「日本をサステナビリティ・トランスフォーメーション先進国へ」

プロジェクト発足 トークセッションレポート

左より、伊藤忠商事株式会社 准執行役員 IT・デジタル戦略部長 兼 伊藤忠サイバー&インテリジェンス代表取締役社長 浦上 善一郎(うらかみ ぜんいちろう)氏、booost technologies株式会社 取締役 COO  大我 猛(おおが たけし)、booost technologies株式会社 代表取締役 青井 宏憲(あおい ひろかず)、元オムロン株式会社 サステナビリティ推進室長 劉 越(りゅう ゆえ)氏、一般社団法人ESG情報開示研究会 共同代表理事 日立製作所 サステナビリティ推進本部 主管 増田 典生(ますだ のりお)氏 
2024年11月28日、booost technologies株式会社(以下booost technologies)は、「日本をサステナビリティ・トランスフォーメーション先進国へ(以下、日本をSX先進国へ)」プロジェジェクトを発足しました。
(※1)サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは
社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指す。「同期化」とは、社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味している。(出典:
伊藤レポート3.0

SX推進の分岐点は2026年。「サステナビリティ2026問題」とは

日本をSX先進国へ トークセッション

はじめに、booost technologies取締役 COO 大我 猛(おおが たけし)から挨拶がありました。

本日、2024年11月28日、日本企業が持つサステナビリティ2026問題を解決すべく、「日本をSX先進国へ」プロジェクトを発足いたしました。

まず、サステナビリティ2026問題についてお伝えしたいと思います。

現在の地球環境を鑑みると、GHGの削減、Scope3への対応をはじめとして、サステナビリティに対する取り組みは企業にとって必要不可欠です。

 2026年前後にはCSRDとSSBJとの開示規制に対する開示義務化が集中しています。開示を義務化として捉えて最小限の対応をするか、あるいは機会として捉えて本質的で抜本的なSXに向けて体制を構築していくのか、これによって「今後の企業価値は大きく影響を受けるのではないだろうか」と、考えています。

2026年は、SXを推進するにあたって重要な分岐点になると考えています。一方で、まだまだその重要性が、世の中に認知されていない事は大きな課題です。

そうした背景から、本プロジェクトを発足させました。

本日は、一般社団法人ESG情報開示研究会 共同代表理事 日立製作所 サステナビリティ推進本部 主管 増田 典生様、伊藤忠商事株式会社 准執行役員 IT・デジタル戦略部長 兼 伊藤忠サイバー&インテリジェンス代表取締役社長 浦上 善一郎様、元オムロン株式会社 サステナビリティ推進室長 劉 越様(以下、敬称略)の3名にパネリストとしてご登壇頂き、SXをテーマにトークセッションを行いたいと思います。

SXとは、企業経営における 「Top of Top」 の最重要キーワード

一般社団法人ESG情報開示研究会 共同代表理事 日立製作所 サステナビリティ推進本部 主管 増田 典生 氏

まず、今回のプロジェクトの発足に際して実施された 「SX推進に関する日本企業の実態調査」 の報告と 「そもそもSXとは何か」 についてトークが交わされました。

東証プライムの上場企業の経営者、サステナビリティ部門の担当者、一般社員を対象に、SX推進に関する日本企業の実態調査を行いましたが、「SXとは何か」を理解していた会社員は回答の半数以下でした。

そこで、 「そもそもSXとは何か」 についてお聞きしたいと思います。

SXとはDXとか制度改革といった部分的なものではなく、企業経営そのものに対して、サステナビリティを中心としてトランスフォームする、つまり変容し変革することです。その際、大切な点は開示義務といった外部圧力によって行うのではなく、内発的な動機として進めていくことです。

個人的には、サステナビリティは企業経営における「Top of Top」の最重要のキーワードであると考えています。企業には事業戦略、財務戦略、開発戦略、調達戦略、人事戦略など様々な戦略がありますが、目的は持続的成長の1つに収斂します。つまり企業戦略が目指すところはサステナビリティであり、その観点で企業経営そのものを見直していくことがSXの本質だと考えています。

サステナビリティ経営は「Top of Top」の企業戦略との事ですが、世界と比較して日本の現状はいかがでしょうか。欧州ではSXに対する取り組みが進んでいると認識しています。グローバルの視点から俯瞰したとき、先進国の中における日本の位置付けについて教えていただけますか。

2024年の9月に、ESG情報開示研究会の活動として欧州を訪問しました。様々な機関、事業会社の経営層や機関投資家と意見交換する中で改めて感じたことは、欧州では情報開示やSXを企業価値の訴求を行うチャンスと捉えていることでした。SXを通して統合的な価値創造をナラティブにストーリー展開していく欧州企業の姿勢は、フラグメンタルつまり断片的で真面目な日本企業と比べて、極めて秀でていると思います。

企業のSXに対する 社員の認知向上の取り組み の鍵とは

元オムロン株式会社 サステナビリティ推進室長 劉 越 氏

続いて、日本企業におけるSXに対する認識の状況、認知向上を図る取り組みについて、元オムロン株式会社 サステナビリティ推進室長 劉氏にお聞きしました。

今回の調査では、日本の社会全体におけるSXに対する認識不足に加えて、サステナビリティ経営の重要性に対する社員の認知不足が指摘されています。グローバルの社員に対して、どの様にサステナビリティに対する認知を広めてこられたのでしょうか。

オムロンを退職して4ヶ月経ちましたが、改めて客観的に見ると「オムロンはサステナビリティに対する役員と社員の理解が高いのでは」と、感じています。経営トップが自ら旗を振っている事がありますが、大きく5つのポイントがあると考えています。

まず1つ目はオムロンには明確な企業理念がある事、2つ目は企業理念に基づきミッションを実践していく事を明確にするパーパス経営を実践しています。さらに3つ目は経営層がリーダーシップ、オーナーシップをとり、社員に取り組む姿勢を見せている点、4つ目が中期計画に対して、社員が自分ごととして取り組んでいる事です。5つ目が外部のステークホルダーに対して能動的に取り組んでいる事です。

さらにPL(損益計算書)/BS(貸借対照表)に対する責任と、中長期的なサステナビリティについては時間軸が異なるため、いつまで、誰が、どこまで、何をやればいいのかということを明確にし、現場でも取り組みに対して常に注視しています。

例えば新たな環境対応商品を研究開発から市場に投入する場合、非常に時間がかかるのですが、常にどれくらいのリソースで将来のために投資していくのか慎重に考えながら進めています。さらに私は毎年約400名の社員とサステナビリティに関わる対話をグローバルで続けることでサステナビリティに対する認知の向上を図ることができたと考えています。

SXに取り組もうとした時の短期的なPL/BSに対するインパクトと、 サステナビリティ経営がもたらす中期的な効果のバランスをどうやって取っていくのか。その中でデータの不足や収集に対する課題解決が重要という事ですね。

SX推進の課題は データの収集

伊藤忠商事株式会社 准執行役員 IT・デジタル戦略部長
伊藤忠サイバー&インテリジェンス代表取締役社長 浦上 善一郎 氏

続いてSXを推進するにあたって、企業が直面するデータ収集の課題について意見が交わされました。

今回の調査結果によると、サステナビリティに関わるデータについて、大きな3つの課題が顕在化しています。

1つ目は経営判断へのデータの活用であり、回答者の64%が課題と回答しています。2つ目は戦略策定で53%、3つ目がデータ管理で50%となっています。戦略の策定はさることながら、財務情報と比べても迅速な集計が難しいといった、データの収集、管理といった業務レベルの課題が存在します。

この点について、伊藤忠商事株式会社 准執行役員の浦上様にお伺いします。

まず、弊社の経営方針についてお伝えしたいと思います。収益をあげ、株主に対して還元するといった財務的な定量面は当然ながら、非財務的な定性面の達成も非常に重要な経営方針です。

こうした中、サステナビリティ関連の効率的なデータ収集と管理は重要な課題です。弊社では限られた人的リソースで、約600の拠点からExcelとメールを利用してサステナビリティ関連のデータを収集していました。

しかし、こうしたバケツリレー方式によるデータ収集は多大な時間を要し、バージョン管理も極めて煩雑です。本来注力すべきデータ分析や次年度以降の戦略立案に十分なリソースを割けない状況で、非財務情報の開示要請が強まる中、従来の管理手法では対応が困難になっていました。

課題解決のため、booost technologiesのシステム※2を導入しましたが、Excelベースでデータを提出していたユーザーサイドには、当初躊躇がありました。

しかし、業務主幹となるサステナビリティ推進部と、システム主幹となる部門とITデジタル戦略部が共通認識を持ち、連携することでスムーズな導入に至りました。2つの部署が両輪となって進めることでセキュリティやパフォーマンスに対する懸念も払拭して進める事ができましたね。

選んだ理由は、1点目は、業務のあるべき姿としてのベストプラクティスを持っていること。2点目は、当社のニーズに応じたカスタマイズが可能なこと。3点目は、SXに関するコンサルティング部隊、知見を持っていること。4点目は、今後必要となる人的資本を含む非財務情報全般への拡張性があることです。

(※2) サステナビリティERP「booost Sustainability Cloud」とは
自社およびサプライヤーのサステナビリティ情報を管理する“統合型SXプラットフォーム”です。国際開示基準に準拠した環境、社会、ガバナンス等の1,200以上のデータポイントに対応したサステナビリティ関連情報の収集、集計を自動化し、リアルタイムでのモニタリングを可能にします。グローバルに対応したデータガバナンス機能を搭載しており、グループやサプライチェーンを含む組織において多階層の承認フローの実装が可能であるほか、第三者保証等にも対応すべく設計したプラットフォームであり、サステナビリティ関連情報の開示に向けて発生する各業務を効率化・最適化する機能をフェーズ毎に包括的に提供しています。提供開始以降、80ヶ国以上、大企業を中心に約2,000社(186,000拠点以上。2024年11月末時点)に導入されています。

https://booost-tech.com/

サステナビリティ経営に向けた データの効果的な利活用

一方で重要な点は、収集したサステナビリティ関連のデータを効果的に経営に利活用する事です。この点について、改めて増田氏に伺いました。

短期的な収益(PL/BS)と中長期的な企業価値向上を結びつけ、データを経営の意思決定に有効活用し、サステナビリティ経営を実践していくことが重要だと考えます。経営面に対する効果的なデータの利活用について伺えますでしょうか。

おっしゃることは極めて重要な論点かと思います。

まずは統合的なデータ収集が不可欠です。現在、多くの企業では人事・財務・調達など各部門のシステムが個別最適化された状態で運用されています。

一方で、サステナビリティ関連データは部門横断的に横串で収集し、分析することが必要です。ESG情報開示研究会が実施した44社へのアンケート調査からも、統合的なデータ収集の不備が明らかになっています。

次に、効果的なデータの活用については、2つの重要な視点があります。

1つ目は時間軸の整理です。直近の意思決定に必要なデータと、中長期的な経年変化を追跡するデータを体系的に蓄積していくこと。2つ目は、データの結合性(コネクティビティ)の確保です。従業員満足度やダイバーシティ、財務指標などの各種データが、企業価値にどのように影響しているかを分析することで、より戦略的な意思決定が可能となると考えています。

こうした課題に対しては、DXやAIを活用した統合的なデータマネジメント基盤の構築が、今後のサステナビリティ経営の要となるのではないでしょうか。

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