炉などの直接的な排出源を保有していない場合でも上流工程(鋼材製造等)に由来する排出量がねじ・ボルト製品の体化排出量(embodied emissions)として扱われる可能性があります。
Q13. 将来的に、日本の認証機関(JAB認定など)でUK CBAMの第三者検証を受けることは可能になりますか?
現時点では未確定ですが、法案上、国際的な技術標準や検証枠組みを活用できる余地は明確に設けられています。
UK CBAMの法案(Finance (No.2) Bill, Schedule 16)では、体化排出量(embodied emissions)に関する情報について、第三者による検証を求めることができると規定されています。
そのうえで、HMRC(Commissioners)が定めるCBAM規則においては、
- 排出量の決定方法
- 証拠(evidence)の内容
- 検証の方法・要件
を定める際に、第三者または国際機関が公表する情報や技術標準を「参照(by reference)」して規定を設けることができると明示されています。
Q14. 年間5万ポンド(£50,000)の少量免除基準は、企業単位ですか、それとも製品単位ですか?
UK CBAMにおける年間£50,000の少量免除基準は、「企業単位」や「製品単位」ではなく、UK側の輸入者単位で判定されます。
UK CBAMの法案(Schedule 16)では、CBAMの登録義務や申告義務の有無を判断するための少量免除(de minimis)として、CBAM対象物品の輸入額が、一定の金額閾値(£50,000)以下であるかどうかを基準とする仕組みが設けられています。
この判定は、
- UK側の輸入者(registered / registrable person)ごと
- 一定期間(過去12か月または今後の見込み期間)におけるCBAM対象物品の輸入額の合計
に基づいて行われます。
Q15. 実データ(実測値)を用いる場合、製銑・製鋼のみが対象で、圧延や二次加工の排出量は不要ですか?
工程名だけで一律に判断することはできませんが、一定の条件を満たす場合には、圧延や二次加工工程からの排出量を算定対象外と整理できる可能性があります。
UK CBAMにおける体化排出量(embodied emissions)は、UK ETSの対象となる設備・規制活動(regulated activities)に対応する排出量を基準に設計されています。
UK ETSでは、製銑・製鋼・圧延といった工程区分ではなく、ボイラー、炉、ヒーター、焼成器、窯、オーブン等の燃焼ユニットを含む設備・活動単位で規制対象が定義されています。
このため、圧延や二次加工工程であっても、UK ETSの対象となる設備・規制活動が含まれている場合には、その工程からの排出量は、UK CBAMの体化排出量(embodied emissions)の算定対象となり得ます。
一方で、当該製品の生産に関して、UK ETSの対象となる設備・規制活動が一切含まれていない場合には、その工程から生じる排出量を、UK CBAMの体化排出量に含める必要はないと整理できます。
ただし、この整理は、当該工程そのものに関する排出量についてのものであり、前駆体(鋼材等)の上流工程においてUK ETSの対象設備が存在する場合には、その上流工程由来の体化排出量(embodied emissions)が、製品に帰属する可能性がある点には注意が必要です。




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