【第1回】FTSE RussellのESGモデルを解説:構造と国際整合性

目次
本記事では、FTSE RussellのESG レーティングモデルについて、どのような構成で成り立っているのかを紹介するとともに、GRI(Global Reporting Initiative)、CDP(Carbon Disclosure Project)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などの国際的な情報開示フレームワークとの整合性にも注目し、評価の背景にある考え方や意義を概観します。
FTSE Russellとは?
FTSE Russellは、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)の一員であり、グローバルなインデックス・プロバイダーとして、世界中の投資家に革新的なベンチマーク、分析、データ・ソリューションを提供しています。同社のESGレーティングモデルは、企業のESGリスクとパフォーマンスを総合的に評価するための有力なツールであり、国際的な情報開示フレームワークとの整合性を持っています。
ESGレーティングモデルの構成
FTSE RussellのESGレーティングモデルは、企業の業種・事業特性に応じて、環境・社会・ガバナンスの3つのカテゴリ(Pillar)の下に設定された14のESGテーマ(Theme)をもとに評価を行います。各テーマには20〜30項目の調査項目(Indicator)が設定されており、それぞれ定性的または定量的な形式で構成されています。これにより、企業のESGリスクと対応状況が評価されます。
以下に示す各テーマの評価内容は一例であり、実際に適用される調査項目は、企業の属する業種(ICB:Industry Classification Benchmark)に応じて異なる場合があります。
環境(Environment)
- 生物多様性(Biodiversity):生態系の保護や生物多様性への影響の最小化。
- 気候変動(Climate Change):温室効果ガス排出量の管理や気候変動への適応策に関する取り組み。
- 汚染と資源(Pollution and Resources):廃棄物管理、資源の効率的な利用、環境への排出物の管理。
- サプライチェーン環境面(Supply Chain – Environmental):サプライチェーンにおける環境リスクの管理と持続可能な調達。
- 水の安全保障(Water Security):水資源の管理、水使用の効率化、水質保全。
社会(Social)
- 顧客に対する責任(Customer Responsibility):製品・サービスの安全性、顧客情報の保護、責任あるマーケティング。
- 健康と安全(Health and Safety):職場の安全衛生、従業員の健康管理。
- 人権と地域社会(Human Rights and Community):人権の尊重、地域社会への貢献、ステークホルダーとの関係。
- 労働基準(Labour Standards):労働条件、従業員の権利、労働時間や賃金の適正性。
- サプライチェーン社会面(Supply Chain – Social):サプライチェーンにおける社会的リスクの管理と倫理的な調達。
ガバナンス(Governance)
- 腐敗防止(Anti-Corruption):贈収賄の防止、倫理的なビジネス慣行の推進。
- コーポレートガバナンス(Corporate Governance):取締役会の構成、経営陣の監督、株主の権利保護。
- リスクマネジメント(Risk Management):企業全体のリスク評価と管理体制の整備。
- 税の透明性(Tax Transparency):税務戦略の透明性、適正な納税の実施。

図表1:FTSE Russell ESG Ratingsの構造 (出典:FTSE Russell)
これらのテーマを通じて、FTSE RussellのESGレーティングモデルは、企業のESGリスクと対応状況を総合的に評価し、投資家やステークホルダーに信頼性の高い情報を提供しています。
このレーティングを高めることで、企業は持続可能な経営を強化し、ESG評価に基づいて構成銘柄が選定される「FTSE4Good Index」や、日本企業に特化した「FTSE Blossom Japan Index」などへの組み入れが可能になります。これにより、ESG投資を重視する機関投資家からの資金流入が期待され、株式市場における企業評価や株価にも好影響をもたらす可能性があります。
国際的な情報開示フレームワークとの整合性
FTSE RussellのESG評価基準は、GRI、CDP、TCFDなど、主要な国際的情報開示フレームワークと高い整合性を持っています。これにより、企業はこれらの開示フレームワークに沿って情報開示を行いながら、スコアの向上につなげることが可能です。
例えば、GRIスタンダードは企業のサステナビリティ報告における国際的な基準であり、FTSE Russellの評価項目と多くの共通点があります。
また、CDPは気候変動、水資源、森林といった環境分野の情報開示を促進する国際的な非営利団体であり、FTSE RussellはCDPに提出された情報を企業評価に活用しています。
さらに、TCFDフレームワークは気候関連リスク・機会を財務的観点から開示することを推奨しており、FTSE Russellの「気候変動」テーマにおける評価観点と重なる部分が多く見られます。特に、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標といったTCFDの4つの柱は、FTSEの調査項目の構成にも影響を与えています。

図2:TCFD Recommendationに沿ったESG評価軸
このように、FTSE RussellのESGレーティングモデルは国際的な開示フレームワークとの整合性を重視しており、各種フレームワークに沿った情報開示を進めることが、企業にとってスコア向上への近道となります。
まとめ
FTSE RussellのESGレーティングモデルは、企業のESGリスクとパフォーマンスを総合的に評価するための有力なツールであり、国際的な情報開示フレームワークとの整合性を持っています。企業は、これらのフレームワークに基づいた情報開示を進めることで、FTSE Russellのスコアの向上を図り、持続可能な経営を実現することができます。
出典
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ESG投資について
JPX × FTSE Russell FTSE ESGレーティングとインデックスについて
ロンドン証券取引所グループ(LSEG) FTSE Russell ESGスコア
FTSE Russell FTSE Russell ESG Ratings Data Model: Methodology
Task Force on Climate-related Financial Disclosures(TCFD)Final Report: Recommendations of the TCFD