ESG経営の本質とは?インパクト志向金融宣言事務局長 安間匡明氏が語る 統合思考と企業価値向上の真実
目次
◆本対談の3つの要点◆
- グローバルの潮流: 欧米でESGの「看板」の掛け替えは進んでいるが、投資判断に非財務要素を織り込む流れは不変。実態としてのESGインテグレーションはむしろ定着している。
- 経済合理性の再定義: 合理的なサステナビリティ経営とは、キャッシュフロー分析を通じて手堅くリターンが見込める事業だけを推進するというものではない。長期トレンドやデータを踏まえて果断な経営判断を行い、自社のマテリアリティに沿った社会課題の解決を通じて、新たな市場の拡大を目指すことである。
- 統合思考の真実: 統合思考は、事業会社というよりも、むしろ「投資家」に求められている。非財務情報は環境・社会にどれだけ悪影響を与えているかあぶり出すためではなく、収益や企業価値の創造に至る価値創造の裏側を分析するための情報であり、投資家にはそれを読み解く力が問われている。
◆対談者プロフィール◆
ゲスト:
インパクト志向金融宣言事務局長 金融庁インパクトコンソーシアムアドバイザリー委員会委員長
安間匡明(あんま・まさあき)氏
1982年に現在の㈱国際協力銀行(JBIC)に入行。世界銀行勤務、業務企画室長、経営企画部長、企画管理部門長等を経て2017年に同行取締役を退任。大和証券㈱顧問を経て、現在はコンサルティング会社非常勤顧問。2017年以降は、①社会変革推進財団および自ら2021年に起ち上げたインパクト志向金融宣言(現在75社参画中)においてインパクト投資の普及・推進活動、②インフラPPPの設計とプロジェクトファイナンスの研究と教育、の2つの分野に軸足を移して活動中。一橋大学客員教授・東京都立大学特任教授・福井県立大学客員教授を兼職。https://www.impact-driven-finance-initiative.com/
聞き手:
Booost株式会社 取締役 COO
大我 猛
元SAPジャパン 常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー。30年以上にわたり、テクノロジーと事業の両面から企業の成長構造を再設計し、持続的な成長を実現してきた。日本オラクル、コンサルティングファーム、SAPを通じて、企業変革およびM&A・PMIを含む経営基盤の再構築を推進。SAPでは、業務効率化中心の価値提供からビジネスモデル変革(DX)へと転換し、サステナビリティ領域における事業創出と自社の中期変革をリード。企業・スタートアップ・パートナーを横断したエコシステム構築を推進し、非財務価値を企業価値へと接続する実装に取り組む。2023年よりBooostの取締役 COOに就任。
1. 世界のESG後退は「失敗」か?トランプ2.0と欧州の現実
大我: 安間さんは長年サステナビリティ領域に携わっていらっしゃいますが、昨今の「トランプ2.0」への動きや欧州の揺り戻しなど、グローバルな潮流をどう見ていますか?
安間氏: 確かにトランプ政権下のアメリカでは、金融機関が「ESG」という看板を下ろして活動することが常態化しています。欧州でも、ガス価格の高騰によって産業競争力が低下し、ドラギレポート以降、サステナビリティ一本槍の戦略に大きな見直しがなされているのは事実です。
しかし、底流では大きな違いは起きていません。 米国でも「ESGインテグレーション」という投資判断手法は変わっていませんし、再生可能エネルギーの導入も石炭火力よりも大きくなる等順調に進展しています。欧州でも、企業価値が高い企業は規制導入の遅れに関係なく、その取り組みをどんどん前倒しで推進しています。逆に、日本のぶれない立ち位置は世界的にも見直されています。
一方で、中国の動きは注目されます。 彼らはこのタイミングを逃さず、東南アジアなどでサステナビリティ価値を組み込んだ商品を武器に市場へ入り込もうとしています。表面的な報道に惑わされず、その実態を見極める必要があります。

2. 「儲かるサステナビリティ」の誤解と、真の合理性
大我: 一時的な「バズ」が終わり、より実態を伴うフェーズに入ったということですね。日本企業の間でも「サスティビリティに取り組むことによって企業価値が向上するのか」という点が非常に重要な論点になっていると感じます。
安間氏: 最近は「儲かるサステナビリティ」、「経済合理性のあるサステナビリティ」というキーワードがよく出ます。ただ、日本の多くの企業がこれを「狭い意味のキャッシュフロー分析」と捉えているのが気になります。
例えば、ロンドン・ビジネス・スクールのアレックス・エドマンズ教授が提唱する「合理的なサステナビリティ」とは、単にキャッシュフロー分析の計算上でリターンが出る事業を選んで投資することを意味していません。「自らのイノベーションを通じて社会全体のパイを大きくできる製品・サービスを生み出し、その結果として企業がリターンを得る」という考え方です。
特に大手企業ほど、この発想が不可欠です。小さな企業であれば、市場の一部を「チェリーピック(つまみ食い)」して儲かる事業だけを取り組めば、なんとかなるかもしれません。しかし、大企業になればなるほど、成長性に限界のある既存市場の中でリターンを出し続けることは難しくなります。
先進国では、社会・環境上の課題は、市場全体の成長を阻む大きな要因となっています。だからこそ、自社のマテリアリティ(重要課題)に対応してその課題を解決し、市場のパイそのものを増やしていくことこそが、大企業にとっての成長戦略の本質なのです。
3. 経営者に求められる「大きなビジョン」と、ボトムアップの限界
大我: 大企業こそ、自ら市場を切り拓く(パイを広げる)視点が必要だということですね。しかし、その発想を現場のボトムアップだけで実現するのは難しそうですね。

安間氏: まさにそこが課題です。課長クラスが、儲かるかどうかわからない社会課題解決ビジネスを役員会に通すのは至難の業です。昨今の反ESG的な動きを受けて、「ボトムアップで儲かる所だけやればいい、経営理念にサステナビリティを掲げる必要はない」と考える企業も出始めていますが、私はそれではグローバル競争に負けると思います。
例えばボーダフォンがアフリカで「M-PESA」(※編集部注:ケニアで広く利用されているモバイル送金サービス)の開発を主導したとき、最初から利益が確約されていたわけではありません。しかし、社会課題解決をテコにアフリカの農業や都市生活の利便性が増せば、莫大なパイが生まれるという大きな見込みが立ちました。それはキャッシュフロー分析の結果ではありません。長期トレンドを踏まえた市場の課題構造分析やこれに対応した技術のイノベーションをあてはめようとする意志が不可欠だったのです。
大企業が新たなマーケットを切り拓くには、「社会課題をテコにビジネスを立ち上げる」という大きなビジョンを持った経営者の判断が不可欠です。企業理念としてこれを組み込み、上から案件形成を促すリーダーシップがない限り、本質的なサステナビリティ経営は実装できません。
4. 投資家こそ「統合思考」を。非財務情報を利益に変える力
大我: 社会課題を解決して「市場のパイそのものを広げる」という新しい挑戦には、当然ながら資本の支えが必要です。企業がこうした攻めの姿勢を取る際、資本市場はどうあるべきでしょうか。
安間氏: 投資家側の「統合思考」が不可欠です。現在、ISSBの設定する基準により、発行体企業が多大なコストをかけて非財務情報が開示されようとしていますが、投資家がそれを企業の「価値創造プロセス」の理解に使い切れているとは言えません。
「統合思考」というと、日本では「企業が統合報告書を作ること」だと思われがちですが、本来は「投資家が企業の活動を正しく理解し、長期的なリターンを維持するために持つべき思考法」なのです。
やみくもに100も200もサステナビリティ指標を求めるのではなく、その企業固有のマテリアリティが、どういう径路でコスト削減や売上拡大に繋がるのか。投資家側も「価値創造ストーリー」を読み解く力を深めていく必要があります。
ESGの看板を下ろす米国、本質を貫く日本。
安間氏が語る、流行に左右されない「勝つための統合思考」の全貌。
「日本企業が陥っている『リニア(直線的)思考』の罠」、
そして「価格のついていない『自然資本・人的資本』を利益に変える具体的な方法」とは?
日本に古くからある「三方よし」を、現代のコンテキストでどう焼き直し、
企業価値向上へと繋げるべきか。
その核心に迫る後半パートをぜひご覧ください。
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