【全3回・第2回】SBTi企業ネットゼロ基準V2.0(案) ~改訂の詳細~

前回の記事では、SBTi企業ネットゼロ基準(CNZS)V2.0(案)の改訂背景と全体像について解説しました。第2回となる本記事では、改訂の具体的な詳細に踏み込み、企業が特に注目すべき4つの主要変更点について深掘りします。

企業分類:企業の規模と地域に応じた新ルール

SBTiは今回の改訂案で、企業を「カテゴリA」「カテゴリB」に分類する新たなスキームを導入しました。これは、EUの企業規模の定義と世界銀行による地域所得区分に基づいています。

カテゴリA:

・すべての国の大企業

・高所得国および中高所得国に分類される中規模企業

カテゴリB:

・中低所得国および低所得国に分類される中規模企業

・すべての国の小規模・零細企業

この分類により、大規模企業には網羅的な開示や保証が求められ、一方で中小企業には実務負担を軽減する柔軟性が与えられます。リソースや事業環境の違いを尊重しつつ、すべての企業に脱炭素行動を促す枠組みといえます。

強化された目標設定:Scope3対応と残余排出の考え方に変化

目標設定は脱炭素戦略の中核であり、今回の改訂ではより実務的かつ戦略的なアプローチが求められるようになりました。特にScope3(バリューチェーン排出)と残余排出の扱いが大きく変わるため、単なる数値目標から、具体的な削減プランを伴う目標設定への移行が必要となります。

具体的な変更点を以下の一覧表にまとめました。

¹SDA:Sectoral Decarbonization Approach セクター別脱炭素アプローチ

²ACA:Absolute Contraction Approach 絶対排出削減アプローチ

³・中間除去目標を必須とする

・中間除去目標は任意とするが、追加的認知を得られるようにする

・残余排出量に対して、追加的スコープ1削減または除去によって、積極的に対処する道筋

⁴・同種適用(like-for-like)アプローチ:残余排出をGHGごとに分解し、それぞれに対応する恒久性を持つ除去手法で処理。CO₂貯留期間とGHGの存続期間を一致させる。

・徐々に移行アプローチ:2030〜2050年にかけて、短期的な除去から恒久的な除去手法へ段階的に移行。気候シナリオに沿った普及ペースに対応。

これにより、単なる排出量の数値目標だけでなく、戦略的かつ科学的に裏付けられた削減アプローチが求められるようになります。

新たな検証モデル:5年サイクルの導入で透明性と説明責任を強化

これまでは目標設定時の認定にとどまっていたSBTiの審査プロセスに、今後は検証・モニタリングのサイクルが導入されます。

  • 5年間を一区切りとし、企業は「目標設定 → 中間報告 → 進捗確認 → 再認証」という一連のフェーズで継続的に評価されるようになります。
  • 第三者検証機関との連携も組み込まれ、特にカテゴリA企業に対しては「限定的保証(Limited Assurance)」の取得が必須となります。

この新たなモデルにより、単発的な認定から継続的な管理体制への転換が促進され、企業のサステナビリティ経営の信頼性が高まります。

出典:CNZS-V2-_-Detailed-Explanatory-Guide_Japanese.pdf

データ品質と保証:一次データの活用と外部保証が鍵に

温室効果ガス排出量の正確な把握は、目標の信頼性を左右します。今回の基準では、企業に以下のような対応が求められています:

  • 重要排出源の特定:Scope1・2およびScope3で影響の大きい領域を把握
  • 一次データへの移行計画:自社データや取引先からの情報取得体制の整備
  • 限定的保証の取得(カテゴリA):第三者機関によるGHGインベントリと目標進捗に関する外部保証

CSRD(欧州:企業サステナビリティ報告指令)との整合性も意識されており、今後は「定量データの正確性と保証」がSBT認定の前提になるといえるでしょう。

次回(最終回)では、この改訂に企業はどう対応すべきか、準備段階での優先事項、既存目標を持つ企業の移行戦略、そして新たなデータ要件への対応など、実務担当者が直面する課題と解決策について具体的に解説します。

出典

SBTi calls for companies to pilot draft Corporate Net-Zero Standard V2 – Science Based Targets Initiative

Developing the Corporate Net-Zero Standard – Science Based Targets Initiative

CNZS V2.0_Consultation Draft with Narrative

CNZS-V2-_-Detailed-Explanatory-Guide_Japanese.pdf

SBTi Corporate Net-Zero Standard改定案_20250526.pdf

記事問い合わせCTA