カーボンフットプリント(CFP)とグリーンウォッシュ 単一指標の“正しい理解”が環境経営の信頼性を決める

前回の記事では、カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Product)が、製品単位で排出量を可視化するだけではなく、企業全体のGHG削減戦略の実行基盤として有効であることを整理しました。製品ごとの排出構造を把握できる点、サプライチェーンとの協働や調達戦略の見直しに直結する点、国際的な開示制度や取引要請に対応する共通言語としての価値が高まり続けている点からは、CFPの算定を行うことは多くの企業にとって大きな意義があります。

しかし、CFPにはもうひとつ重要な特性があります。それは、CFPは気候変動(GHG排出量)というひとつの環境影響だけを扱う単一指標であるということです。この構造的な特徴を理解しないまま運用すると、企業自身が意図せずグリーンウォッシュと指摘されるリスクを生む可能性があります。本記事は、CFPがどのような場面で誤認を生みやすいのか、そして企業はどのように向き合うべきかを詳しく解説していきます。

1.CFPとグリーンウォッシュの関係を理解する

CFPはISO 14067に基づき、製品のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量をCO₂換算で算定する指標です。しかしISO規格が明確に示すように、CFPが扱うのはLCA(Life Cycle Assesment)の数多くある環境影響項目のうち、あくまで気候変動のみです。つまり製品の環境影響全体を俯瞰したとき、化学物質の毒性、生態系への影響、水使用、資源枯渇、酸性化、循環性といった、製品の環境性能を形づくる他の環境影響項目はCFPでは評価されません。

この評価範囲の限定性が、グリーンウォッシュの温床になりやすい点です。本来は気候変動という一側面に過ぎないにもかかわらず、CFPが小さいという理由だけで製品全体の環境負荷を低いものとして印象付けてしまうと、消費者や取引先に総合的に環境に優れているという誤ったイメージを与える恐れがあります。特にEUの「Green Claims Directive」では、単一指標を根拠に製品全体の環境優位性を示す「比較主張(comparative claims)」が誤認リスクの高い表示として厳しく位置づけられています。 こうした国際的な議論と同様に、近年、環境省の「環境表示のあり方に関する検討会」でも、単一指標を過度に強調する表示は誤認につながり得ると強く指摘されています。

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