【全3回・第3回】SBTi企業ネットゼロ基準V2.0(案) ~移行期間・既存目標の扱いと、企業が今取るべき対応~

SBTiが公表した「企業ネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard:CNZS)V2.0改定(案)」では、基準の抜本的な見直しが進む一方、企業が実務的に対応しやすくなるよう、一定の移行期間が設けられています。最終回では、今後の移行スケジュールや既存目標の扱い、そして企業が取るべき具体的な対応について整理します。

移行期間と既存目標の扱い

SBTiは、企業の混乱を避けるため、2025~2026年を移行期間と定めています。この期間中は、従来の基準(V1.2および近期目標基準V5.2)による目標設定が可能です。ただし、2027年からはV2.0への完全移行が想定されており、企業は早期の備えが求められます。

2025年〜2026年に新規目標を設定する企業

  • 2025年および2026年は、現行の基準(長期目標はV1.2と短期目標はV5.2)での目標設定が可能
  • 2027年からはV2.0を使用した新たな短期・長期目標設定を想定
  • 2025年・2026年に現行の基準で認定された短期目標は、5年間または2030年末まで(いずれか早い方)有効
  • 2030年末までにV2.0に基づく次期間の短期目標を設定することが必要

既存の短期目標を持つ企業

既存の目標は、2030年末または設定期間の終了時点まで有効とされます。詳細な更新プロセスについては、2025年後半に予定されている第2回パブリック・コンサルテーションで公表される予定です。

スコープ3目標の移行

Scope3目標についても、V2.0への円滑な移行パスが設計される見込みで、詳細は今後発表予定です。

企業はどうすべきのか

SBTiのCNZS改定(案)は、単なる要件の更新ではなく、企業にとって戦略の再構築が問われる重要な機会です。ここでは、企業が今から取り組むべきステップを「準備段階」「目標設定」「Scope3・保証対応」「戦略的対応」の4段階で整理します。

1.準備段階:最新動向の把握と影響分析

  • 最新動向のキャッチアップ:SBTiの資料、コンサルテーション結果、パイロット実証の報告などを継続的にフォローし、V2.0の最終内容を把握する。
  • 自社の分類と影響分析:自社が「カテゴリA」か「カテゴリB」かを判断し、自社に適用される要件を特定する。

2.目標設定・再設定:移行期間を見据えた計画を

  • 新規設定企業:2025〜2026年に目標設定予定の企業は、現行基準(V1.2)でも設定可能ですが、V2.0の要件も意識した目標設計が望ましい。
  • 既存目標保有企業:既存目標は2030年または目標期間終了まで有効ですが、2030年までにV2.0に基づく再設定が必要になります。現時点から更新タイミングや準備に関する社内体制を整えておくことが重要です。

3.Scope3・データ品質・第三者保証への対応

  • Scope3対応の強化:Scope3排出への対応が企業評価の鍵となります。特にカテゴリーA企業では、排出源の特定、目標の策定、進捗のモニタリングが厳格に求められます。
  • データ品質の段階的向上:排出量の多い活動や重要なScope3カテゴリにおける一次データの収集・追跡可能性の確保が鍵となります。将来的な保証取得も見据え、基礎データの精度向上を計画的に進めましょう。
  • 第三者保証への備え:GHGインベントリや進捗評価に関する限定的保証(Limited Assurance)の取得が、カテゴリーA企業では義務となる予定です。保証に耐えうる体制整備と、外部機関との連携を早期に進めましょう。

4.戦略的対応:脱炭素を経営の中核に

  • 継続的改善体制の構築:V2.0では、5年サイクルでの進捗評価・再検証が求められます。目標を一度立てて終わりではなく、継続的なレビュー体制の構築が鍵を握ります。
  • 経営戦略との連動:Scope3対応や脱炭素の取り組みは、製品開発・調達・事業ポートフォリオに直結します。単なる開示対応にとどまらず、中長期の企業成長や制度開示も視野に入れた戦略立案が重要です。
  • ステークホルダーとの対話強化:投資家、顧客、規制当局など多様なステークホルダーとの対話を通じて、自社の気候変動対応について理解を促進し、透明性を高めることで信頼関係を構築しましょう。

このように、SBTi基準の改定への対応は単なるSBTiへの対応にとどまらず、企業の持続的成長と信頼性を左右する重要な取り組みとなります。次回のコンサルテーション結果や最終版の公開を見据え、早期から準備を進めることが求められます。

本シリーズ3回にわたり、SBTi企業ネットゼロ基準(CNZS)V2.0(案)の改訂の背景、詳細内容、そして企業の対応策について解説してきました。この情報が皆様の脱炭素戦略の策定と推進の一助となれば幸いです。

出典

Developing the Corporate Net-Zero Standard – Science Based Targets Initiative

CNZS V2.0_Consultation Draft with Narrative

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