EUDR 基本要件と簡易DDを踏まえ企業が今やるべきこと

目次
EU森林破壊防止規則(EUDR: EU Deforestation Regulation)は、特定の農林産品が「森林破壊フリー」であることを証明するため、企業にデューデリジェンス(以下、「DD」)を義務付ける規則です。
2025年5月、欧州委員会はEUDRに基づく初回の「国別分類リスト(Country Classification List)」を公表しました。これによると、日本を含む一部の国が暫定的に「低リスク国」として位置づけられています。特定の農林産品の全ての原材料が低リスク国由来である場合、企業は簡易DDの適用が可能となる可能性が出てきました。
しかし、「簡易」とは言っても、企業は実際に何を行う必要があるのでしょうか?本当に対応の負担は軽減されるのでしょうか?
本記事では、簡易DDの仕組みと、日本企業が制度を活用するために今から準備すべき実務ポイントをご紹介します。
EUDRが求める基本要件とは?
1.スケジュール
EUDRは2023年に成立し、当初は2024年末からの適用が予定されていましたが、スケジュールが見直され、大企業は2025年末から、中小企業は2026年中頃からの適用開始とされています。

EUDR施行スケジュール(欧州委員会の公式資料より抜粋)
2.対象製品
本規則の対象となるのは、以下の7品目(およびそれらを含む関連製品)です。企業はこれらをEU市場で販売・流通させるにあたり、「森林減少がないこと」かつ「合法に生産されたこと」を証明する義務があります。

EUDR対象となる7品目と関連製品(農林水産省「EUDR対応ガイド」より抜粋)
3.デューデリジェンス手続きの概要(第9条~第11条)
対象製品が森林減少を伴わないことを証明するための手段の一つとして、EUDRは企業に対して以下のようなデューデリジェンス手続きを求めています:
(1)情報収集:必要情報の収集と保存(第9条)
(2)リスク評価:収集したDD情報に基づき、規則違反のリスクを評価(第10条)
(3)リスク緩和措置:リスクありの場合、リスクを緩和する措置を実施(第11条)
これらのデューデリジェンスは、EUDRの中核要件を実行に移す上での重要なステップとなります。
簡易デューデリジェンスとは?
簡易DD(Simplified Due Diligence)は、第13条に基づき、すべての関連製品・原料が「低リスク国」産である場合に、リスク評価(第10条)および緩和措置(第11条)を省略できるというしくみで、企業にとって実務的メリットがあります。ただし、情報収集(第9条)は通常通り必要であり、適用にはいくつかの条件があります:
- サプライチェーンが複雑で、高リスクまたは標準リスク国の原材料混入の可能性がある場合は適用不可。
- 規則の回避や混入リスクが「無視できるレベル」であることを文書で証明する必要あり(当局から求められた際には提出が必要)。
- 万が一、リスク情報や通報があった場合、即座に通常のDD義務(第10・11条)に切り替える必要がある。
また、加工が低リスク国であっても、原材料が他リスク国産であれば簡易DDの適用外です。例えば日本で加工された製品でも、原材料のゴムが東南アジア由来であれば、通常DDが必要となります。
簡易DDでも避けられない「情報収集」義務とは?(第9条)
簡易DDは一部の義務を省略できるだけで、情報収集(第9条)は通常DDと同様に必須です。企業は以下の情報を収集し、5年間保存する義務があります:
- 製品名を含む製品情報
- 数量(キログラム単位)
- 生産国
- 地理情報
- 対象製品を取り扱った企業・個人の名称、住所、メールアドレス
- 森林減少フリー製品であることを決定的かつ検証可能な十分な情報【森林減少フリー製品確認】
- 対象製品が生産国の関連法規に基づいて生産されたことを示す決定的かつ検証可能な十分な情報【合法性確認】
この「情報収集」には製品や原材料に関する詳細なデータが必要となります。例えば原材料の生産地の地理情報(農園の住所または緯度経度)を取得し、その土地で2021年以降森林減少が発生していないことを衛星画像等で証明することが求められます
EUDR本格化に向け、今から取り組むべきこと
EUDRに違反した場合、EUの輸入業者には最大で売上高の4%の罰金が科される可能性があり、非コンプライアンス製品はEU市場から排除されるおそれもあります。
日本は現時点で「低リスク国」に分類されていますが、義務化まで残された期間は約半年〜1年と迫っており、対応準備は待ったなしの状況です。まずは自社製品が簡易DDの対象となるかを見極めた上で、たとえ対象であっても回避できない情報収集体制(第9条)の整備が不可欠です。
今のうちに社内の方針と体制を固めておくことが、将来的なリスク回避と安定的な輸出競争力の確保につながる重要な一歩となるでしょう。
出典
欧州委員会 Deforestation Regulation implementation
欧州委員会 European Union, Trade in goods with Japan 2024
欧州委員会 EUDR:Regulation (EU) 2023/1115
欧州委員会 Country Classification List
農林水産省 国内関係者向けEUの森林減少防止に関する規則