GRI 102:Climate Change 2025とは?新気候変動基準のポイント解説

GRI 102:Climate Change 2025とは?新気候変動基準のポイント解説

2025年6月、サステナビリティに関する国際基準を策定するGRI(Global Reporting Initiative)は、「GRI 102:Climate Change 2025」、「GRI 103:エネルギー 2025」の2つの新しい基準を公表しました。2027年1月に発効される両基準は、GHGプロトコルを含む国際基準に準拠しており、企業にとってより合理的で一貫性のある報告プロセスを実現します。特に、GRI 102におけるGHG排出量開示に関する要件は、IFRS S2の同様の要件と同等であることが、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)によって認められました。 今回は、2回に分けて両基準を取り上げ、それぞれの特徴について解説します。まずは、GRI 102:気候変動から見て行きましょう。

導入の背景

GSSB(グローバルサステナビリティ基準審議会)は、気候関連行動の透明性に対するステークホルダーの要請が著しく高まっていることを踏まえ、この領域の基準見直しを優先事項として特定しました。 今回の導入は、ベストプラクティスを表し、気候変動に関する科学的知見や政府間文書と整合させながら、排出量報告に加えて、移行・適応計画、GHG排出削減目標の進捗、カーボンクレジットの利用など、より幅広い情報開示を目指しています。

GRI 102: 気候変動の主な特徴

公正な移行*(Just Transition)の原則

これまでの気候報告では、企業による公正な移行に関する影響が十分に取り上げられていませんでした。 そのため、本基準は、「公正な移行」の概念が全体にわたって組み込まれています。例えば、気候移行・適応に伴い新たに雇用された労働者、雇用終了または再配置された労働者、再スキル化・アップスキル化研修を受けた従業員数などを報告対象としています。また、地域社会、先住民族、生物多様性を含む人々と環境への影響、それに対する対応策の開示も求められており、人権尊重や社会的公正を考慮した報告が期待されています。 これにより、気候変動対応における社会的側面への責任ある姿勢が、企業評価の新たな軸として明確化されます。

*「公正な移行」とは、ネット・ゼロと気候変動へのレジリエンスへの移行を秩序ある、包摂的かつ公正なものとし、ディーセント・ワークの機会を創出し、誰ひとり取り残さないようにするための取り組みです。

気候変動緩和のための移行計画

本基準では、気候変動緩和のための移行計画において、GHG排出削減のみならず、化石燃料の段階的廃止などその他の緩和目標・進捗について、最新の科学的根拠との整合性をもって報告する必要があります。 また、移行計画が「公正な移行」の原則に沿って策定されているか、その過程で実施されたステークホルダー・エンゲージメントについても開示対象となります。さらに、移行計画に関するガバナンス、計画実施に伴う支出、全社の事業戦略との統合、公共政策活動についての報告も求められます。

気候変動への適応計画

移行計画と同様に、適応計画についても、「公正な移行」の原則に沿って計画の実施と結果に伴う影響とそれらの影響に対する対策を記述しなければなりません。 この開示では、気候関連リスク・機会に伴う影響が、適応計画策定にどのように影響を与えたか、方針や行動の策定に用いたシナリオ、実施にかかる支出に関する情報、ガバナンス、目標、ステークホルダー・エンゲージメントの内容についての報告が必要です。

排出量報告

企業は、Scope 1、2、3 の排出量報告を、それぞれ独立して開示することが原則とされています。従来の GRI 305: Emissions 2016 を土台とし、算定範囲や再計算のルールなどの要件がより明確な形で整理されています。

なお、本基準とIFRS S2の両方に基づいて報告を行う企業は、IFRS S2におけるScope 1、2、3の排出量に関する開示内容をもって、GRI 102の同様の要件を満たすことが認められています。ただしその際は、GHGプロトコル(2004年版)に準拠して排出量を測定するとともに、GRI 1: Foundation 2021の「GRI対照表」の要件に従い、掲載箇所を明記する必要があります。

排出量削減目標

企業は Scope 1、2、3 に関する削減目標を報告し、それらが最新の科学的根拠とどのように整合しているかを説明する必要があります。

また、Scope 1、2、3 の削減目標について、それらが最新の科学的根拠とどのように整合しているかを説明する必要があります。目標の見直し方針、基準年、基準年排出量の再計算についても開示しなければなりません。特に、各目標に対する進捗はインベントリ方式により報告し、その進捗が自社の施策によるものか、二次的効果によるものか、あるいは外的要因によるものかを明確にする必要があります。

バリューチェーン内のGHG除去

GHG除去の利用に関する透明性を高めるため、企業は除去の利用目的、総除去量と品質基準のモニタリング方法を報告しなければなりません。 開示する際に、地域社会、先住民族、生物多様性を含む人々と環境への影響とこれらの影響に対して講じた対策の報告が必要です。

カーボンクレジット

企業は、調達目的に加え、相殺されたカーボンクレジットの総量、プロジェクトに関する情報と品質基準などの情報を開示する必要があります。 また、カーボンクレジットに関するプロジェクトは、環境や人々に対して正負両面の影響をもたらす可能性があるため、影響の評価と継続的なモニタリングについての報告が期待されています。

まとめ

GRI 102: 気候変動は、企業の気候関連情報開示をより包括的かつ国際的に整合させた新たな枠組みです。排出量だけでなく、移行や適応計画、社会や生態への影響までを対象とし、透明性と説明責任を一段と強化しています。企業はこの基準を通じて、ステークホルダーの期待に応える信頼ある情報発信を行い、持続可能でレジリエントな事業運営への転換を加速させることが求められます。

出典

GRI GRI Resource Center

IFRS GRI 102 and IFRS S2—Reporting on both standards and equivalence for IFRS S2 on GHG Emissions Disclosures

UNGC 公正な移行の基礎知識 企業向け解説書

GHGプロトコル A Corporate Accounting and Reporting Standard REVISED EDITION

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