欧州電池規則におけるEV用電池のCFP算定方法(2025年版)委任規則案と最新動向

欧州連合(EU)は、EV用電池のカーボンフットプリント(CFP)の算定・検証方法に関する「委任規則案」とCFP宣言の形式を定める「実施規則案」を2024年4月に公開しました。いずれも草案段階ですが、既に多くの関連企業が対応準備に追われており、特にサプライチェーン全体のデータ連携が重要な課題となっています。また、本規則はEU域内で電池を販売する全ての事業者が対象となるため、日本企業にとっても無関係ではなく、特にEUで電気自動車事業を展開している自動車メーカーには、早急に準備が必要です。

今回は前者の委任規則案におけるCFP算定方法のうち、早期に理解と対応が必要な部分について解説します。

機能単位

機能単位とは、製品システムの性能を表す定量化した参照単位です。「委任規則案」におけるCFP算定の機能単位は、電池の生涯電力供給量と定義され、以下の計算式で算出されます。

生涯電力供給量=エネルギー容量 × 年間充放電回数 × 生涯使用年数

エネルギー容量:電池の使用開始時の使用可能なエネルギー容量

年間充放電回数:1年あたりの車種別充放電回数

(例えば、軽自動車は60回、中・大型自動車は250回)

生涯使用年数  :電池の保証期間の年数

(走行距離で保証期間が示されている場合、走行距離を年数に換算し、

実際の保証年数と比較して短い方を適用)

従って、EV用電池のCFPはライフサイクルにおけるGHG排出量(kg-CO2eq)を、生涯電力供給量(kWh)で除することで算出され、kg-CO2eq/kWhで報告されます。

システム境界とカットオフルール

システム境界とは、CFP算定の対象となるプロセスを決定するための基準です。どこまでの工程を含めるかを明確に定めることで、算定結果の透明性と一貫性が保たれる重要な要素となります。また、カットオフルールを明確にすることで、過度なデータ負担を避けつつ、実務上の効率性と信頼性を両立させます。

「委任規則案」では、1)原材料調達、2)製造、3)流通、4)廃棄・リサイクル段階が含まれます。各段階の主なプロセス例は下記の通りです。

1)原材料調達段階

  • 自然からの資源抽出と、製造段階に該当する最初の施設のゲートを通過して製品のコンポーネントに使用されるまでの前処理
  • 抽出施設と前処理施設内、施設間、及び施設から製造段階に該当する最初の施設までの原材料と中間製品の輸送
  • 正極・負極活物質前駆体、電解質塩の溶媒、熱調節システム用の配管と流体の製造 など

2)製造段階

  • 正極・負極活物質、正極・負極、電解質の製造
  • コンポーネント、モジュールの組み立て
  • 最終部品及び中間製品の使用場所までの輸送作業 など

3)流通段階

  • 完成品としての電池の製造施設から市場に投入されるまでの輸送 ※保管は対象外

4)廃棄・リサイクル段階

  • 廃棄電池の収集、解体、熱処理または機械処理
  • リサイクル材料への分離、変換
  • エネルギー回収 など

カットオフルールについては、材料入力において質量1%未満の材料がカットオフ可能です。その場合、カットオフ対象となった質量分を、CFPが最も高い材料に加算してギャップを埋める必要があります。また、報告書でカットオフの適用箇所を明確に示すことが求められます。

データ収集要件と品質要件

データの出所や品質がCFPの結果に与える影響が大きいため、プロセスの性質に即した適切なデータ収集と管理が求められます。

「委任規則案」では、1)CFPに含まれるプロセスを企業固有データが必須なプロセス、 2)必須ではないが関連性の高いプロセス、3)その他のプロセス、の3種類に分類され、それぞれのデータ要件が設定されています。

種類企業固有データの義務範囲データ要件
1)企業固有データが必須なプロセス必須2)の範囲以外の製造段階と流通段階に含まれる全てのプロセス次のいずれかの方法でサプライヤーから企業固有のデータを収集:ライフサイクルインベントリ(LCI)を収集、例えば入力材料、エネルギー消費量、リサイクル含有量など企業固有データセットを収集、同時に、検証機関や市場監視当局が情報を受け取れることを保証第三者機関からサプライヤーのLCIを統合した各プロセス向けの企業固有データセットを収集
2)必須ではないが関連性の高いプロセス推奨正・負極活物質前駆体の生産電解質塩、前駆体の生産銅、アルミニウム、鉄鋼の生産技術代表性(TeR)※に応じて二次データセットが適用可能データ品質評価(ÐQR)※に応じて企業固有データセットが適用可能
3)その他のプロセス不要上記1)2)以外のプロセス技術代表性(TeR)※に応じて二次データセットが適用可能

※DQRは、CFPのデータ品質を評価するための指標であり、技術的代表性(TeR)、地理的代表性(GeR)、時間的代表性(TiR)の3つの基準で計算されます。企業固有データと二次データセットそれぞれに対して各基準の評価ランクを確認する必要があるためご留意ください。

電力の利用に伴うGHG排出量の算定

「委任規則案」において考慮可能な電力は、国の平均電力消費ミックスと直接接続電力の2種のみです。原産地証明を含め、電力証書や残余ミックスが適用不可です。

直接接続電力については、同じ施設内にある発電設備または直接ラインを通じて電力が供給される場合が適用できます。ただし、直接接続電力の発電量がシステム境界内で消費された電力量を越え、その余剰電力を外部に提供することによる削減効果を加味することはできません。また、直接接続電力に関連する契約文書が第三者に販売された場合、契約文書として販売された電力は国の平均電力消費ミックスに基づいて算定しなければなりません。

CFP算定方法の最新動向(2025年時点)

欧州電池規則における CFP(カーボンフットプリント)の算定方法は、2025 年時点で大枠がほぼ固まっています。

2025年に欧州委員会 JRC(Joint Research Center共同研究センター) が公表した最新ガイドラインにより、特に産業用バッテリーの算定方法は実質的な準標準として扱われ始めています。

ただし、最終的な法的根拠となる Delegated Act(委任規則) はまだ調整中であり、「完全に確定した最終仕様」ではありません。

企業は現行ガイドラインで準備を進めながら、今後のアップデートを継続的にモニタリングする必要があります。

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電池パスポートとの関係

電池パスポートでは CFP 値の提出が必須であり、CFP算定に必要なデータ(材料の重量構成、採掘地・精錬地、製造工程のエネルギー使用量など)は、そのままパスポート用の基礎データになります。

つまり CFP算定の準備=電池パスポート準備 であり、両者を別々に進めることは現実的ではありません。

👉関連記事 電池パスポートの全体構造:

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DD(デューデリジェンス)義務延期(2025年7月)

2025年7月、EU 理事会は原材料デューデリジェンス(DD)義務の開始時期を 2027年8月18日へ延期しました。

DD は電池パスポートに統合される重要要素であり、原材料の採掘・精錬地情報、社会・環境リスク評価、リスク緩和策など、CFP算定と密接に関連します。延期は「猶予」ではなく、準備精度を高める機会と捉えるべきです。

👉関連記事 DD延期の解説記事(2025年7月更新版):

まとめ

「委任規則案」は、EV用電池のCFP算定に新しい基準を提示する一方で、実務に落とし込むには多くの課題があります。特に、機能単位の妥当性、サプライチェーンのデータ収集負荷、電力データの厳格な扱いなどは依然として議論の対象です。

一方、2025年時点で CFP算定方法は大枠が固まり、企業としては算定体制・サプライヤー協働・データ粒度の統一が実務上の優先事項となります。さらに、電池パスポートと CFP のデータ要求は重複しており、両者を一体で準備することが不可欠です。

また、デューデリジェンス(DD)義務は 2027年8月18日へ延期されましたが、制度の方向性は変わらず、サプライチェーン透明性への要求はむしろ強まっています。

EU市場で競争力を維持するため、日本企業は制度動向を注視しながら、データ基盤の整備とサプライヤー連携を早期に進める必要があります。

出典:

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