サステナビリティ第三者保証 ~実務上の課題~

サステナビリティ情報の信頼性を高める手段として、企業による第三者保証の取得が注目されています。欧州ではCSRDにより限定的保証が義務化され、日本でも制度開示の中で保証制度の導入が検討されています。一方で、保証の取得に向けては、企業の情報整備や体制構築、コスト負担など多くの実務上の課題が存在します。本記事では、第三者保証の制度的背景を踏まえた上で、企業が直面する代表的な3つの課題を解説します。

制度化が進む第三者保証の役割

第三者保証は、企業が開示するサステナビリティ情報(温室効果ガス排出量、気候リスク等)について、独立した外部機関がその正確性・信頼性を検証する枠組みです。欧州ではCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive 企業サステナビリティ報告指令)により、2024年以降対象企業に対して限定的保証の取得が義務化されており、将来的には合理的保証への移行も予定されています。

日本においても、金融庁の審議会において保証制度の段階的導入が議論されており、「開示の初期段階では限定的保証が現実的」との見解が複数の公的資料に明記されています【金融庁・保証WG(2024年5月14日)】【サステナビリティ情報の開示と保証に関するWG】。しかし制度化の進展と並行して、企業が保証を実務で取り入れる際には、具体的な課題が顕在化しています。

実務上の課題① 情報整備と内部統制の未成熟

最大の課題の一つは、保証の前提となる情報の整備です。財務情報と異なり、サステナビリティ情報は定量化や集計の標準が確立しておらず、企業間でばらつきがあります。特にGHG排出量の算定においては、事業所や子会社、サプライチェーンをまたぐ多様なデータを収集し、整合性を持って管理する必要があります。

さらに保証を受ける際には、情報の出所や算定ロジックを示すドキュメントの整備、内部統制プロセスの構築が求められます。

実務上の課題② 保証の専門性と人材不足

保証を受けるためには、企業側にも相応の専門知識が必要です。GHGプロトコル、ISAE 3000/3410、ISO 14064など国際基準への理解が求められますが、日本企業の多くはこれらに習熟した人材が不足しているのが現状です。保証提供者とのコミュニケーションやデータの説明責任を果たすには、ESG領域に特化した社内リソースの確保が不可欠です。

さらに、保証人(監査法人や評価機関)によって保証の手法や精度に差があるため、保証品質を見極めたうえで適切な機関を選定する必要もあります。これは保証を受ける企業にとって、技術面・契約面の両面で負担の大きい作業です。

社内リソース(知識・人材等)が不足している場合には、外部コンサルタントに企業側立場で支援を求める場合もあります。

実務上の課題③ 対応コストと導入格差の拡大

保証取得には相応のコストが発生します。特に初めて保証を受ける企業においては上述の課題①の整備が準備段階として必要となります。また保証を取得する企業側としては正しいと信じ業務設計を実施しているとしても、保証人によっては指摘レベル・指摘内容が異なることも充分あり得ます。まだ数値の保証については、エクセルのバケツリレーでは保証工数が多くなることから、保証工数の削減を視野に入れた先進企業から徐々にサステナビリティERPの導入が始まっています。

まとめ

サステナビリティ第三者保証は、制度開示において情報の信頼性と透明性を高める上で重要な役割を果たします。しかし実務では、①情報整備と内部統制、②専門性と人材の不足、③コストと導入格差という3つの大きな課題が存在しています。企業はこれらを克服する体制を整えるとともに、制度的側面でも段階的導入や柔軟な支援策が求められます。保証は単なる制度対応にとどまらず、企業のサステナビリティへの本気度を示す鍵でもあるのです。

出典

欧州監査監督機関委員会ガイドライン https://finance.ec.europa.eu/document/download/8ac2df18-2ae1-4bc7-9d87-a4a740e48f5e_en?filename=240930-ceaob-guidelines-limited-assurance-sustainability-reporting_en.pdf

金融庁金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 第1回 事務局資料 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20240326/03.pdf

欧州委員会 COM(2025) 80 final https://commission.europa.eu/document/download/0affa9a8-2ac5-46a9-98f8-19205bf61eb5_en?filename=COM_2025_80_EN.pdf

金融庁金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 第7回 資料1 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20250605/01.pdf

Enterprise Zine 迫る「サステナビリティ情報開示の義務化」にIT部門が果たすべき役割 https://enterprisezine.jp/article/detail/21917

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