削減貢献量 ー WBCSD最新版ガイダンスの要点解説

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持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)は2025年7月、「削減貢献量の算定・開示に関するガイダンス(Guidance on Avoided Emissions)」の改訂版となるv2.0を公表しました。今回の改訂では、方法論と開示の透明性が一段と強化され、GHGプロトコルやISO 14067などの国際基準との整合性も高められました。 本記事では、このガイダンスの主な更新点について解説します。
主な更新点
① より明確で包括的な適格性ゲートの基準
削減貢献量を主張する前提として、まず「適格性」を確認することが求められます。今回の改訂では、主張の信頼性と科学的整合性を確保するために、各ゲートの資格要件と推奨事項が明確化されました。例えば、ゲート1「気候変動対策の信頼性」では以下が示されています。
- (必須)Scope 1~3 GHG排出量について、最新の第三者検証済みインベントリを公開し、定期的に更新していること
- (必須)短期目標を1.5℃パスウェイに沿って公表していること
- (推奨)設定した目標の進捗をモニタリングし、排出量ベースのKPIで公開すること
- (推奨)1.5℃パスウェイと整合したトランジションプランを策定・公表すること
一方で、企業が既存の参照フレームワークに完全準拠できない場合でも、本ガイダンスは柔軟性を持たせています。気候行動や透明性、継続的改善の努力を考慮し、ケースごとに信頼性を評価できる仕組みが導入されました。その場合、企業には以下の対応が求められます。
- 参照フレームワークに準拠できない理由の明示
- 代替フレームワークとの整合証拠の提示
- 代替フレームワークの第三者検証
② システム境界 ― 3段階の選択肢
システム境界は、機能単位やサプライチェーンのロジックに基づいて定義されます。本ガイダンスは、削減貢献量の対象となるソリューションのシステム境界を以下3つの段階のうちから選択できるとしています。
- 狭い範囲:コア製品またはサービスに限定(例:新しいEVバッテリー)
- 広い範囲:ソリューションの導入・実装まで含む(例:新しいバッテリーを搭載したEV)
- より広い範囲:さらにサービス利用まで含む(例:新しいバッテリーを搭載したEVを使用した配車サービス)
システム境界を広く設定すれば、脱炭素効果を包括的に把握できる一方、データ収集の難易度が上がり、前提条件や仮定への依存度が増して不確実性が大きくなります。逆に狭い範囲で算定すれば、全体像は示しにくいものの、比較的精度の高い数値を得やすい利点があります。
③ 参照シナリオの定義の修正
本ガイダンスでは、参照シナリオの設定に関して、代替として最も可能性の高いシナリオであると同時に、可能な限り具体的かつ保守的であるべきと明言しました。 これは、削減貢献量の算定結果の信頼性を高めるとともに、導入されたソリューションの影響が過大評価され、グリーンウォッシュと批判されるリスクを防ぐための指針です。
④ データタイプ説明の追加
本ガイダンスでは、削減貢献量の算定におけるライフサイクル排出量評価で使用するデータは、一次データと二次データに分類され、企業の運営上または財務上の支配範囲や情報へのアクセスに応じて使い分けることが推奨されます。
- 企業の財務・運営上の支配下にある活動:一次データ(拠点別・企業別データなど)
- 企業の支配外の活動:
- 情報が入手可能な場合:企業固有データ(サプライヤーやステークホルダー由来)
- 情報が入手できない場合:二次データ
可能な限り一次データを優先的に使用し、ソリューションのデータ品質が参照シナリオよりも低くならないよう注意することが求められます。
⑤ ステップ「貢献の正当性を検証」
改訂前のガイダンスでは、削減貢献量の算定はステップ4「削減貢献量の算定」で完了しており、貢献の正当性(ゲート3)を再確認する必要はありませんでした。今回の改訂で新たに**「貢献の正当性を検証」**といったステップが追加され、企業はガイダンスで示された手順に沿って貢献の正当性を定量的に確認することが求められます。
最新ガイダンスを活かす実務と展望
改訂ガイダンスに加え、WBCSDは削減貢献量の算定をより実務に即して行えるよう、サポートツールとしてエクセル形式で作成された「テクニカルテンプレート」を提供しています。また、実際の算定事例をまとめた事例集も用意されており、企業が具体的な適用方法を理解しやすくなっています。 今後脱炭素への取り組みを示す上で、削減貢献量は日本企業にとっても重要な指標となり得ます。こうしたツールを活用しながら透明性ある算定・開示を進めていくことが期待されます。
出典:
WBCSD Guidance on Avoided Emissions
WBCSD Avoided Emissions Implementation Hub