【全3回・第1回】SBTi企業ネットゼロ基準V2.0(案) — 改訂の背景と全体像

目次
2025年3月18日、SBTi(Science Based Targets initiative)は「企業ネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard)以下CNZS」の改定案(V2.0)を公表し、同年6月1日までパブリック・コンサルテーションを実施しました。現在は提出されたフィードバックの分析を行い、最終版に向けた調整や説明資料の作成が進められています。
企業にとって、SBT認定は気候変動への責任ある対応を対外的に示す有力な手段であり、その基準の改訂は、自社のサステナビリティ戦略に大きく影響を及ぼします。
本シリーズでは、全3回にわたりSBTiの企業ネットゼロ基準V2.0(案)について解説します。第1回となる本記事では改訂の背景と全体像、第2回では基準の詳細ポイント、第3回では企業に求められる具体的な対応策について取り上げます。
なぜ改訂が必要なのか?
SBTiは、2023年に公表した標準開発に関する手順書において、すべての基準は承認から1年以上5年以内に見直すことが定めています。CNZSは2021年に初版が公表され、2022年・2023年に小規模な更新を経て、今回が初の本格改訂となります。
この改訂の目的は、単なる基準の更新にとどまらず、「より多くの企業が科学的根拠に基づいた目標を設定し、着実に実行できる枠組み」を実現することにあります。具体的には以下の4つの目的が掲げられています。
- 最新の科学とベストプラクティスに沿った対応
- バリューチェーン全体の排出への取り組みを強化
- 継続的な改善サイクルの導入
- 構造、利便性、他制度との相互運用性の向上
これらは、気候科学の進展と企業実務の変化に即した形で、ネットゼロ実現の道筋をさらに具体的かつ実行可能なものへと進化させる試みです。
改訂ポイント一覧
今回の改訂案では、広範な見直しが行われていますが、4つの主要なポイントがあります:
- 企業の分類体系の導入:企業を規模や排出量に応じてカテゴリA(大・中規模企業)とカテゴリB(小規模企業)に分類し、それぞれに異なる要件を設定
- 目標設定の枠組み強化:Scopeごとの個別目標設定義務化、Scope3バウンダリの見直しなど、より厳格かつ現実的な目標設定の仕組みを導入
- 検証サイクルの導入:5年ごとの目標再検証を義務付け、継続的な改善を促進する仕組みを構築
- データ品質と保証の強化:特にカテゴリA企業に対して第三者保証の取得を義務付け、データの信頼性を向上
これらの改訂により、現行版(V1.2)と比べ、より体系的かつ段階的なアプローチを導入し、企業の気候変動対応の成熟度を高める設計となっています。

CNZS V2.0ドラフトの変更点概要 出典:CNZS-V2-_-Detailed-Explanatory-Guide_Japanese.pdf
改訂プロセスのスケジュール
SBTiは以下のスケジュールで改訂プロセスを進行しています。
日程 | ステップ | 内容 |
2025年3月18日 | 草案公開 | CNZS V2.0改訂案の公表 |
2025年3月18日〜6月1日 | 第1回パブリック・コンサルテーション | 草案に対する意見募集期間 |
2025年6月 | フィードバック分析 | フィードバックの要約報告書を作成し、改訂案のアップデートと説明資料の作成 |
(現在)2025年6月16日~8月15日 | パイロットテスト実施 | 企業による草案基準のパイロットテスト |
2025年後半 | 第2回パブリック・コンサルテーション | 更新草案に対する2回目の意見募集 |
2026年初頭 | 最終改訂版公表 | 技術部門による最終案の作成 |
2026年 | 承認・採択 | 独立技術評議会による承認および理事会による採択 |
2027年(予定) | V2.0完全実施 | 新基準での目標設定開始 |
企業にとっては、2025〜2026年は準備期間となり、2027年からはV2.0を使った目標設定が原則となる見通しです。
次回の第2回では、基準改訂の詳細なポイントに焦点を当て、企業分類の新たな枠組み、目標設定方法の変更点、検証サイクルの導入、データ品質要件の強化など、企業の実務担当者が特に注目すべき変更点を詳しく解説します。
出典
SBTi-Procedure-for-Development-of-Standards.pdf
CNZS V2.0_Consultation Draft with Narrative
CNZS-V2-_-Detailed-Explanatory-Guide_Japanese.pdf
Developing the Corporate Net-Zero Standard – Science Based Targets Initiative